米国

DOJ、アルゴリズムによる価格設定で大手家主6社を提訴

2025年1月7日 米国司法省 公表

原文

【概要】

1 米国司法省(以下「DOJ」という。)は、2024年8月23日、ノースカロライナ州、カリフォルニア州、コロラド州、コネチカット州、ミネソタ州、オレゴン州、テネシー州及びワシントン州の司法長官とともに、RealPage Inc.(テキサス州リチャードソンに本社を置く不動産管理ソフトウェア会社。以下「RealPage」という。)が違法に、賃貸住宅価格設定に関する賃貸人間の競争を減少させ、商業収益管理ソフトウェア(賃貸住宅価格の設定などに利用される。))の市場を独占したとして、民事反トラスト訴訟を提起した。(注1)

(注1)https://www.justice.gov/opa/pr/justice-department-sues-realpage-algorithmic-pricing-scheme-harms-millions-american-renters 
 DOJは、2025年1月7日、各州の共同原告とともに、RealPageに対する反トラスト法訴訟の修正訴状を提出し、アルゴリズムによる価格設定に参加し、賃借人に損害を与えたとして全米最大手の家主6社を提訴した。修正訴状には、イリノイ州及びマサチューセッツ州の司法長官も加わり、州及び連邦の共同原告総数は10となった。  
    
2 修正訴状によると、家主であるGreystar Real Estate Partners LLC (以下「Greystar」という。) 、 Blackstone’s LivCor LLC (以下「LivCor」という。)、Camden Property Trust (以下「Camden」という。)、Cushman & Wakefield Inc and Pinnacle Property Management Services LLC、Willow Bridge Property Company LLC (以下「Willow Bridge」という。)及びCortland Management LLC (以下「Cortland」という。) の6社(以下「6社」という。)は、賃貸住宅の価格設定に関する家主間の競争を減少させる違法なスキームに参加し、何百万人もの米国の賃借人に損害を与えた。6社は、合わせて43の州及びコロンビア特別区で130万戸以上の賃貸住宅を経営している。 
 同時にDOJは、家主であるCortlandに対し、政府への協力、賃貸料設定に競合他社の機微なデータを使用することの中止、企業監視人による監視なしで競合他社と同じアルゴリズムを使用することの中止を求める同意判決案を提出した。
 
3 ドーハ・メッキDOJ反トラスト局長代理(訳注:本件公表時)は、次のように述べた。  
 「全米の米国人が住宅を購入するのに苦労している中、本日の訴訟で名指しされた家主らは、賃貸料に関する機微な情報を共有し、アルゴリズムを使用して賃貸料を高く維持するよう調整していた。RealPage及び6社に対する本日の措置は、人々よりも利益を優先する彼らの行為をやめさせ、全米の何百万人もの人々がより手頃な価格で住宅を購入できるようにすることを目指すものである。」  
  
4 修正訴状によると、6社は、共通の価格設定アルゴリズムを通じて、互いの競争上機微な情報を利用して賃貸料を設定するスキームに積極的に参加していた。6社は、 RealPageの反競争的な価格設定アルゴリズムを使用するとともに、以下のような様々な手段で協調していた。
 (1) 賃貸料、稼働率、その他競争上機微な情報について、競合他社の上級管理職と直接連絡を取り合うこと 
 ある事例では、GreystarはCamdenに、直近の更新率だけでなく、来期の価格設定の考え方、RealPageの推奨価格の受入れ、(賃借人への)譲歩の事例、稼働率に関する競争上微妙な情報などを提供した。同様に、Camden及びLivCorの幹部は、値上げ計画を含む価格戦略について、数か月にわたって連絡を取り合っていた。
 (2) 定期的に「電話会議」を行うこと
 婉曲的に「市場調査」と呼ばれるこのような話合いの間、6社は競合他社に電話をかけたりメールを送ったりして、賃貸料、稼働率、価格戦略、値引きに関する競争上機微な情報を共有し、時には議論した。
 (3) RealPageが主催する「ユーザーグループ」に参加すること
 例えば、6社はユーザーグループを通じて、ソフトウェアの価格設定方法をどのように変更するか、また自社の価格設定戦略について話し合う。ある事例では、LivCor及びWillow Bridgeの幹部がユーザーグループに参加し、更新料の値上げ、譲歩、RealPageが推奨する賃貸料の受入れ率などについて話し合った。
 (4) RealPageのソフトウェアのパラメータに関する情報を競合他社と共有すること
 一例として、Willow Bridgeの収益管理ディレクターの要請を受けて、Greystarの収益管理ディレクターは、RealPageのソフトウェアの標準的な自動承諾パラメータを提供した。これには、「自動承認」の1日及び1週間の使用限度、Greystarが「自動承認」を使用する曜日が含まれる。  
 
5 DOJはまた、13州で8万戸以上の賃貸住宅を管理する家主であるCortlandに関しては、裁判所の承認が得られれば、訴訟を終了させる同意判決案を発表した。同意判決案に基づいて、Cortlandは、DOJの調査及び訴訟に協力し、特に以下のことを禁じられる。
 (1) 競合他社の競合上機微なデータを使用して、価格設定モデルを訓練又は実行すること。
 (2) 裁判所が任命した監視人の監督なしに、第三者のソフトウェア又はアルゴリズムを使用して賃貸住宅の価格を設定すること。
 (3) 賃貸料の設定又は推奨賃貸料の生成の一環として、他の不動産管理業者に競合上機微な情報を要求、開示等すること。
  
6 Tunney法の規定に基づき、同意判決案は競争上の影響に関する記述とともに連邦官報に掲載される。何人も60日間の意見募集期間中に、DOJ反トラスト局技術・デジタルプラットフォーム課長宛に同意判決案に関する意見書を提出することができる。ノースカロライナ州中部地区連邦地方裁判所は、60日間の意見募集期間終了後、公共の利益に適うと判断した場合、最終判決を下すことができる。

7 本訴訟の共同原告は、カリフォルニア州、コロラド州、コネチカット州、イリノイ州、マサチューセッツ州、ミネソタ州、ノースカロライナ州、オレゴン州、テネシー州及びワシントン州の司法長官である。

8 6社は、いずれも集合住宅を管理しており、うち数社は管理物件の一部又は全部を所有している。

FTC、AIに関する業務提携及び投資に関するスタッフ・レポートを公表

2025年1月17日 米国連邦取引員会 公表

原文

【概要】

1 2025年1月17日、米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は、大手クラウドサービスプロバイダー(Cloud Service Provider、以下「CSP」という。)であるAlphabet Inc.、Amazon.com Inc.及びMicrosoft Corp.と最も著名な生成AI開発事業者であるAnthropic PBC及びOpenAI OpCo,LLCの2社との業務提携及び投資に関するスタッフ・レポートを公表した。

 
2 リナ・カーンFTC委員長(訳注:本レポート公表時)は、次のように述べた。 「企業が生成AI技術を急速に展開している中、執行当局や政策立案者は、オープンな市場、機会、イノベーションを損なうようなビジネス戦略に対し、警戒と防御を怠ってはならない。本レポートは、大手テック企業による提携がどのように、ロックインを生み出し、スタートアップ企業から重要なAIインプットを奪う可能性があるかを示し、公正な競争を損なう可能性のある機密情報についても明らかにしている。」

3 本レポートは、3つの別々の数十億ドル規模の投資に関与した5社(MicrosoftとOpenAI、AmazonとAnthropic、AlphabetとAnthropic)に対して2024年1月にFTC法6条(b)に基づき執行された報告命令に基づくものである。

4 本レポートは、生成AI開発事業者とCSP間の業務提携について、FTC、一般市民、政策立案者が理解を深めることを目的としている。また、本レポートの調査結果は、大手テック企業が関与する業務提携の特性や潜在的影響、また、それが消費者、企業、多くの経済セグメントに与える可能性のある影響を、FTCが適切に評価するために寄与する。

5 主な調査結果
 (1) 本レポートでは、CSPとAI開発事業者との業務提携の構造に係る重要な側面として、例えば、業務提携においてCSPが保持する株式や収益分配権(revenue share right)や、AI開発事業者への投資を通じてCSPが獲得した特定の協業権、経営権、独占的権利などについて詳説し、以下のようなAI業務提携におけるいくつかの重要な条件が示されている。
 (ア) AI開発事業者との業務提携におけるCSPの大規模な株式保有権及び一定の収益分配の権利 
 (イ) CSP側がAI開発事業者側に対して程度の差はあれ保有する一定の協業権、経営権、独占的権利
 (ウ) AI開発事業者側がCSP側の投資の大部分を当該CSPのクラウドサービスに費やすことを求めるコミットメント 
 (エ) 以下のようなAI開発事業者の重要なリソース及び情報の共有
 ① ディスカウント価格での大量のコンピューティング・リソースへのアクセス
 ② AI開発事業者の最先端モデルに関する権利や知的財産権
 ③ 特定の財務データやトレーニング・データ
 (オ) AIモデルをCSPの製品の中に統合したり、CSPのプラットフォーム上で展開したりすることを通じ、既存製品を拡張する機会の提供
 (2) 本レポートでは、AI業務提携の潜在的な影響について、以下の点を注目すべきであるとしている。
 (ア) コンピューティング・リソースやエンジニア人材などの特定のインプットへのアクセスに影響を与えるCSPの能力は、業務提携しているAI開発事業者とそうでない事業者の両者にとっての競争に影響を与える可能性があること。
 (イ) 業務提携によりAI開発事業者にとって契約的・技術的なスイッチング・コストが増加する可能性があり、それによってCSPの変更がより困難になったり、複数のCSPの利用が制限されたりする可能性があること。
 (ウ) 生成AIモデル、AI開発手法、機密チップの共同開発、提携関係の下でのファイナンスや、利用顧客数及び収益額など他社が入手できないであろう機密の技術上・事業上の情報にCSPパートナーがアクセスできること。

6 本レポートは、2024年9月時点でFTCが入手した情報及び2025年1月までに公開された情報を反映している。委員会は5対0の議決で、本レポートの公表を承認した(注1)。
(注1) ファーガソン現FTC委員長(訳注:本レポート発表時は委員)は、本件についての「賛成及び反対意見」(concurring and dissenting statement)を公表し、本レポート第5章「AIパートナーシップの潜在的な影響に関する注目すべき分野」においてAI産業の将来とAIパートナーシップが競争に与えるかもしれない影響の分析についての憶測を発表すべきでなかったとの反対意見を表明し、読者は第5章を読み飛ばすか、極めて懐疑的に読むべきであると記している。
 https://www.ftc.gov/legal-library/browse/cases-proceedings/public-statements/concurring-dissenting-statement-commissioner-andrew-n-ferguson-joined-commissioner-melissa-holyoak

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