2024年11月

米国

DOJによるVISAのデビットカード市場の独占に対する提訴

2024年9月24日 米国司法省 公表

原文

【概要】

1 2024年9月24日、司法省反トラスト局(以下「DOJ」という。)は、VISAがデビットネットワーク市場(debit network markets)において、シャーマン法第1条及び第2条に違反して独占化及びその他の違法行為を行ったとしてニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に民事提訴した。


2 ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に提出された訴状で原告は、以下のとおり主張している。

3 VISAは支配力を利用して既存の競争他社の成長を妨げ、また、他の企業による新規・革新的な代替手段の開発を阻止することで、デビットネットワーク市場における独占を違法に維持している。米国における60%以上のデビットカード取引がVISAのネットワークを通じて行われており、同社はこれらの取引の処理を通じて毎年70億ドル以上の手数料を請求している。さらに、VISAは自らを競争から隔離し、違法に独占力を維持しており、例えば、VISAは自らが持つデビットカードのエコシステムにおける支配力、膨大な規模及び中核的地位を利用し、加盟店や銀行に対して排他的な契約の網を課している。このような契約は、別のデビットカードネットワークや代替決済システムを利用しようとするVISAの顧客にペナルティを課すものである。これにより、VISAはデビットカードの取引を支配し、小規模で低コストの競合他社を閉め出している。VISAはまた、競合他社となる可能性のある事業者に対して、多額の金銭的インセンティブを提示したり、報復的な追加コストを課すことをちらつかせることで、競合他社として市場に参入するのではなく、パートナーとなるよう誘導している。このような行為は、VISAがシェア及び収益を失うことや、他のデビットネットワークに取って代わられることを恐れたためである。

4 デビット取引は米国の金融システムにおいて重要な役割を果たしており、広く普及している。何百万人もの米国人がオンライン・対面での購入にデビットカードを好んで使用しており、使用せざるを得ない人たちも多い。VISAはこうした多くの取引が行われているデビットネットワーク市場を支配し、多額の手数料を課すとともに、手数料の競争を阻害している。VISAがデビット取引における競争を制限するために組織的に行った行為により、米国の消費者及び企業に数十億ドルもの追加的な手数料が課され、デビット決済システムのイノベーションの進展が妨げられる結果となっている。DOJは、この訴訟を通じて、米国の利益のために、この重要な市場における競争を回復させようとしている。

5 VISAは、デビットネットワークにおける両方の市場(①加盟店及びその銀行、②消費者及びその銀行)で巨大な規模(enormous scale)を維持しており、VISAの排他的慣行は、VISAのビジネスを取り囲む「巨大な堀」(enormous moat)を拡大し、深め、保護している。VISAは、より小規模なデビットネットワークや新しいテクノロジーの参入が同社の地位を脅かそうとした場合、競争をなくし、競合他社が競争するのに必要な規模、シェア、データなどを取得することを阻止するため、故意に強固な行動をとった。
① 小規模なデビットネットワーク(Smaller Debit Networks)
 VISAは、デビット決裁において多数の取引がVISAの決裁システム上で実行しなければならない状況を利用して、デビットカードを発行する金融機関に加えて加盟店やその銀行に対しても、膨大な量の義務を課している。

② 技術の新規参入者(Tech Entrants)
 VISAの内部文書から明らかなように、VISAは「ネットワークへの野心」(network ambitions)を持つ一部のテック企業やフィンテック・スタートアップが、より優れた、あるいはより安価な決済手段を提供することで、加盟店、消費者、銀行間の仲介者であるVISAが切り捨てられることを恐れた。VISAは、イノベーションの代わりに、潜在的な競争者に対して提携料を支払う契約を結ぶことで、この開発を阻止することを企てた。VISAのCFOは「誰もが友人であり、パートナーである。誰も競争相手ではない。」(Everybody is a friend and partner. Nobody is a competitor)と述べた。

6 司法省幹部の声明
① メリック・ガーランド司法長官
 我々は、VISAが競争市場で請求できる料金を大幅に超える手数料を搾取する力を不当に維持していたと主張している。加盟店や銀行は、商品価格を引き上げたり、品質・サービスを低下させることで、これらのコストを消費者に転嫁している。その結果、VISAの不法行為は、特定商品の価格だけでなく、ほぼ全ての商品の価格に影響を与えている。

② ベンジャミン・ミッツァー司法省主席次官
 VISAのような企業による反競争的行為は、米国市民と米国経済全体をより苦境へと追い込む。本日のVISAに対する行動は、価格競争やイノベーションへの投資よりも、競争を抑制しようとする者に対して、司法省が米国市民のために法律を執行することをちゅうちょしないことを知らしめるものである。

③ ドーハ・メッキ司法省反トラスト局主席次長
 VISAは競争とイノベーションを恐れ、その代わりに、違法な協調と独占化を選択した。VISAは顧客に対する影響力を濫用し、米国消費者、販売業者、銀行、さらに競争プロセスそのものを犠牲にしてライバルとなり得る企業を買収している。今日の提訴は、米国商業の基盤となる市場におけるVISAの行動に対する責任を問うものである。

7 VISAの2022年のグローバル営業収益は188億ドル、営業利益率は64%であり、北米地域は同社の最も収益性の高い地域の一つで、2022年の営業利益率は83%である。VISAは米国デビットカード取引に対して、年間約80億ドルの手数料を請求している。また、VISAは全世界で総額12兆3000億ドルの決済処理を行っている。

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