米国

FTC、Southern Glazer’sを違法な価格差別で提訴

2024年12月12日 米国連邦取引委員会 公表

原文

【概要】

1 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は、米国最大のワイン及び蒸留酒販売会社であるSouthern Glazer’s Wine and Spirits, LLC (以下「Southern」という。)がロビンソン・パットマン法に違反し、小規模な独立系小売業者から割引やリベートの機会を奪い、大手全国チェーンや地域チェーンと競争する能力を阻害しているとして、同社を提訴した。このような競争の喪失は、最終的には消費者に選択肢及び価格面において損害を与えるものである。  

 FTCは、訴状において、Southernが、小規模の独立系家族経営事業者に対し、大手チェーン店に請求する価格よりも大幅に高い価格でワインや蒸留酒を販売(同じ製品の実際のコスト効率をはるかに上回る、克服できない有利性を大手チェーン店にもたらすような劇的な卸値の価格差をつけて販売)することにより、反競争的かつ違法な価格差別を行ったと主張している。  
 ロビンソン・パットマン法では、販売者が優遇しない小売業者に対し同様の商品をより高い価格で販売することにより、競争を阻害するような差別的な価格を課すことは原則として違法となる。FTCが本日提起した訴訟は、あらゆる規模の事業者が、割引やリベートを同等に享受できて公平な条件で競争する保証を求めるものである。これにより、消費者の選択肢を増やし、独立系の小売業者間を買い回る消費者に低価格のメリットをもたらすことができる。
 
2 リナ・M・カーン委員長は、次のように述べた。 
「大手チェーンを優遇する不公正な価格設定によって地元企業が圧迫されれば、米国人の選択肢は減少し、高い価格を支払うことになり、地域社会は苦しむことになる。この法律は、あらゆる規模の企業が公平な競争条件の下で競争できるようにすべきであると定めている。この議会からの付託を執行機関は何十年にもわたって無視してきた。しかし、本日のFTCの提訴は、公正な競争を保護し、価格を引き下げ、法の支配を回復するのに役立つであろう。」 

3 FTCは、訴状において、以下のように主張している。  
 遅くとも2018年以降、今日に至るまで、Southernは近所の食料品店、地元のコンビニエンスストア、個人経営のワイン・蒸留酒店などの独立系の優遇されない(小口の)購入者と、Total Wine & More、Costco、Krogerなどのワイン・蒸留酒の大口購入者で優遇される大手小売チェーンとの間で価格差別を繰り返してきた。
  2023年、Southernは顧客の小売業者へのワイン及び蒸留酒の販売額が約260億ドルとなり、国内第10位の非上場企業となった。Southernは、Pernod Ricard(Jameson Irish Whiskey、Absolut Vodka)、Bacardi U.S.A., Inc. (Patron Silver Tequila、Grey Goose Vodka、 Bacardi Rum)、Diageo(Smirnoff Vodka、Aviation Gin)、Beam Suntory(Jim Beam Bourbon、Makers Mark Whiskey)など、多くの大手のワイン・蒸留酒の製造販売業者の商品を取り扱う卸売販売業者である。  
 Southernの差別的な価格設定は、Southernの事業戦略に深く浸透し確立されたものであり、様々な価格設定メカニズムによって実現されている。
 Southernが全国規模の大手チェーン店向けに低価格を設定しているのは、Southernが大手小売業者に製品を卸すコストの差に由来するものではなく、かつ、競合する卸売業者がチェーン店に提示した価格に対抗しようとする適法な努力を反映したものでもない。むしろ、Southernが特定の小売業者に対して、市場の正当性を示すことなく、意図的かつ違法に大幅な値引きを行うことは、ロビンソン・パットマン法に正面から違反している。
【Southernの差別的手法】
 Southernは、同時期中に全く同じワイン・蒸留酒を販売した場合にでも、独立系小売店に対しては、競合する大手チェーン店よりも著しく高い価格を、両者がたとえ数マイル、あるいは数ブロックしか離れていなくても、課してきた。同じボトルのワインや蒸留酒でも価格差は大きくなり得るので、消費者のコストに直接影響する。
 Southernは、小規模な競合他社が利用できないような数量割引やリベートを大口購入者に提供するなど、様々な仕組みで差別的価格設定を行っており、それは異なる小売業者への製品流通コストの差によって正当化されるものではない。例えば、優遇されない立場にある独立系小売業者は、優遇される立場にあるチェーン小売業者が利用できる大幅な数量割引、リベート、その他の特別な割引について、たとえ独立系小売業者がその取引に参加することが物流的に実現可能であっても、知らされないことが多い。
 Southernの違法行為は、独立系小売業者が売上げ及び顧客を減少させる要因となってきた。小規模な独立系小売業者は、米国経済の重要な構成要素であり、消費者、地域社会、競争にとって大きな利益となる、巨大チェーン店に代わる貴重な選択肢を提供している。Southernは長年にわたり、小規模な食料品店、コンビニエンスストア、その他の独立系小売業者に対し、全国チェーン店や地域チェーン店と比較して高い価格を請求することにより損害を与えており、現在も損害を与え続けている。
 FTCは、ロビンソン・パットマン法の執行により、ボリュームディスカウントとも呼ばれる数量割引を禁止はしていない。ロビンソン・パットマン法上、販売者が購入者に異なる数量の商品を販売することによって達成される実際のコスト効率(削減)を証明することができる限りは、ボリュームディスカウントは問題とはされない。しかし、Southernの価格設定は、多くの場合、コスト削減分を上回る違法な価格差別となっている。
 
4 米国議会は、大手の販売業者が新たに誕生した大企業チェーンに対し、特別価格、独占的な割引、秘密のリベートを付与することで優遇し、小規模小売業者にはその様な優遇を差し控えるという懸念に対処するため、1936年にロビンソン・パットマン法を制定した。議会は、少数の大企業チェーンに提供される差別的な価格が、同じ商品を販売する地域密着型の地元企業との競争を阻害したり、排除したりすることを懸念していた。  
 独立系や地域密着型小売業者は、消費者に選択肢を提供する存在である。消費者は、利便性、店舗や従業員への特別な思い入れ、価格、その他の要因から、商品の購入を決めるかもしれない。販売業者が、独立系事業者にボリュームディスカウントの利用をさせなかったり、優遇されたチェーン店と秘密のリベート・スキームに合意したりすると、消費者に市場での選択肢を与える独立系事業者の存続可能性が脅かされる。このような選択肢及び競争の喪失により、最終的に消費者の価格を上昇させる可能性のある市場環境が生まれる。

5 FTCの訴訟は、Southernがサービスを提供する小規模の独立系小売業者が、直接競争している大手チェーンと同じ割引、リベート、価格設定を受けられるようにすることを目的としている。ただし、実際のコスト差、状況の変化、競合他社の同等の低価格に対抗する誠実な努力によって価格差が正当化される場合を除く。
 FTCの訴訟は、Southernによる小規模な独立系事業者に対するさらなる違法な価格差別を禁止する差止命令を得ることを求めている。Southernの違法行為が是正されれば、大企業チェーンは競争の激化に直面し、それにより消費者の選択肢が確保され続け、米国の消費者にとって価格を引き下げる市場が生み出されるだろう。 
 委員会は、カリフォルニア州中部地区連邦地方裁判所に永久的差止命令及びその他の衡平法上の是正措置を求め提訴することを3対2の賛成多数で決定した。アンドリュー・ファーガソン委員及びメリッサ・ホリョーク委員は反対票を投じた。アルバロ・M・ベドヤ委員は、リナ・M・カーン委員長及びレベッカ・ケリー・スローター委員と連名で、賛成の意見書を公表した。一方、ファーガソン委員及びホリョーク委員は、それぞれ反対の意見書 (注1)を公表した。
(注1)  ファーガソン現委員長(本件提訴時は委員)は、公表した意見書の中で、「ロビンソン・パットマン法の伝統的な保護主義的理解の下でも、本件で勝訴する可能性は低く、仮に勝訴する可能性があったとしても、本件提訴はFTCのリソースを有効に活用するものとなっていない。FTCは、ロビンソン・パットマン法成立の原動力となった懸念の中心である価格差別、つまり購買力のある大規模小売業者に対する価格優遇にこの法律の執行の焦点を当てるべきである。本件はそのようなケースではない。」との立場を示した。
https://www.ftc.gov/legal-library/browse/cases-proceedings/public-statements/dissenting-statement-commissioner-andrew-n-ferguson-matter-southern-glazers-wine-spirits-llc

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