2024年6月


米国

DOJ及びFTC、ホテル客室のアルゴリズム価格カルテル訴訟に関して書面を提出

2024年3月28日 米国司法省 公表

原文(DOJ公表文)

(注)本文は、上記DOJの公表文を基に作成したものであるが、FTCも同日、同趣旨の公表をしている。

(FTC公表文)

【概要】

1 米国司法省(以下「DOJ」という。)及び米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。以下「両当局」と総称する。)は、Cornish-AdebiyiとCaesars Entertainmentの訴訟において、ホテルが客室価格について共謀することは許容されず、実在の人物が行った場合に違法となる行為をアルゴリズムを使用して行うことは許されないとする国家の利益に関わる争点に関する意見書である利害関係説明書(statement of interest 以下「本説明書」という)をニュージャージー州地方裁判所に提出した。


2 価格を決定するためにアルゴリズムを使用する事業者が経済界全体で増えている。少数のアルゴリズム・プロバイダーが市場の主要な部分に影響を与えることができれば、競合事業者間でアルゴリズム・プロバイダーを利用して容易に共謀することができる。このリスクは、広範な産業で市場の集中が進むにつれてさらに大きくなる。競合する多数のホテルが、同じアルゴリズムを用いて推奨価格を求めると、旅行者が低価格のホテルを求めて比較検討することが困難になる。 

3 両当局は本説明書の中で、競争法の2つの重要な側面を強調している。第一に、原告はシャーマン法第1条に基づく合意を主張するために、競合事業者間の直接的なコミュニケーションを特定する必要はない。特に、アルゴリズム・プロバイダーが競合事業者と協調して行動していると疑われる場合はそうだとしている。たとえ競合者間で直接コミュニケーションをとらなくても、従業員経由であれ、アルゴリズム経由であれ、競争者間で協力して価格を設定することは違法である。第二に、同じ推奨価格、標準小売価格、又は価格設定アルゴリズムを使用する旨の合意は、共謀者が自由に価格設定できる余地をある程度保持している場合でも違法となるとしている。価格検討の最初の価格を設定又は推奨することは、たとえそれが消費者が最終的に支払う価格でなくても、反トラスト法に違反する可能性がある。

4 両当局は、アルゴリズムによる共謀から消費者を保護することに強い関心を持っており、本説明書は、価格設定にアルゴリズムを使用する事業者に指針を提供するものである。両当局は最近、住宅市場におけるアルゴリズムによる価格カルテル事件についても利害関係説明書を提出し、DOJ反トラスト局は昨年、別の不動産に関するアルゴリズムによる価格カルテル事件でも利害関係説明書及び覚書を提出した。

FTC、競業避止義務に関する規則成案を公表

2024年4月23日 米国連邦取引委員会 公表

原文

【概要】

1 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は2024年4月23日、労働者の転職の自由の保障、イノベーション・新規事業形成の促進を通じて競争の活性化を図る、競業避止義務に関する規則成案を公表した。 


2  FTCのリナ・カーン委員長は、「競業避止義務条項は、賃金を低く抑え、新しいアイデアの創出を抑制することで米国経済の活力を奪っており、競業避止義務条項が禁止されれば、年間8,500以上の新規事業が創出される。競業避止義務を禁止するFTCの最終規則は、米国人が新たな仕事を求めたり、新しいビジネスを始めたり、新しいアイデアを市場に出す自由を保障するものである。」と述べた。

3  FTCは、競業避止義務を禁止する最終規則により、新規事業が年間2.7%増加し、その結果、毎年8,500以上の新規ビジネスが追加的に創出されると推定している。また、労働者の平均賃金の年間524ドルの増加、今後10年間で最大1940億ドルの医療費の削減、イノベーションの促進及び今後10年間で毎年17,000~29,000件の特許の増加の効果があるとも見込んでいる。 

4  競業避止義務は、労働者が新たな仕事に就いたり、新たなビジネスを始めることを妨げる契約条件として広範に実施されており、搾取的な慣行である。競業避止義務は多くの場合、労働者を辞めたい仕事にとどめさせたり、低賃金の分野への転職や離職に追い込ませたり、転居を余儀なくさせたり、高額な訴訟から身を守ることを強要するなど重大な損害やコストを負担することを強いられている。推定3000万人の労働者(米国人のほぼ5人に1人)が競業避止義務を課せられている。 

5  FTCの最終規則では、大多数の労働者に対する既存の競業避止義務は、規則の効力発生以降、効力を失うことになるとしている。FTCの最終規則では、労働者の0.75%未満である上級幹部(senior executive)に対する既存の競業避止義務は引き続き有効であるが、たとえ上級幹部に対するものであっても、雇用者は新たな競業避止義務の締結や執行を行うことは禁止される。また、雇用者は、既存の競業避止義務に拘束される上級幹部以外の労働者に対して、競業避止義務が効力を有さない旨の通知を行うことが義務付けられる。

6  2023年1月、FTCは規則案に対する90日間の意見募集手続を行ったところ、2万6000件以上の意見のうち、2万5000件以上がFTCが提案する競争避止義務の禁止規則を支持するものであった。FTCは各意見を慎重に検討した上、FTCの最終的な規則制定プロセスに反映し、これらの意見を踏まえ最終規則を制定した。 

7  最終規則において、FTCは雇用者が労働者と競業避止義務を締結し、それを強制することは不公正な競争方法であり、FTC法第5条に違反するとした。 

8  FTCは、競業避止義務が労働者と雇用者との効率的なマッチングを阻害することにより、労働市場における競争条件に悪影響を与えるおそれがあるとともに、製品・サービス市場の競争条件にも悪影響を及ぼし、新規事業の創出やイノベーションを阻害するおそれがあることも明らかにした。さらに、競業避止義務は市場の集中を招き、消費者に対する価格の上昇につながる証拠も見られた。 

【競業避止義務の代替手段】 
9  FTCは、企業が競業避止義務を用いることなく投資を保護する手段があることを明らかにしている。 

10 企業秘密を保護する法律(Trade secret laws)や秘密保持契約(non-disclosure agreements (以下「NDA」という。))は、企業が保持する情報を保護するために確立された手段であり、競業避止義務を締結する労働者の推計95%以上がNDAを締結しているとされる。 

11 また、FTCは、従業員の雇用を維持したい雇用主は、競業避止義務を用いて労働者を囲い込むことに代わり、賃金や労働条件を改善することにより、労働サービスに対するメリットを競うことができるとしている。 

【原案からの変更点】 
12 最終規則では、上級幹部に対する既存の競業避止義務は有効であるとしている。他方、雇用者は上級幹部との新たな競業避止義務の締結や強制は禁止している。また、最終規則では「上級幹部」を「政策を決定する立場にある」年収151,164ドル以上の労働者(workers earning more than $151,164 annually who are in a “policy-making position”)であると定義している。

13 さらに、FTCは雇用者に既存の競業避止義務を削除することを義務付けていた規則案の条項を削除した。この修正により、コンプライアンスの合理化に資するとしている。

14 その代わりとして、最終規則では、雇用者は既存の競業避止義務に拘束されている労働者に対し、当該競業避止義務が将来的に効力を有さないことを通知すればよいとした。雇用者がこの要件を遵守できるように、FTCは最終規則に雇用者が労働者に通知する際に使用できる文言のモデルを盛り込んだ。 

15 最終規則の決定について、FTCの投票は3対2の賛成多数で議決した。メリッサ・ホリョーク(Melissa Holyoak)委員及びアンドリュー・N・ファーガソン(Andrew N. Ferguson)委員は反対票を投じた。レベッカ・ケリー・スローター委員、アルバロ・べドヤ委員、メリッサ・ホリョーク委員及びアンドリュー・N・ファーガソン委員は、それぞれ別の意見書を発表した。リナ・カーン委員長は、今後別途の意見書を発表する予定である。 

16 最終規則は連邦官報(Federal Register)に掲載された後、120日後に効力が発生する(注)。 
(注)最終規則は2024年5月7日の連邦官報に掲載された。120日後の同年9月4日に発効する予定。https://www.federalregister.gov/documents/2024/05/07/2024-09171/non-compete-clause-rule

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