(2021年1月現在)
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1 根拠法
(1) 名称
マレーシアにおいては,2010年競争法(Competition Act 2010,以下「競争法」という。)が2012年1月に施行され,また,同法の執行機関である競争委員会について規定した2010年競争委員会法(Competition Commission Act 2010,以下「競争委員会法」という。)が2011年1月に施行されている。
(2) 適用範囲
競争法は,原則としてマレーシア市場における競争に影響を与える全ての商業活動に適用され,競争法違反行為がマレーシア国外で行われた場合であっても,当該行為がマレーシア市場における競争に影響を与える場合には適用される(競争法第3条第1項及び第2項)。ただし,1998年通信マルチメディア法(Communications and Multimedia Act 1998)及び2001年エネルギー委員会法(Energy Commission Act 2001)に基づき規制された商業活動については,これらの法律に基づき規制されるため,競争法は適用されない(競争法第3条第3項及び附則1)。
(3) 構成
競争法は,次のような構成となっている。
第1 前文
第2 反競争的行為
第1章 反競争的合意
第2章 支配的地位の濫用
第3章 市場調査
第4章 適用除外
第3 審査と執行
第4 競争委員会による決定
第5 競争不服審判所
第6 一般規定
(4) ガイドライン等
競争法に関連して下記のガイドラインが制定されている。
・申立手続に関するガイドライン(2012年5月2日公表)
・市場画定に関するガイドライン(2012年5月2日公表)
・競争法第1章の禁止行為(反競争的合意)に関するガイドライン(2012年5月2日公表)
・競争法第2章の禁止行為(支配的地位の濫用)に関するガイドライン(2012年7月26日公表)
・罰金・制裁金に関するガイドライン(2014年10月14日公表)
・リニエンシー制度に関するガイドライン(2014年5月2日公表)
2 執行機関等
競争法の執行機関は,競争委員会法に基づき設立された競争委員会である。また,競争委員会の決定に対する不服申立機関として,競争不服審判所が設置されている。
(1) 競争委員会
ア 構成
競争委員会の委員は,委員長,政府を代表する者4名(うち1名は国内取引・消費者行政大臣(以下「大臣」という。)),ビジネス,産業,商業,法律,経済学,行政等に関する知識及び経験を有する者3名ないし5名から構成され,大臣により推薦され,首相が任命する(競争委員会法第5条)。委員の任期は3年を超えない期間であり,再任が認められている(同法第9条)。
イ 権限
競争委員会の主な権限は,以下のとおりである(競争委員会法第16条)。
・大臣又はその他の公的機関に対して,競争に関するあらゆる事項について助言すること
・大臣に対して,既存の法令又は法令案について既に生じている又は生じるおそれのある反競争的効果に関して注意を喚起すること及び適切な場合に当該効果を回避する提言を行うこと
・競争政策及び競争法に関連する国際的な合意について大臣に助言すること
・競争法の規定を実施及び執行すること
・競争法の実施及び執行に係るガイドラインを制定すること
・マレーシア経済又はマレーシア経済の特定の産業における競争に係る問題について,適切な場合には,一般的な調査を実施すること
・競争法の改正について検討し,大臣に勧告すること
(2) 競争不服審判所
ア 構成
競争不服審判所の構成員は,所長(大臣の推薦に基づき,高等裁判所裁判官から首相が任命)及び7名以上20名以下の審判官(大臣の推薦に基づき,産業,商業,経済学,法学,会計又は消費者問題の専門家から首相が任命)である(競争法第45条)。
イ 権限
競争不服審判所の主な権限は以下のとおりであり(競争法第57条),その手続を自ら定めることができる(同法第56条)。
・競争不服審判所における手続の当事者等に対して,不服申立てに係る証拠の提出のため,審判所への出頭を命ずること
・出頭を命じた者から,口頭又は書面により証拠を入手し,必要に応じて証人として審問すること
・出頭を命じた者に対して,競争不服審判所が不服申立てのために必要と考える情報,文書等の提出を要求すること
・提出された証拠の採否を決定すること
3 規制の概要
(1) 反競争的合意
競争法は,商品及びサービスの市場において,競争を著しく妨げ,制限し,ゆがめる目的又は効果を与える水平的合意又は垂直的合意を禁止している(競争法第4条第1項)。
ア 禁止される行為の内容
(ア) 水平的合意
以下を目的とする水平的合意は,上記の目的を有するものとみなす(競争法第4条第2項)。
・直接的又は間接的に,購入価格若しくは販売価格又は他の取引条件を定めること
・市場又は供給者を分割すること
・生産,市場の販売経路若しくは市場へのアクセス,技術開発又は投資を制限又は支配すること
・入札談合行為を実施すること
(イ) 垂直的合意
垂直的合意として,以下の合意が挙げられ,当該合意の競争への影響を踏まえ,反競争的か否かが判断される(競争法第1章の禁止(反競争的合意)に関するガイドライン(以下「第1章ガイドライン」という。))。
・価格制限を含む垂直的合意(再販売価格維持行為)
・非価格制限を含む垂直的合意(抱き合わせ販売等)
・買主に対して,売主から全て又は大部分の商品等を購入することを要求する合意
・地域制限的な排他的流通に係る合意
・顧客獲得を制限する排他的顧客割当に係る合意
・販売業者の有する販売ネットワークへのアクセスに当たり,供給業者が販売業者への支払を必要とする合意のうち,一定のもの
イ 免責
前記アに係る合意の当事者は,下記の条件を満たした場合には,違反行為の責任から免れる(競争法第5条)。
なお,下記のほか,個別に免責が認められる場合などがある(競争法第6条及び第8条)。
・当該合意により,直接的に,顕著に認識し得る技術的,効率的又は社会的な便益があること
・競争を妨げ,制限し,又は歪める効果を与える当該合意なしに,上記便益が合理的にもたらされないこと
・競争に関する当該合意の弊害が,その便益に見合うこと
・当該合意が,商品又はサービスの実質的な部分において,完全に競争を消滅させないこと
(2) 支配的地位の濫用
競争法は,事業者が単独又は共同して,商品及びサービスの市場において,支 配的地位の濫用に相当する行為を禁止している(競争法第10条第1項)。
ア 禁止される行為の内容
支配的地位の濫用として,以下の行為が含まれる(競争法第10条第2項)。
・直接的又は間接的に,不公正な購入価格若しくは販売価格又は他の不公正な取引条件を供給者又は顧客に課すこと
・生産,市場の販売経路若しくは市場アクセス,技術開発又は投資を制限又は支配し,消費者に不利益を与えること
・特定の事業者等に対する供給を拒絶すること
・他の取引相手との同等の取引について,下記①ないし③をもたらす異なる条件を適用すること
① 既存の競合事業者による市場への新規参入,拡大又は投資を断念させる可能性
② 支配的地位を有する事業者と同等の効率性を有する既存の競合事業者に対し,市場からの退出を強いる,又は深刻な損害を与える可能性
③ 支配的地位を有する事業者が参加する市場又は当該市場の川上市場若しくは川下市場における競争を阻害する可能性
・その性質上又は商慣習上,契約の主要部分と関係のない追加条件の受入れを契約条件とすること
・競合事業者に対する略奪的行為
・支配的地位を有する事業者が合理的な商業上の正当性がないにもかかわらず,競合事業者が必要とする希少な中間財又は希少資源を買い占めること
ただし,支配的地位を有する企業による,合理的な商業上の正当性を有する行為又は競合事業者による市場参入若しくは市場行動に対する合理的な対応については,支配的地位の濫用とされない(競争法第10条第3項)。
イ 支配的地位の判断基準
一般的には,マレーシアにおける関連市場のシェアが60%を超える事業者は,支配的地位を有するとされる(競争法第2章の禁止行為(支配的地位の濫用)に関するガイドライン(以下「第2章ガイドライン」という。)第2.2項)。ただし,支配的地位の判断に当たっては,市場への参入の容易性等の他の要素も考慮される(同ガイドライン第2.14項)。
(3) 企業結合規制
企業結合規制は明確に規定されていないが,競争法及び競争委員会法を改正し,企業結合審査手続を導入する準備が進められている。
4 法執行手続
(1) 審査の端緒
競争委員会は,事業者又は個人が競争法に規定された禁止行為を行った又は行っている疑いがあるとする根拠がある場合,審査を開始することができる(競争法第14条)。また,競争委員会は,禁止行為が行われた又は行われていると申告を受けた場合,審査を開始することができる(同法第15条)。
(2) 審査手続
ア 審査権限
審査を担当する競争委員会職員は,刑事手続法(The Criminal Procedure Code)に規定される警察捜査において警察官が有する権限と同様の権限を有する(競争法第17条第2項)。
イ 情報の提供要求と文書の留置
競争委員会は,書面の通知により,当該審査に関する事実等ついて知見があると思われる者に対し,情報又は文書の提供を要求し,又は説明を求めることができる(競争法第18条)。
競争委員会は,上記手続に基づき入手した文書について,必要とみなされる期間,留置することができる(同法第19条)。
ウ 秘密保持
何人も,競争法に基づき入手した特定の事業者又は個人に係る秘密情報について,開示又は利用してはならない(競争法第21条)。ただし,以下のいずれかに該当する場合,この限りではない。
・開示が,情報提供者の同意を得て行われる場合
・開示が,競争委員会の機能又は権限の遂行に必要な場合
・開示が,競争委員会又は競争不服審判所の指示に反しない場合であって,競争法に基づく手続において,合理的に行われる場合
・開示が,競争法違反行為に係る審査に関連して行われる場合
・開示が,他国の競争当局からの要請に応じて,競争委員会の権限に基づき当該当局に対して行われる場合
エ 捜索及び差押え
競争委員会職員から提出された宣誓済の書面を踏まえ,裁判官が検討の上,必要と判断する場合,裁判官は違反行為に利用された施設等の捜索令状を発布することができる。競争委員会職員は,当該令状に基づき,令状記載の施設及び人に対して捜索し,差押えすることができる(競争法第25条)。
また,証拠が改ざん,隠蔽,毀損,又は破壊されるおそれがあると判断する合理的な理由がある場合,競争委員会職員は,令状なしに,同法第25条に規定する令状に基づく権限と同様の権限を行使できる(同法第26条)。
(3) 決定
ア 暫定措置
競争委員会は,審査開始後,競争法違反又は違反のおそれがあると認める合理的な理由がある場合であって,特定の者などに対する重大かつ回復不可能な損害を防止し,又は,公共の利益を保護するために必要と認められる場合,審査完了前に暫定措置を採ることができる(競争法第35条)。
イ 決定案の通知等
審査完了後,競争委員会が,禁止行為が行われた,又は禁止行為が行われているとする決定を行う場合,当該決定により直接影響を受ける可能性のある事業者に対し,決定案を書面で通知する。競争委員会は,当該通知において,決定案の理由,制裁案及び改善措置案を明記し,書面又は口頭での弁明の機会を付与することを提示する(競争法第36条)。
事業者が所定の期間内に口頭での弁明の機会を求めた場合,競争委員会は,そのような機会を設定しなければならない(同法第37条)。また,競争委員会は,禁止行為を行った,又は禁止行為を行っているか否かを決定するため,いつでも聴聞を行うことができる(同法第38条)。
ウ 競争委員会の決定
審査の結果,違反行為が存在すると結論に至った場合,委員会は,(1)違反行為の即時停止を命じるほか,(2)違反行為の停止のために適切と考えられる措置を採ることを求め,(3)金銭的制裁を課し,(4)その他適切と考えられる指示を行うための決定をすることができる(競争法第40条)。金銭的制裁の額は,違反行為が行われた期間における違反行為者の全世界の売上高の10%を上限とする(競争法第40条)。
また,競争委員会は,違反行為が存在しないと決定した場合,遅滞なく決定の内容及び理由について,当該決定により影響を受ける者に対して通知する(同法第39条)。
(4) 不服申立てに係る手続
前記2(2)のとおり,競争委員会の決定に対する不服申立機関として,競争不服審判所が設置されており,競争委員会の決定により自らの利益が侵害される者又は影響を受ける者は,決定から30日以内に,書面により競争不服審判所に不服申立てをすることができる(競争法第51条)。
競争不服審判所は,前記2(2)イの権限により,手続を進め,その決定は,構成員の過半数をもってなされる。競争不服審判所の決定は最終的なものとされ,当事者を拘束する(同法第58条)。
(5) リニエンシー制度
リニエンシー申請の順位及び申請時点での審査段階等により,最大100%の制裁金免除が適用される(競争法第41条条第1項)。
リニエンシーが認められる事業者は以下の条件を満たす者である。
・競争法第4条第2項(水平的合意の禁止。前記3(1)ア(ア)参照)の規定の行為に係る関与を認めた者
・他の事業者の違反行為の発見の特定などにおいて,著しく貢献する情報の提供又はその他競争委員会への協力を行った者
また,競争委員会は以下の要素を勘案して,各事業者の減免率を裁量で決定することができる(同条第2項)。
・競争法違反被疑行為について,リニエンシーの最初の申請者であるかどうか
・リニエンシー申請を行った事業者が違反行為の関与を認めた段階又は情報提供その他の協力が行われた段階における審査状況
・競争委員会が適当と考える他の全ての状況
(6) 確約制度
競争委員会は,競争委員会が課す可能性のある条件に応じて,適切と考えられる内容の確約を,事業者から受け入れることができる。確約を受け入れた場合には,競争委員会は,違反認定及び制裁を課すことなしに,事件を終了することができる(競争法第43条)。
(7) 罰則
競争法に基づく手続に違反した者(競争委員会に対する虚偽又は誤解を招く情報等の提供,記録等の破壊・隠匿・毀損又は改変,審査の妨害などを行った者)は,その者が法人である場合には,500万マレーシアリンギット以下等の罰金が科され,法人以外の者である場合には,100万マレーシアリンギット以下等の罰金並びに5年以下の禁固刑が科され,又は併科される(競争法第61条)。
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