米国

FTC、労働者及び競争に悪影響を与える競業避止義務を禁止する規則案を提案

2023年1月5日 米国連邦取引委員会 公表

原文
【概要】

 連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は、雇用主による従業員への競業避止義務の賦課を禁止する新規則を提案した。競業避止義務は、賃金を抑制し、イノベーションを阻害し、起業家の新規事業立上げを妨げることとなる、広く蔓延した総じて搾取的な慣行である。FTCは、このような慣行を禁止することにより、賃金が1年間に約3000億ドル上昇し、約3000万人のアメリカ国民にとって就業機会の拡大につながり得ると推定している。


 FTCは、競業避止義務が「不公正な競争方法(unfair method of competition)」に該当し、連邦取引委員会法(以下「FTC法」という。)第5条に違反するとの予備的な認定に基づき、本規則案について意見募集を行っている。


 リナ・カーンFTC委員長は、次のように述べた。

「転職の自由は、経済的自由及び競争的で成長力のある経済の基盤となるものである。競業避止義務は、労働者の自由な転職を妨げ、賃金の引き上げや労働条件改善の機会を奪うほか、事業者が事業を立ち上げ、拡大するために必要な人材確保の機会を奪っている。FTCの新規則案は、このような慣行を終わらせることにより、より大きなダイナミズム、イノベーション及び健全な競争を促進するものである。」「事業者は、ヘアスタイリストや倉庫作業員から医師や企業の幹部まで、業界や職層を問わず労働者に競業避止義務を課している。多くの場合、雇用主はその強い立場を利用して、労働者に競業避止義務を課す契約書への署名を強要している。競業避止義務は、労働者がより良い就職機会を求めることを妨げ、雇用主が最高の人材を雇用することを妨げることにより、米国の労働市場における競争を制限している。」


 エリザベス・ウィルキンス政策企画室長(Director of the Office of Policy Planning)は、次のように述べた。

「調査の結果、雇用主が競業避止契約を用いて労働者の移動を制限することは、契約対象の労働者の賃金を著しく低下させるだけでなく、競業避止契約の対象でない労働者や州法によって強制力のない競業避止契約の対象者である労働者の賃金をも抑制していることが明らかになった。

 本規則案は、雇用主がその強大な交渉力を濫用して労働者の就職機会を制限し、競争を阻害することができないようにするものである。」


 同調査の結果、競業避止義務は、起業志望者が競合する企業を設立することを妨げたり、労働者が新規参入事業者に革新的なアイデアを持ち込むことを妨害したりするなど、様々な形でイノベーションやビジネスの活力を阻害することも分かった。新規参入が少なく、集中度が高い市場では、ヘルスケア分野に見られるように、最終的には消費者がより高い価格に直面し、被害を受ける。


 FTCの規則案では、こうした問題に対処するため、雇用主による競業避止義務条項の使用を原則として禁止している。具体的には、FTCの規則案は、雇用主による以下の行為を違法としている。

 ○労働者と競業避止義務契約を締結する又は締結しようとする行為

 ○労働者と締結した競業避止義務契約を維持する行為

 ○一定の状況下で、労働者が競業避止義務の対象であることを労働者に示す行為


 本規則案は、フリーランスや有給・無給にかかわらず雇用主のために働く全ての者に適用される。また、雇用主は、既存の競業避止義務を撤回し、競業避止義務が無効となったことを労働者に積極的に通知することが義務付けられる。

 本規則案は、原則としては、秘密保持契約のような他の種類の雇用制限には適用されないが、その他の種類の雇用制限であっても、その範囲が非常に広く、競業避止義務として機能する場合は、この規則の対象となる可能性がある。


 本件に関する立法案公告(notice of proposed rule-making:NPRM)は、不公正な競争方法を禁止するFTC法第5条を活性化させるというFTCの最近の声明と整合するものである。近年、FTCは、FTC法第5条の権限を用いて、事業者が従業員にとって負担となる競業避止義務を課すことを禁止している。ある案件で、FTCは、ミシガン州の警備会社とその主要な幹部が低賃金で働く従業員に対して競業避止義務を強制しているとして、是正措置を講じた。また、米国最大のガラス容器メーカー2社に対しても、競争を制限し、新規事業者が参入に必要な人材を雇用することを妨げているとして、従業員に対する競業避止義務の賦課を停止するよう命じた。本件に関するNPRM及び最近の法執行は、労働市場における公正な競争を促進するためにあらゆる手段及び権限を用いるという、FTCの広範な取組を前進させるものである。


 FTCは、FTCの規則制定手続の第一段階であるNPRMの公表について、3対1の賛成多数で決定した。カーン委員長、レベッカ・スローター委員、アルバロ・ベドヤ委員が意見を公表した。スローター委員は、べドヤ委員とともに追加の意見も公表した。クリスティーン・ウィルソン委員は、反対票を投じるとともに、反対意見を公表した。


 本件に関するNPRMは、本規則案に関する一般国民からの意見を募集している。FTCは、提出された意見を検討し、当該意見及びFTCによる本件の更なる分析に基づいて本規則案を変更する可能性がある。意見募集期間は、2023年3月10日までである。

ページトップへ