EU(European Union)

(2025年2月現在)

最新の情報については、当局ウェブサイトを御確認ください。

1 根拠法

 EU機能条約(Treaty on the Functioning of the European Union)
  第101条・・・・・・・・・・・競争制限的協定・協調的行為の規制
  第102条・・・・・・・・・・・市場支配的地位の濫用行為の規制
  理事会規則2004年第139号・・・・・・企業結合規制
 また、上記のほか、加盟国政府による競争歪曲的政策を禁止するものとして、
  第107条・・・・・・・・・・・特定の企業・商品に対する競争歪曲的補助の禁止(いわゆる国家補助規制)がある。
(注1)2009年12月1日に発効したリスボン条約により、「欧州共同体設立条約〔Treaty establishing the European Community〕」(以下「旧EC条約」という。)は、EU機能条約に改められた。リスボン条約は、既存の基本条約を改正するものでそれに取って代わるものではない。
(注2)リスボン条約第5条の規定により、旧EC条約第81条及び第82条がEU機能条約第101条及び第102条にそれぞれ変更された(条文番号のみの変更で内容の変更はない。)。
(注3)上記のほか、EU機能条約には、第106条(公企業に対する競争制限的規制の禁止等)がある。

2 関係機関

(1) 立法機関

ア 欧州議会(European Parliament)

 欧州議会は、加盟国国民の直接普通選挙によって選ばれた議員(任期5年)で構成される。従来は予算分野についてのみ立法過程に参画していたが、マーストリヒト条約(1992)、アムステルダム条約(1999)等により、運輸、消費者保護、環境等の分野の立法(規則及び指令の採択)について理事会と共同で決定する権限が付与されるなど、立法過程における欧州議会の関与が強化されている(競争分野は、この共同決定手続の対象となっていない。)。

イ 閣僚理事会(Council)

 閣僚理事会(以下単に「理事会」という。)は、各加盟国の代表者(閣僚レベル)で構成される。理事会の会議には、議題に応じて異なる代表者が出席する。理事会は、欧州委員会の提案に基づいて、規則(regulation)、指令(directive)、決定(decision)等を定める権能を有している(注)。
 (注)「規則」「指令」「決定」の内容は以下のとおり。
 「規則」は、その全体において拘束力を有し、加盟国の国内法として制定し直されることなく、全ての加盟国で直接適用される。
 「指令」は、「達成されるべき結果」のみについて、当該指令が命じられた加盟国を拘束し、結果を達成するための形式・方法については、加盟国当局に選択が委ねられている。すなわち、指令は加盟国の国内法により置き換えられることによってはじめて一般的な効力を持つことになる。
 「決定」は、それが及ぶ範囲の者に対し、全ての点で拘束する。決定は、一般的法規というよりむしろ、個別的かつ具体的内容を持つ行政手段といえる。
 
 競争法制に関しては、理事会は、EU機能条約第101条及び第102条に定める原則を実施するために適切な規則又は指令を、委員会の提案に基づき、かつ、欧州議会と協議した上で、定めることができる(EU機能条約第103条)とされている(注)。
 (注)理事会ではなく欧州委員会が規則の制定や決定の発出を行うこともできる。例えば、EU機能条約第101条又は第102条違反に対する決定については、欧州委員会が行うこととされている(EU機能条約第105条)。また、一括適用免除(後述)については、理事会の定めた規則(以下「理事会規則」という。)により欧州委員会に規則制定の権能が付与されている。

(2) 執行機関

 EU競争法の執行機関は、欧州委員会(European Commission)である。実務担当部局として「競争総局」(Directorate-General for Competition。DG Competition、DG COMPと略称されることもある。)が置かれている。

ア 欧州委員会の構成

 欧州委員会は、加盟国の政府間の合意に基づいて任命された各国1人の計27人の委員(commissioner)で構成されており、この中から委員長(president)が選任される。委員の任期は5年であり、各委員は一つ又は複数の政策部門の担当責任者となる。競争政策は、競争担当委員が担当している。

イ 欧州委員会の権限

 欧州委員会は、競争法に関する規則等の立案及び理事会が授権した範囲内での制定を行うとともに、EU機能条約第101条及び第102条違反を調査し、違反行為に対する排除措置及び制裁金賦課に関する決定を行うほか、企業結合の規制等を行う権限を有する。

ウ 欧州委員会(競争総局)の組織及び人員

(ア) 欧州委員会(競争総局)の組織
  総局長(Director-General)の下に、11局が置かれている。
(イ) 競争総局の人員
  2023年末時点における競争総局の職員数は、871名である。

(3) 司法機関

 EUの司法機関は、司法裁判所とこれに付属する一般裁判所で構成される。

ア 司法裁判所(Court of Justice)

 司法裁判所は、EU法の解釈・適用に関する一切の司法問題を取り扱う最高司法機関である。同裁判所には、各国1人の計27人の裁判官が所属し、大法廷は15人の裁判官によって構成される。通常は、3人又は5人の裁判官による小法廷(ほとんどは5人の裁判官による小法廷)で審理が行われる。係争中の事件について意見を提示する11人の法務官(advocates-general)が裁判官を補佐し、事務局長である記録官(Registrar)が事務を取り仕切る。裁判官及び法務官の任期は6年(長官のみ3年)で、再任可能であり、加盟国の合意に基づいて任命される。

 競争法関係を含め、欧州委員会の決定を審査する。提訴期間は2ヶ月以内であり、提訴により、執行不停止とはならない。

 また、加盟国の裁判所の要請を受けて、EU法の解釈を示すための先行判決(preliminary ruling)を行う。

イ 一般裁判所(General Court)

 一般裁判所は、1989年に欧州司法裁判所(当時)に付属する裁判所として、理事会の決定に基づき設置された。同裁判所は、競争法違反に関する欧州委員会の決定の取消訴訟を含む一定の訴訟を管轄し、事実審として機能する。裁判官は、各加盟国から少なくとも1人任命されることになっており、現在54人の裁判官が所属している。大法廷は15人の裁判官によって構成されるが、通常は、3人又は5人の裁判官による小法廷(ほとんどは3人の裁判官による小法廷)で審理が行われている。

3 競争制限的協定・市場支配的地位の濫用に係る規制と法執行手続

(1) 競争制限的協定の規制の概要(EU機能条約第101条)

ア 禁止行為

 EU機能条約第101条は、事業者間の協定、事業者団体の決定及び協調的行為であって、加盟国間の取引に影響を与えるおそれがあり、かつ、域内市場の競争の機能を妨害・制限・歪曲する目的を有し、又はこのような結果をもたらすものを禁止する。この禁止規定は、競争事業者間の協定(水平的協定)のみならず、メーカーと販売業者間の協定(垂直的協定)にも適用される。禁止される協定の例として、規定上、次のものが挙げられている(EU機能条約第101条1項)。
 [1] 価格協定
 [2] 生産、販売、技術開発若しくは投資に関する制限又は統制
 [3] 市場又は供給源の割当て
 [4] 取引の相手方を競争上不利にする差別的取扱い
 [5] 抱き合わせ契約

【条文】EU機能条約第101条
加盟国間の取引に影響を与えるおそれがあり、かつ、域内市場の競争の機能を妨害し、制限し、若しくは歪曲する目的を有し、又はかかる結果をもたらす事業者間の全ての協定、事業者団体の全ての決定及び全ての共同行為であって、特に次の各号の一に該当する事項を内容とするものは、域内市場と両立しないものとし、禁止する。
a 直接又は間接に、購入価格若しくは販売価格又はその他の取引条件を決定すること
b 生産、販売、技術開発若しくは投資を制限し又は統制すること
c 市場又は供給源を割り当てること
d 取引の相手方に対し、同等の取引について異なる条件を付し、当該相手方を競争上不利な立場に置くこと
e 契約の性質上又は商慣習上、契約の対象とは関連のない追加的な義務を相手方が受諾することを契約締結の条件とすること

イ 適用免除

 商品の生産・販売の改善又は技術的・経済的進歩の促進に役立ち、かつ、消費者に対しその結果として生ずる利益の公平な分配を行うものであって、次のいずれにも該当しない協定等については、欧州委員会は、EU機能条約第101条1項を適用しないことを宣言することができる(EU機能条約第101条3項)。
 [1] 前記の目的達成のために必要不可欠でない制限を参加事業者に課すこと。
 [2] 当該商品の実質的部分について、参加事業者に競争を排除する可能性を与えること。
 また、理事会の授権により欧州委員会は、一定のカテゴリーの協定等を一括して適用免除とする規則を定めている(一括適用免除(block exemption)。EU機能条約第103条2項b)。

 欧州委員会が定めている一括適用免除規則及び関連ガイドライン

  カテゴリー 欧州委員会規則 関連ガイドライン
1 流通 規則720/2022号(適用期限2034年5月31日) 垂直制限ガイドライン
2 自動車の流通とサービス 規則461/2010号(適用期限2028年5月31日) 自動車ガイドライン
3 技術移転 規則316/2014号(適用期限2026年4月30日) 技術移転ガイドライン
4 専門化 規則1067/2023号(適用期限2035年6月30日) 専門化ガイドライン
5 研究開発 規則1066/2023号(適用期限2035年6月30日) 研究開発ガイドライン

(注)航空分野における協定に係る一括適用免除規則は2007年10月末をもって、保険分野における協定に係る一括適用免除規則は2017年3月末をもって、海運分野における協定に係る一括適用免除規則は2024年4月25日をもって、廃止された。

ウ 違反に対する措置

(ア) 排除措置命令及び制裁金
 欧州委員会は、EU機能条約第101条1項違反に対し、決定をもって、違反行為の排除を命ずることができる(理事会規則1/2003号第7条1項)ほか、決定の名宛人の直前の事業年度における総売上高の10%までの制裁金を課すことができる(同規則第23条2項)。また、欧州委員会は、欧州委員会による情報提供要求や調査に対して不正確又は誤認を招く情報提供等を行った者に対して、直前の事業年度の総売上高の1%以下の制裁金を課すことができる(同規則第23条1項)。
(イ) 履行強制金
 欧州委員会は、禁止決定等を受けた事業者又は事業者団体が当該決定に従わない場合、1日当たり、直前の事業年度における1日の売上高の平均の5%を超えない範囲の履行強制金を課すことができる(同規則第24条1項)。
(ウ) 確約(行為の性質上、制裁金を課すべき事案は除く)
 欧州委員会は、関係事業者が、欧州委員会の予備的な評価又は異議告知書において表明した懸念に合致する確約を申し出る場合、決定により、それらの確約の履行を義務付けることができる(同規則第9条)。確約手続は、同規則により導入され、2004年5月1日より施行されている。

 確約決定は、EU競争法違反があったかどうかについての欧州委員会の判断を示すものではない。①関係事業者が確約に反する行為を行った場合、②決定の基礎となった事実について実質的な変更があった場合又は③決定が不完全、不正確若しくは誤認を招く情報に基づいて行われた場合は、欧州委員会はいつでも審査手続を再開することができる。また、関係事業者が確約を遵守しない場合には、欧州委員会は、当該事業者の直前の事業年度の総売上高の10%までの額の制裁金を課すことができるほか、確約を履行するまで、履行強制金を課すことも可能である。
(エ) 和解(カルテル事案が対象)
 欧州委員会は、決定の採択に至る手続を簡略化及び迅速化させることを目的として、2008年6月30日、カルテル事案に関する和解手続を導入した。関係人が違反行為への関与を認め、その責任を負うとする場合には、欧州委員会の決定の採択に至る手続が簡略化され、制裁金が一律10%減額される。和解手続は、同制度を利用したすべての関係人が等しく制裁金の減額を受けられる手続である。欧州委員会は、和解手続が適している事案か否かを判断するに当たり広範な裁量を有しているほか、和解協議を開始した後、いつでもこれを打ち切ることができる。(関連告示:和解告示)

(2)市場支配的地位の濫用に係る規制の概要(EU機能条約第102条)

ア 禁止行為

 域内市場又はその実質的部分における支配的地位を濫用する一以上の事業者の行為は、それによって加盟国間の取引が悪影響を受けるおそれがある場合には禁止される。この濫用の例として、規定上、次のものが挙げられている(EU機能条約第102条)。
[1] 不公正な価格又は取引条件を課すこと
[2] 需要者の利益に反する生産・販売・技術開発の制限
[3] 取引の相手方を競争上不利にする差別的取扱い
[4] 抱き合わせ契約

【条文】EU機能条約第102条
 域内市場又はその実質的部分における支配的地位を濫用する一以上の事業者の行為は、それによって加盟国間の取引が悪影響を受けるおそれがある場合には禁止される。この不当な行為は、特に次の場合に成立するおそれがある。
a 直接又は間接に、不公正な購入価格若しくは販売価格又はその他不公正な取引条件を課すこと
b 需要者の利益に反する生産、販売又は技術開発の制限
c 取引の相手方に対し、同等の取引について異なる条件を付し、当該相手方を競争上不利な立場に置くこと
d 契約の性質上又は商慣習上、契約の対象とは関連のない追加的な義務を相手方が受諾することを契約締結の条件とすること

イ 違反に対する措置

 EU機能条約第101条違反に対するものと同様である(理事会規則1/2003号第7条1項、第23条1項及び2項、第24条)。

ウ 関連するガイダンス及びガイドライン

① 102条ガイダンス(「排除型濫用行為に対する執行の優先事項を示すガイダンス」2008年策定。2024年改正。) ② 102条ガイドライン案(「排除型の市場支配的地位の濫用に対する102条の適用に関するガイドライン案」*2025年中のガイドライン策定を目指し、ガイドライン案について、2024年8月1日から10月31日までパブリックコメントが行われた。)

(3) 法執行手続

 競争法違反事件処理手続を定める基本的法令は、理事会規則1/2003号及び欧州委員会規則773/2004号である。

ア 正式決定に至る手続の流れ

 EU機能条約第101条及び第102条違反事件の審査に関する手続の流れは、大要以下のように分けられる。
 ・ 端緒(リーニエンシー申請、申告、職権探知等)
 ・ 調査(情報提供要求、立入検査等)
 ・ 措置手続(関係人への異議告知書の送付、関係人からの異議告知書への回答、聴聞の実施、制限的慣行・支配的地位に関する諮問委員会(各加盟国の競争当局の代表者から構成される)への協議等)
 ・ 決定(違反行為の排除、制裁金の賦課等)

イ 制裁金の算定方法

 EU機能条約第101条及び第102条違反に対する制裁金の額は、直前の事業年度の総売上高の10%までと定められており、欧州委員会は、当該範囲内において制裁金の額を設定する裁量を有している。欧州委員会は、「制裁金の設定に関するガイドライン」(1998年策定。2006年改訂)を策定・公表しており、同ガイドラインに基づいて制裁金額を決定している。同ガイドラインは、[1]基本額の算定及び[2]基本額の調整(増減)の二つのパートから構成されている。
 [1]においては、違反行為が行われた取引市場における当該事業者の直近事業年度の売上高(直近関連売上高)の30%を上限とする金額(ハードコアカルテルの場合には通常30%を適用)を決定し、これに違反行為の継続年数を乗じ、さらに、ハードコアカルテルの場合には、これに直近関連売上高の15%~25%(「entry fee」と呼ばれる部分)を上乗せして基本額を算定する。したがって、ハードコアカルテルの場合には、「直近関連売上高×30%×継続年数+直近関連売上高×15~25%」が基本額となる。
 [2]においては、特定の要件、例えば、再度の違反、審査妨害、違反行為の主導者(以上、増額要件)、違反行為をすぐにやめたこと(カルテル事件以外にのみ適用される)、違反行為が過失によるものであること、参加が限定的、効果的な審査協力、公的機関又は法令による奨励があったこと(以上、減額要件)が考慮されることにより、基本額の調整が行われ、最終的な制裁金額が算定される。

ウ リーニエンシー制度

(ア) 関連告示
 カルテル事案における制裁金の免除又は軽減に関する告示(1996年導入。2002年、2006年及び2015年に改正)
(イ) 対象行為
 EU機能条約101条1項違反のうち水平カルテル
(ウ) 免除
 告示は、制裁金の全額免除及び制裁金の減額のパートに分かれている。
 制裁金の全額免除は、[1]欧州委員会が立入検査等の審査活動の実施を決定するに足る十分な証拠を有していない時点で、当該決定を可能にする証拠及びコーポレートステートメントを最初に提出した事業者、又は[2]欧州委員会がEU機能条約第101条違反を認定するに十分な証拠を有しておらず、かつ、どの事業者にも制裁金の条件付き免除が認められていない時点で、当該違反認定を可能にする証拠及びコーポレートステートメントを最初に提出した事業者に認められる。コーポレートステートメントとは、文書又は口頭により、カルテルの詳細な内容及び他の参加事業者名等を明らかにするものである。制裁金の全額免除を受けるためには、申請者は、欧州委員会が合理的に必要と認める場合を除き、申請後直ちに当該カルテルへの関与を終了させること、欧州委員会の審査に全面的に協力し、全ての証拠を提供することが必要であり、また、他の事業者に対してカルテルへの参加又はカルテルの継続を強要していないことが要件となる。
(エ)減額
 制裁金の減額についての資格を得るためには、申請者は、欧州委員会が既に所有している証拠に関して著しい付加価値を有する証拠を提供し、申請後直ちに当該カルテルへの関与を終了させなければならない。この要件を最初に満たした事業者には30~50%の減額、2番目に要件を満たした事業者には20~30%の減額、それ以降に要件を満たした事業者には20%までの減額が認められる。

4 企業結合

(1) 規制の概要

企業結合は、2004年5月に施行された理事会規則139/2004号(以下「企業結合規則」という。)によって規制されている。企業結合規則の施行規則として、欧州委員会規則914/2023号(以下「企業結合施行規則」という。)が定められている。

 企業結合規則第2条2項において、支配的地位の形成又は強化の結果として、共同体市場又はその実質的部分における有効な競争を著しく阻害しない企業結合は、共同体市場と両立する旨宣言される。
 また、同条3項において、支配的地位の形成又は強化の結果として、共同体市場又はその実質的部分における有効な競争を著しく阻害する企業結合は、共同体市場と両立しない旨宣言される。

ア 規制対象(届出基準)

 次の基準をすべて満たす企業結合は、「共同体規模(Community dimension)」を有するものとして、規制の対象となる(企業結合規則第1条2項)。このような企業結合の当事者は、企業結合規則第4条の規定に基づき、事前に欧州委員会に届け出なければならない。
 なお、届出に係る手数料は設けられていない。

 [1] 当事者全ての全世界での売上高の合計が50億ユーロ超
 [2] 当事者の少なくとも2社の共同体内での売上高がそれぞれ2億5000万ユーロ超
 [3] 当事者のいずれも共同体内売上高のうち3分の2超を同一加盟国内で得ていない
 また、上記に該当しない場合であっても、以下の全ての要件を満たす場合には、共同体規模を有するものとして、規制の対象となる(企業結合規則第1条3項)。
 [1]当事者全ての全世界での売上高の合計が25億ユーロ超
 [2]当事者の少なくとも2社の共同体での売上高がそれぞれ1億ユーロ
 [3]3以上の加盟国のそれぞれにおいて、当事者全ての年間売上高の合計が1億ユーロ超
 [4][3]の要件に合致する3以上の加盟国のそれぞれにおいて、当事者の少なくとも2社の売上高がそれぞれ2500万ユーロ超
 [5]当事者のいずれも共同体内売上高のうち3分の2超を同一加盟国内で得ていない

イ 合併審査の基準等

(ア) 審査基準
 規制対象となる企業結合については、共同体市場と両立するか否か(whether or not they are compatible with the common market)について判断される(企業結合規則第2条1項)。支配的地位の形成又は強化の結果として、共同体市場又はその実質的部分における有効な競争を著しく阻害することとなる企業結合は、共同体市場と両立しないものとして禁止される(企業結合規則第2条3項)。

(イ) 考慮事項
 企業結合審査に当たっては、市場構造、共同体内外の現実の又は潜在的な競争、市場における当事者の地位・経済力、供給者・需要者の代替可能性、商品又は市場へのアクセス、参入障壁、関連商品の需給動向、消費者の利益、競争を阻害せず消費者に利益をもたらす技術進歩・経済発展といった事項が考慮される(企業結合規則第2条1項)。

ウ 違反行為に対する措置

(ア) 禁止
 共同体市場と両立しない企業結合は、決定により禁止される。当該企業結合が違法に実施されてしまった場合には、欧州委員会は、合併の解消、取得した全ての株式又は財産の処分その他必要と考えられる措置を命ずることができる(企業結合規則第8条)。

(イ) 制裁金
 欧州委員会は、当事者が届出に当たり、故意又は過失により不正確又は虚偽の資料を提供した場合等には、当事者の年間総売上高の1%以下の制裁金を課すことができる。また、欧州委員会は、当事者が故意又は過失により届出を怠った場合、又は欧州委員会の決定に反する企業結合を実施した場合等には、当事者の年間総売上高の10%以下の制裁金を課すことができる(企業結合規則第14条)。

(ウ) 履行強制金
 欧州委員会は、当事者が決定により要求された完全で正確な資料の提出、決定により命じられた立入検査の受入れ又は決定により課されたその他の義務を遵守しない場合には、当事者に対し、1日当たり、直前の事業年度における1日の売上高の平均の5パーセントを超えない範囲の履行強制金を課すことができる(企業結合規則第15条)。

 

(2) 法執行手続

ア 事前届出と法定禁止期間

 当事者は、契約の締結、公開買付の発表又は支配権の取得後、企業結合の実施までに欧州委員会に届け出なければならない。欧州委員会への届出は、通常、FormCOと呼ばれる様式を用いるが、以下のいずれかの要件を満たす場合には、Short Form COと呼ばれる簡易版の様式を用いることができる(企業結合施行規則第3条1項及びアネックスⅡ)。

[1] 2以上の会社が、ジョイント・ベンチャーに出資する場合であって、欧州経済領域(European Economic Area)内において1億ユーロ以上の売上高及び資産を有しておらず、欧州経済領域内でほとんど活動していない場合
[2] 当事者間において、製品・地理的市場の重複(水平的関係)がなく、川上・川下関係(垂直的関係)にもない場合
[3] 当事者間において、製品・地理的市場の重複(水平的関係)があるが、その合計市場シェアが20%未満である場合、かつ、川上・川下関係(垂直的関係)にあるが、いずれの市場においても単独又は合計市場シェアが30%未満である場合
[4] 当事者がこれまで共同で支配してきた会社の占有支配権を取得する場合
 また、当事者は、届出を行う前に、欧州委員会に対して届出書の記載事項に不備がないか等について相談を行うことができ、欧州委員会も、当事者が欧州委員会に対して届出前の相談を行うことを推奨している(簡易審査告示のパラグラフ25及びBestPractices on the conduct of EC merger control proceedings(2004年1月20日)のパラグラフ5-7)。ただし、一定の要件を満たす場合には、届出前の相談を行うことなく欧州委に届出を行うことが推奨されている(超簡易審査。簡易審査告示のパラグラフ26)。
 当事者は、当該企業結合が共同体市場と両立し得ると宣言されるまでは、当該企業結合を実施してはならない(企業結合規則第4条1項及び第7条1項)。

イ 審査・決定

欧州委員会は、届出を受理した場合は直ちにこれを審査し(通称「Phase I」審査)、以下の決定を行うことができる。
[1] 「対象外」
 当該企業結合が規制の対象外であると判断したときは、決定により、その認定を記録する(企業結合規則第6条1項a)。
[2] 「承認」
 当該企業結合が、規制の対象とはなるものの、共同体市場との両立性に関して深刻な疑念を引き起こすものではないと認定したときは、当該企業結合に反対しない旨決定するとともに、当該企業結合が共同体市場と両立する旨宣言する(企業結合規則第6条1項b)。
[3] 「詳細審査の開始」
 当該企業結合が規制の対象となり、かつ、共同体市場との両立性に関して深刻な疑念を引き起こすものと認定したときは、詳細審査(通称「Phase II」審査)手続を開始する(企業結合規則第6条1項c)。
[4] 「条件付き承認」
 当該企業結合が、当事者が申し出た問題解消措置を前提とすれば、共同体市場との両立性に関して深刻な疑念を引き起こすものではないと認定したときは、問題解消措置を実行することを確保するための条件及び義務を欧州委員会の決定に付して、当該企業結合が共同体市場と両立する旨宣言する(企業結合規則第6条2項)。
 上記[1]~[4]の決定は、25営業日以内に行わなければならない(当事者が問題解消措置を申し出た場合又は関係加盟国から当該事案の移管要請を受けた場合、この期間は35営業日まで延長される(企業結合規則第10条1項))。

 また、簡易版の様式による届出事案では簡易審査(simplified procedure)が行われ、関係加盟国が欧州委員会に対して意見を述べることができる15営業日経過後、欧州委員会は速やかに決定を行うよう努めることとされている(簡易審査告示のパラグラフ30)。
 なお、欧州委員会が当事者に対し、情報提供要求(企業結合規則第11条3項)又は立入検査(企業結合規則第13条4項)の決定を行った場合、要求した情報を受理するまでの期間又は立入検査の完了まで、PhaseⅠ審査の期間の進行は中断する(Stop the clockと呼ばれる(企業結合施行規則第9条)。)。

 詳細審査の結果、当該企業結合を禁止するなどの決定を行おうとする場合には、当事者に異議告知書を送付する。当事者には、異議告知書に対する見解を述べる機会が与えられる(企業結合規則第18条1項)。
 

 その後、企業結合に関する諮問委員会(注:各加盟国の競争当局の代表者から構成される)への協議(企業結合規則第19条3項)を経て、欧州委員会は、以下の決定を行うことができる。
[1] 「承認」
 当該企業結合が、共同体市場又はその実質的部分における有効な競争を著しく阻害しないと認定したときは、当該企業結合が共同体市場と両立する旨宣言する(企業結合規則第8条1項)。
[2] 「条件付き承認」
 当該企業結合が、当事者が申し出た問題解消措置を前提とすれば、共同体市場との両立性に関して深刻な疑念を引き起こすものではないと認定したときは、問題解消措置を実行することを確保するための条件及び義務を欧州委員会の決定に付して、当該企業結合が共同体市場と両立する旨宣言する(企業結合規則第8条2項)。
[3] 「禁止」
 当該企業結合が、共同体市場又はその実質的部分における有効な競争を著しく阻害すると認定したときは、当該企業結合が共同体市場と両立しない旨宣言する(企業結合規則第8条3項)。
[4] 「競争回復措置」
 共同体市場と両立しない旨宣言した企業結合が既に実施されていた場合、又は問題解消措置に違反して企業結合が実施された場合、欧州委員会は当事者に対して、合併の解消、取得した全ての株式又は財産の処分その他必要と考えられる競争回復措置を命ずる(企業結合規則第8条4項)。

 上記[1]~[4]の決定は、詳細審査開始から90営業日以内に行わなければならない(企業結合規則第10条2項及び3項)。詳細審査の開始から55営業日以降に当事者が問題解消措置を申し出た場合は、15営業日が追加され、審査期間は、105営業日となる。また、当事者が延長を要請する場合又は欧州委員会が延長を要望し当事者が同意する場合は、最大20営業日の延長が可能となる(最長審査期間は125営業日となる)。
 なお、Phase I審査と同様に、Stop the clockの制度がある。

5 国家補助規制

(1) 規制の概要

 国家補助を規制する根拠条文は、EU機能条約第107条である。同条1項の規定に該当する国家補助は、同条2項・3項、及び第106条2項(公共サービスに関する規定)に規定される例外等に該当しない限り、禁止される。

【条文】EU機能条約第107条
1 本条約に別段の定めがある場合を除き、形式を問わず加盟国により供与される補助又は国家の資金により供与される補助であって、特定の事業者又は特定の商品の生産に便益を与えることにより競争を歪曲し又はそのおそれがあるものは、加盟国間の通商に影響を及ぼす限り、域内市場と両立しない。

 EU機能条約第107条2項では、国家補助のうち域内市場と両立し、禁止されないものとして、以下のものを規定している。
(a)個々の消費者に供与される社会的性格を有する補助
(b)自然災害その他異常事態により生じた損害を補填するための補助
(c)ドイツ分割により影響を受けたドイツ連邦共和国の一定地域の経済に対し、ドイツ分割による経済的不利を補償するために必要な限度において与えられる補助

 EU機能条約第107条3項では、欧州委員会が域内市場との両立について裁量的に判断し、便益が反競争的効果を上回る際に供与が容認され得る国家補助を規定している。
 本項に規定される、具体的な補助の類型は以下の5類型である。
(a)EU全体からみて経済状態が極度に悪い地域の経済開発を促進するための補助
(b)EUとしての重要な計画への補助、又は加盟国の経済の深刻な撹乱に対する補助
(c)特定の経済活動の発展、特定の経済領域の発展を補助する補助
(d)文化や遺産の保護を促進する補助
(e)欧州委員会の提案に基づき、理事会の決定により特定されるその他の類型の補助
 

 このうち、(c)号は対象が広く、事業再生支援についても、本号を根拠とする。
 本項の下、欧州委員会は共同体の政策目的に従って補助を方向付ける広範な裁量を有しており、包括的一括適用免除規則、デ・ミニマス規則等の第二次立法のほか、「救済・事業再生支援ガイドライン」等の多くのガイドライン、告示等を策定している。

(2) 手続規定

 欧州委員会は、既存の国家補助について加盟国と連携して常時審査するほか(第108条1項)、欧州委員会は加盟国から届出のあった新規の国家補助が第107条1項にいう国家補助に該当するか否かを決定する権限を有している。当該補助が第107条1項に該当する場合、同条2項ないし3項の下での適用免除の要件に該当するか否かを審査する(第108条2項)。
 加盟国政府は、包括的一括適用免除規則、デ・ミニマス規則、各種の欧州委員会決定で示された類型(限定された地域的影響しか有しない小規模のプロジェクト)等に該当する補助を除いて、補助の供与計画又は変更計画について欧州委員会へ届出をすることを要し、欧州委員会が、当該補助について域内市場と両立しないおそれがあるとして審査を開始した場合には、当該審査の結論が欧州委員会決定によって示されるまで、加盟国は当該措置を実施してはならない(第108条3項)。これに反して供与された補助は、自動的に域内市場と両立しない「違法な補助」とされ、欧州委員会は当該加盟国に対し当該補助の受給者に返還を求めるよう命ずる義務を負う。

(3) 事業再生支援に係る規制の枠組み

 EU国家補助規制における事業再生支援は、EU機能条約第107条3項(C)を根拠とし、2004年に策定されたガイドラインに置き換わる形で2014年に策定された「救済・事業再生支援ガイドライン」の下、加盟国政府による供与の是非が判断される。
 

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