米国

米国司法省、グーグルのデジタル広告技術の独占行為に対して民事訴訟を提起

2023年1月24日 米国司法省 公表

原文
【概要】

1 概要
 米国司法省(以下「DOJ」という。)は、2023年1月24日、シャーマン法第1条(共同行為)及び第2条(独占化又は独占化の企図)に違反し、デジタル広告に関連する複数の製品市場を独占したとして、バージニア州東部地区連邦地方裁判所に、グーグルに対する民事訴訟を提起した。本件訴訟には、カリフォルニア州、コロラド州、コネチカット州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ロードアイランド州、テネシー州及びバージニア州の司法長官が参加している。
 
2 違反行為の概要等
(1)グーグルは、媒体社(website publisher)が広告枠を販売し、また、広告主が広告枠を購入し潜在的な顧客に到達するために欠くことのできない「アドテック・スタック(ad tech stack)」と総称される重要なデジタル広告技術を独占している。媒体社は、アドテクツールを用いて得た広告収入により、活気のあるオープンなウェブ環境の創造・維持を支えており、これにより、一般市民による思想、芸術的表現、情報、商品及びサービスへの前例のないアクセスが可能となっている。DOJ及び各州司法長官は、本件訴訟を通じて、市場(訳注:訴状では、①媒体社側アドサーバー(publisher ad servers)、②アドネットワーク及び③アドエクスチェンジの各製品市場を関連市場として画定している。後記(4)も参照。)における競争を回復し、衡平法上の救済及び金銭的救済を求める。
 
(2)グーグルは、過去15年間にわたって、①買収を通じてアドテク技術を有する競争事業者を無力化し又は排除すること、②デジタル広告市場全体にわたって市場支配力を行使し、より多くの媒体社及び広告主に対して自社製品の使用を強制すること及び③競合する製品の使用を妨げることから成る反競争的かつ排除的な行為を行ってきた。こうした行為により、グーグルは、媒体社及び広告主が利用するツールや、広告オークションを実施するアドエクスチェンジにおける支配力を強化した。
 
(3)グーグルは、現在、①ほぼ全ての主要な媒体社がウェブサイト上の広告枠を販売するために使用している媒体社側アドサーバー、②大小を問わず多数の広告主による広告枠の購入を支援するアドネットワーク、及び③広告枠について買手と売手をマッチングするためのリアルタイムオークションを行うアドエクスチェンジを支配している。
 
(4)グーグルによる反競争的な行為には、以下のものが含まれる。
ア 競争事業者の買収
 媒体社が広告枠を販売するために使用する主要なデジタル広告ツールを支配するために、(DoubleClick等関連企業の)買収を連続して行った。
イ グーグルのデジタル広告のツールの採用の強制
 取引先として不可欠な広告主の需要について、広告リクエストを行う場をグーグルのアドエクスチェンジに限定し、同アドエクスチェンジに対するリアルタイムでのアクセス(訳注:リアルタイムビッディングの仕組みにおいて、アドエクスチェンジから送付される広告リクエストの受取りを指す。)をグーグルの媒体社側アドサーバーの利用者に限定することにより、買収により獲得したデジタル広告のツールに媒体社を囲い込んだ。
ウ オークションにおける競争の阻害
 媒体社の広告枠に関するリアルタイムビッディングは、グーグルのアドエクスチェンジにおいてのみ実施されるものとし、競争事業者がアドエクスチェンジについてグーグルと同じ条件で競争することを阻害した。
エ オークションの操作
 競争を制限し、競争事業者が事業上の規模を拡大する機会を奪い、競合する技術の台頭を防ぐために、オークションの仕組みを操作した。
 
(5)グーグルは、市場を違法に独占した結果、デジタル広告技術製品の利用を通じて支払われる広告費のうち平均30%以上を収入として得ているほか、一部の取引、また、特定の媒体社や広告主からは、それよりもはるかに多くの収入を得ている。グーグルの反競争的行為は、媒体社、広告主及び競争事業者による代替技術の採用を妨げている。
 
(6)DOJは、グーグルの反競争的行為を是正するため、衡平法上の救済(訳注:行為の差止め、デジタル広告に関する事業の売却等を含む。)及びディスプレイ広告に対する過度の支払によって連邦政府が被った損害に対する三倍額損害賠償の双方を求めている。DOJが民事の反トラスト法違反で損害賠償を求める独占事件としては、約半世紀ぶりとなる。


米国商務省電気通信情報庁、モバイルアプリ市場の競争力強化に向けた変更を提言

2023年2月1日 米国商務省電気通信情報庁 公表

原文
【概要】

1 概商務省電気通信情報庁(Department of Commerce’s National Telecommunications and Information Administration、以下、「NTIA」という。)は、2023年2月1日に新たな報告書を発表し、現在のモバイルアプリストアモデルは、消費者及び開発者にとって有害であるとし、これを是正するための政策変更を提言した。
 
 モバイルアプリは、日常生活の多くの場面において不可欠なツールとなった。NTIAは、報告書「モバイルアプリエコシステムにおける競争」の中で、アップル及びグーグルの2社が、個人及び事業者が依存するアプリのゲートキーパーとして機能していると指摘した。
 アップル及びグーグルの方針は、価格を高騰させ、イノベーションを抑制し、消費者に害を及ぼすおそれがある。
 
 NTIAは電気通信及びインターネット政策に関する大統領の主要なアドバイザーであるが、その報告書及び提言は、バイデン政権が推進するイノベーション及び競争の促進、経済的な競争条件を公平にするための政策の一環を成すものである。
 
 バイデン大統領は、ウォール・ストリート・ジャーナルの論説欄に寄稿し、「我々はデジタル分野により多くの競争を取り戻す必要がある。」と述べられている。
 
 通信・情報担当の商務次官補でNTIA長官であるアラン・ディビットソン氏は、次のように述べた。
 「アプリは、道順の検索から、愛する人とのチャットまで、消費者にとって重要なツールであるとともに、オンラインでビジネスを営む上でも不可欠な要素である。モバイルアプリ市場における競争を維持することは、これまで以上に重要である。NTIAの提言は、全ての人に対して、アプリのエコシステムをより公正で革新的なものにする。」
 
 Bharat Ramamurti国家経済会議副議長は、次のように述べた。
 「本報告書は、消費者、スタートアップ企業及び中小企業に利益をもたらすアプリ市場における競争及びイノベーションを促進する重要な方法を明らかにしている。」
 
 NTIAは、広範なアウトリーチ活動及び多様な利害関係者からの150件以上の意見を含むインプットを得て、アプリのエコシステムにおける競争力強化を阻む2つの重要政策の問題点を明らかにした。
 
1 消費者は、アップル及びグーグルが支配するアプリストアモデルからアプリを入手するしかない。これは、イノベーターが消費者に到達するための手段が極めて限定されていることを意味する。
2 アップル及びグーグルは、アプリ開発者が競い合うことを、アプリの機能制限、時間がかかる上に不透明な審査手続などの技術的な制限を課すことによって障壁を築いている。
 
 本報告書は、現在のアプリストアの利用規約は、より厳格なセキュリティ管理の可能性など、消費者にとってのメリットもある程度はあるとした一方、それによるコストがメリットをはるかに上回ること、より競争の活発な環境においてもプライバシー及びセキュリティを保護することが可能であることを明らかにした。
 
 本報告書は、ユーザーのためにアプリのエコシステムを改善するため、以下のような変更を提言する。
 
1 消費者が、自己のデバイスをより自由にコントロールできるようにする。
 デフォルトのアプリを選択したり、別のモバイルアプリストアを利用する選択肢を持ち、プリインストールされたアプリを削除したり、見えないようにしたりすることができるようにする。
2 アプリストアの運営者が、反競争的な方法でアプリを「自己優遇」できないようにする。  
 アプリストアの運営者は、検索結果の表示方法において自社のアプリを優遇したり、自社のアプリと類似する他のアプリを差別したりすることができないようにする。
3 アプリストアの運営者は、消費者がアプリをダウンロード及びインストールする際の代替手段に関する制限を撤廃する。
 プライバシー及びセキュリティの保護に適切な幅を持たせつつ、立法又は規制措置により、サイドローディング(訳注:既存のモバイルアプリストア以外の手段でアプリをインストールすること)、代替アプリストア及びウェブアプリに対する制限を禁止する。
4 アプリ内課金に関する制限に対処する。
 これは、アプリストア運営者のアプリ内決済システムを利用することを開発者に要求することを禁止することで実現できる。
 
 報告書で述べられているとおり、アプリのエコシステムにおける競争を促進するためには、新たな法律及び反トラスト法の追加的な執行が必要である。本報告書で明らかにした対策は、より大きな競争、イノベーション並びにユーザー及び開発者の潜在的利益のために、アプリのエコシステムを開放することに役立つ。NTIAは、バイデン大統領が2021年に発表した「競争に関する大統領令」に基づき、経済全体にイノベーション及び競争を促進させることを約束し、本報告書を作成した。
 
 NTIAの提言が実現すれば、モバイルアプリのエコシステムに、より公正なルールが導入され、消費者の利益及び競争の促進につながる。
 
NTIAについて
 米国商務省に属するNTIAは、電気通信及び情報政策に関する問題について大統領に助言を行う行政機関である。NTIAの活動内容及び政策立案は、米国におけるブロードバンドインターネットアクセスの普及拡大、全てのユーザーによる周波数帯域の利用拡大、公共安全通信の推進並びにインターネットがイノベーション及び経済成長の原動力であり続けることを主眼としている。

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