米国
FTC、セブン・イレブンに対して、2018年の同意命令違反で7700万ドルの民事制裁金の支払を求め提訴
1 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は本日(2023年12月4日)、コンビニエンスストア・チェーンであるセブン・イレブンが、FTCに事前に通知することなく、フロリダ州のセントピーターズバーグに所在するガソリンスタンドを併設するコンビニエンスストア(以下「ガソリンスタンド併設コンビニ」という。)を買収したことにより、2018年のFTCの同意命令に違反したとして、セブン・イレブンを提訴した。
2 FTCの訴状には、セブン・イレブンの親会社である株式会社セブン&アイ・ホールディングスの名前も挙げられており、セブン・イレブンによるセントピーターズバーグの店舗の買収は、2018年の同意命令に明白に違反し、反競争的であり、これにより、セブン・イレブンがセントピーターズバーグの店舗の近隣地域でより高い燃料価格を課すことをおそらく可能にした。FTCは、セブン・イレブンが(同意命令上)必要とされている事前通知を行わずに同店舗を買収した時点から4年間の違反期間の民事制裁金を求めており、その額は最大7700万ドル以上となる。
3 上記同意命令は、セブン・イレブンが2018年にSunoco(以下「スノコ」という。)からガソリンスタンドを1,000店舗以上、併設されるコンビニエンスストアとともに33億ドルで買収した際に出されたものである。セブン・イレブン及びセブン&アイ・ホールディングスは、この買収により特定の地方市場におけるガソリン及びディーゼル燃料の小売市場における競争を阻害し、その結果、消費者がより高い燃料価格を支払うことになるというFTCの懸念を解消するための同意命令に同意した。この同意命令では、セブン・イレブンがセントピーターズバーグの店舗周辺を含む、多くの地方市場でスノコのガスリンスタンド併設のコンビニを買収することを禁止し、セブン・イレブンが特定の地方市場で特定の第三者のガスリンスタンド併設のコンビニの権益を取得する前にFTCに通知することを10年間義務付ける条項も盛り込まれた。
4 訴状によると、セブン・イレブンによるセントピーターズバーグの店舗の買収は、FTCへの事前通知なしに買収できない店舗として具体的に記載されていたため、2018年の同意命令に対する明白な違反となる。セブン・イレブンはこの買収に関連して虚偽のコンプライアンス報告書をFTCに提出した。FTCは、公共の利益を保護し、全米で燃料小売店を買収し続けているセブン・イレブンやその他の事業者が将来の同意命令に背くことを抑止するため、セブン・イレブンの同意命令違反に対して民事制裁金の支払を求めている。
5 FTCは3対0の賛成多数で議決し、民事制裁金を求めることを承認した。訴状はコロンビア特別区連邦地方裁判所に提出された。
FTC及びDOJ、2023年合併ガイドラインの成案を発表
2023年12月18日、連邦取引委員会(以下「FTC」という。)及び司法省反トラスト局(以下「DOJ」という。)は、2023年合併ガイドライン成案(以下「合併ガイドライン」という。)を公表した。
1 公表文の概要
(1)2023年12月18日、FTC及びDOJは、共同で合併ガイドラインを公表した。合併ガイドラインは2年にわたる社会的な議論の集大成であり、現代における市場の現実、経済や法の進展、多様な当事者の生きた経験を反映したものである。
(2)FTCのリナ・カーン委員長は、「公正で開かれた競争的な市場は米国のダイナミックで繁栄的な経済にとって必要不可欠であり、違法な合併を取り締まることは、有害な合併に対する我々の防衛の最前線である。合併ガイドラインは、現代経済における企業のビジネスの在り方の新しい現実を反映するとともに、制定法と判例に沿ったものとなっている。米国労働者、消費者、起業家、農家、企業経営者、その他一般市民から提出された何千もの意見に感謝している。これらの意見はガイドラインに直接反映されるとともに、我々が現実の利害関係をより良く理解しながらこの仕事を進めることを可能にした。」と述べた。
(3)メリック・ガーランド司法長官は、「合併ガイドラインは、DOJが現代経済において、違法な反競争的慣行の顕在化から米国民を守る方法について透明性を提供するものである。合併ガイドラインを2023年の夏に公表して以来、我々は全米の利害関係者と連携し、その結果として、合併ガイドラインをより強固なものとした。DOJは引き続き、競争を保護し、全ての米国民を守るために強力に法律を執行していく。」と述べた。
(4)ジョナサン・カンター司法省反トラスト局長は、「本日公表する合併ガイドラインは、法律に忠実であり、現代の市場において競争がどのように行われているかを反映するものである。合併に対する執行が競争の保護を確実にすることは、我々の北極星である。競争的な市場と全ての米国民のための経済的機会は密接な関係にある。
我々は合併ガイドラインをまとめるにあたり、全米の作家、看護師、農家、その他関係する市民から意見を聞くことができたことに感謝している。彼らの意見は非常に貴重であり、その結果、我々の執行はより良いものになるだろう。」と述べた。
(5)本日発表された合併ガイドラインは、2023年7月19日に公表された合併ガイドライン案を修正したものであり、FTC及びDOJが3回開催したワークショップにおける弁護士、エコノミスト、学者、執行当局、その他政策立案者など広範な参加者を含む、多くの意見に対応したものである。合併ガイドラインは、価格競争から雇用条件競争、プラットフォーム競争に至るまで、ダイナミックで複雑な競争の性質を重視している。これにより、競争当局が決定を下す際に、米国現代経済における実態を評価することができ、合併の執行があらゆる形態の競争を確実に保護することができる。
(6)競争当局は反トラスト法やその他の競争関連の連邦法の執行を通じて競争を保護している。1968年以来、競争当局は執行の透明性を高め、認識を促すために合併ガイドラインを公表してきた。これまでも、1982年、1984年、1992年、1997年、2010年、2020年など、法律や市場の現実の変化を反映させるために、合併ガイドラインを定期的に改正してきた。
(7)今回の合併ガイドライン改正手続は2022年1月から開始された。FTC及びDOJは2010年の水平合併ガイドライン及び2020年の垂直合併ガイドラインの改正の可能性を評価するイニシアティブを公表するとともに、合併の執行の近代化に関する意見募集を行うことを公表したところ、FTC及びDOJに5,000件以上の意見が寄せられた。意見では、業界を超えた過度な市場集中が強調され、合併への執行を強化するように求めるものが圧倒的であった。また、4回にわたる公聴会では、企業経営者、労働者、弁護士らが、食品から農業、ヘルスケアに至るまで、合併・買収が、開かれて活気に満ちた競争のある市場を弱体化させる可能性について強調した。
(8)様々な方面からの意見、競争当局の経験及び専門知識、そして市場、法律及び経済学の進展に基づき、FTC及びDOJは、2023年7月に合併ガイドライン案を共同で公表したところ、30,000件を超える意見が、消費者、労働者、学者、団体、弁護士、執行当局、その他様々な分野の米国経済に関連する人々から寄せられた。また、FTC及びDOJはワークショップを3回開催し、合併ガイドライン案について議論を行い、これらから得られた意見も本日の合併ガイドラインの発表に至るまでの検討の過程で反映された。
(9)合併ガイドラインは、以前の水平・垂直合併ガイドラインと同様に、それ自体に法的拘束力はないが、競争当局の意思決定プロセスの透明性を向上させるものである。
(10)合併ガイドラインは、FTC及びDOJによる執行措置を事前に決定するものではない。合併ガイドラインは、合併審査を行う際に、競争当局が考慮する事項や枠組みを示すものだが、執行の決定を行う際にはいずれのケースであっても事実に左右され、引き続き当局の裁量及び判断が必要となる。
2 合併ガイドラインの概要(合併ガイドラインの「1. Overview」に基づく)
合併ガイドラインでは、合併審査における11の原則を示しているところ、それらの概要は以下のとおり。
原則①:合併が高度に集中的な市場における集中を著しく増大させる場合、合併が違法性の推定を惹起
市場集中度は合併が競争に影響を及ぼす可能性について、しばしば有用な指標となる。したがって、FTC及びDOJは、十分な反証や反論がない限り、競争者間の合併が著しく集中度を高め、高度に集中した市場を形成又は更に統合する場合、競争を実質的に減退させる可能性があると推定する。
原則②:合併が事業者間の実質的な競争を排除する場合、合併が法律に違反する可能性
合併は合併当事者間の競争を必然的に排除することになるため、合併当事者間の競争が実質的なものであるかどうかを審査する。
原則③:合併が協調のリスクを増大させる場合、合併が法律に違反する可能性
FTC及びDOJは、合併が反競争的な協調のリスクを増大させるかどうかを審査する。高度に集中的な市場や、過去に反競争的な協調が行われたことのある市場は、本質的に脆弱であり、反証の提示次第であるものの、合併が競争を実質的に減退させる可能性があることが前提として推測される。高度に集中的ではない市場では、FTC及びDOJは、市場構造だけからよりも、事実が協調のリスクを示唆するかを審査する。
原則④:合併が集中的な市場における潜在的な参入者を排除する場合、合併が法律に違反する可能性
FTC及びDOJは、集中的な市場において合併が(a)潜在的な参入者を排除するか、又は(b)潜在的な参入者とみなされる者からの現在の競争圧力を排除するかを審査する。
原則⑤:合併が競合事業者が競争のために用いる製品やサービスへのアクセスを制限する可能性がある場合、法律に違反する可能性
合併により、競合事業者が競争のために用いる製品やサービスへのアクセスを制限する可能性のある企業が生じる場合、FTC及びDOJは、当事会社が競合事業者のアクセスを制限したり、競争上機微な情報への当事会社によるアクセスを増加させたり、競合事業者が市場に投資することを抑止したりするリスクがどの程度生じるかを審査する。
原則⑥:合併が支配的地位を強化又は拡大させる場合、合併が法律に違反する可能性
FTC及びDOJは、合併当事者の一方が既に支配的地位を有しているかを審査し、合併が支配的地位を強化するか、それによって独占を生み出す傾向にあるかどうかを審査する。また、合併がその市場支配的地位を拡大し、競争を実質的に減退させるか、又は他の市場で独占を生み出す傾向があるかどうかも審査する。
原則⑦:ある産業が統合傾向にある場合、合併が競争を実質的に減退させ又は独占を生み出す傾向にあるリスクが増加するかを検討
統合傾向は、合併がもたらす競争に対するリスクを理解する上で重要な要素となり得る。FTC及びDOJは、原則①~⑥の枠組みを適用する際に、この証拠を慎重に検討する。
原則⑧:合併が一連の複数の買収の一部である場合、FTC及びDOJは一連の合併を審査
個々の合併が、事業者による複数の買収の一部である場合において原則①~⑥の枠組みを適用する際に、FTC及びDOJは、一連の買収の累積的効果(cumulative effect)を考慮する。
原則⑨:合併が多面的プラットフォームに関連する場合、FTC及びDOJはプラットフォーム間、プラットフォーム上又はプラットフォームを代替するための競争を審査
多面的プラットフォームには、競争を悪化させたり加速させたりする特徴がある。FTC及びDOJは、原則①~⑥の枠組みを適用する際に、多面的プラットフォームの特徴的な性質を考慮する。
原則⑩:合併が競合する買い手を含む場合、FTC及びDOJは、労働者、クリエーター、供給者又は他の提供者の競争を実質的に減退させる可能性があるかを審査
FTC及びDOJは、原則①~⑥の枠組みを適用し、使用者を含む買い手間の合併が競争を実質的に減退させるか、独占を生み出す傾向があるかどうかを評価する。
原則⑪:買収が部分的所有権や少数株主持ち分を含む場合、それらの競争への影響を審査
FTC及びDOJは、原則①~⑥の枠組みを適用し、部分的所有権や共有持ち分の取得が競争を実質的に減退させる可能性があるかどうかを評価する。