ロシア(Russia)

最新の情報については,当局ウェブサイトを御確認ください。

1 根拠法等

(1) 根拠法

 ロシア連邦における競争法は,競争保護に関する連邦法(Federal Law “On Competition Protection”,以下「競争保護法」という。)のほか,同法の適用範囲を規制する他の連邦法から成る。競争保護法の適用範囲は,ロシア連邦政府規則及びロシア反独占当局の政令により規制される。
 なお,ロシア連邦が締結した国際条約が競争保護法の規定と異なる場合には,同条約の規定が適用される(2条)。

(2) 適用範囲

 競争保護法は,独占的行為及び不公正競争の防止及び抑制など競争保護に関して適用され,また,ロシア法人,外国法人,ロシア連邦行政当局,ロシア連邦に属する諸機関,地方自治体,その他これらの当局の職務を実施する機関,国家予算外基金,ロシア連邦中央銀行及び個人事業者等の自然人に関して適用される(3条)。

2 執行機関

(1) 経緯

 執行機関は,連邦反独占庁(Federal Antimonopoly Service)である。1990年に,同機関の前身である独占禁止政策・新経済構造支援国家委員会が設立され,1997年3月に,独占禁止国家委員会と改称された。その後,1998年9月の行政機構改革により,独占禁止国家委員会は廃止され,同委員会,小企業支援・発展委員会,通信分野に係る自然独占規制局及び運輸分野に係る自然独占規制局の機能を引き継ぐ形で,独占禁止政策・企業支援省が新たに設立された。そして,2004年9月に,独占禁止政策・企業支援省が廃止され,独占禁止当局に係る機能,自然独占に係る活動の監視及び広告に係る法令の遵守などに係る権限が,新たに設立された連邦反独占庁に委譲され,現在に至っている。

(2) 組織

 連邦反独占庁は,中央事務局及び84の地方事務局を有し,競争保護法遵守の監督,競争保護法違反行為の摘発,企業結合審査の承認等を行う権限を有する(22条)。
 本庁の職員数は1,189人,地方部局合計の職員数は2,315人(2017年末現在)。

3 規制の概要

(1) 支配的地位の濫用の禁止

ア 市場支配的地位の定義(5条)

 市場支配的地位とは,「一定の商品市場において商品流通の一般的条件に決定的な影響を与える,当該市場から他の経済的主体を排除すること,及び(又は)他の経済主体による当該商品市場への参入を阻害すること,が可能な単独又は複数の経済主体の地位」と定義される。具体的には,以下に該当する場合に,市場支配的地位が認定される。
[1] 一定商品の市場におけるシェアが50%を超えている場合(ただし,50%以上のシェアを有している場合でも,市場の状況の分析から市場支配的地位が認められない場合を除く。)
[2] 一定商品の市場におけるシェアが50%以下であっても,競合他社と比較した場合の市場シェアの安定性,新規参入の可能性等の市場の特性を総合考慮して反独占当局により市場支配的地位が認められる場合

イ 一定の経済主体についての特則

(ア) 創業者が単独又は複数の自然人である経済主体については,当該経済主体の前歴年における商品の売上げが4億ルーブル超えず,かつ下記に該当しない場合は,市場支配的地位があるとは認められない。(5条21項)
[1] 他の経済主体に属する経済主体(一定の親族関係が他の経済主体への帰属の根拠である場合を除く。)
[2] 金融機関
[3] 商品市場において自然独占状態にある主体
[4] 法人格のある経済主体を創業者又はメンバーとして有する経済主体
[5] ロシア連邦が株式を有する経済主体,ロシア連邦が株式について支配権を有する経済主体,自治体が株式を有する経済主体

(イ) 他の経済主体に帰属しない個人事業主については,当該個人事業主の前歴年における商品の売上高が4億ルーブルを超えない場合,又は他の経済主体に帰属する個人事業主については,当該経済主体が属するグループ全体の前暦年における商品の売上高が4億ルーブルを超えない場合は市場支配的地位があるとは認められない(5条22項)。

(ウ) 複数の企業の地位については,下記の条件をすべて満たす場合に,市場支配的地位が認定される(5条3項)。
[1] 市場における2又は3の経済主体の合計シェアが50%を超え,かつ,それぞれの経済主体のシェアが当該市場の他の経済主体のシェアを超えている場合,又は,市場における2から5の経済主体の合計シェアが70%を超え,かつ,それぞれの経済主体のシェアが市場の他の経済主体のシェアを超えている場合(ただし,いずれかの経済主体のシェアが8%未満である場合を除く。)。
[2] 経済主体の市場シェアが長期間安定しているか,大きな変化がないこと又は競合他社の市場参入が困難であること。
[3] 商品が他の商品で代替することができないものであること,商品の価格の上昇が需要の減少によって調整されないものであること,商品の価格,販売又は購入条件に関する情報が不特定多数の人に利用可能なものであること。

ウ セーフハーバー(5条2項)

 市場シェアが35%以下の場合には,原則として支配的地位とは認定されない。

エ 違反行為類型(10条)

 支配的地位にある事業者による競争の妨害,制限,排除若しくはその他の事業者の利益の侵害となる,又はそのおそれのある行為(不作為)は,以下の行為を含め,禁止される。
[1] 独占的高価格及び独占的低価格の設定及び維持
[2] 商品の流通からの撤収による商品価格の上昇
[3] 取引の相手方に不利益又は合意の対象と関係のない契約条件を押し付けること
[4] 商品に対する需要がある,又は商品生産の削減若しくは中止が法令に定められていない場合における,不当な商品生産の削減又は中止
[5] 商品の生産又は引渡しの可能性があり,かつ契約締結の拒絶が法令に定められていない場合における不当な拒絶
[6] 不当な,同一商品に対する異なる価格(料率)の設定。ただし,法律により設定されている場合には,この限りでない。
[7] 金融機関が,金融サービスについて,不当に高い価格を設定し又は不当に低い価格を設定すること
[8] 差別的条件の設定
[9] 商品市場への参入障壁の設定,又は商品市場からの退出に対する障壁の設定
[10] 法律上要求される価格設定の方法の違反
[11] 電力について,卸売価格及び小売価格を操作すること

(2) 事業者間における競争を制限する合意の禁止

ア 競争事業者間の合意(11条1項)

 競争関係にある(同一市場で商品を販売又は同一市場で商品を購入する)経済主体間における合意は,カルテルと認められ,当該合意が以下に該当する場合又はつながるおそれがある場合に禁止される。
[1] 価格(料率),値引き,値上げ及び(又は)追加料金の維持又は調整
[2] 競争入札における価格の引上げ,引下げ又は維持
[3] 地域,商品の販売量・購入量,販売製品の組み合わせ,又は売手・買手の構成に基づく商品市場の分割
[4] 商品の生産の削減又は中止
[5] 特定の売手又は買手(顧客)との契約締結の拒絶

イ 垂直的合意(11条2項)

 経済主体間における垂直的合意は,後記オで許容されるものを除き,以下の場合に禁止される。
[1] 当該合意が,商品の小売価格の維持につながる場合又はつながる可能性がある場合。ただし,売主が再販売価格の上限を定めている場合を除く。
[2] 当該合意が,買主に対して売主の競争者である経済主体の商品を販売することを禁止するものである場合。ただし,商標や差別化の方法に基づく買主による販売方法に関する合意には適用しない。

ウ 電力の価格操作につながる合意(11条3項)

 電力の卸売及び小売業者,インフラに関する商業的・技術的組織,又はネットワークに関する組織が,電力の卸売又は小売の価格操作につながる合意をすることは禁止される。

エ その他の合意(11条4項)

 前記アからウのほか,経済主体間の合意は,競争制限につながる場合,又は,つながるおそれがある場合,禁止される。禁止される合意には下記の合意が含まれる。
[1] 契約相手方にとって不利益又は合意の対象と関係ない契約条件を押し付けること
[2] 経済的,技術的,その他正当化事由なく,同一商品に異なる価格(料率)を設定すること
[3] 他の経済主体の商品市場への参入,又は当該市場からの退出を阻害すること
[4] 専門家協会その他の協会における参加・加入条件を設定すること

オ 例外(12条)

 以下に該当する垂直的合意は競争保護法違反とはならない。
[1] 書面による商業的利用権契約についての垂直的合意
[2] 垂直的合意の対象となる商品市場におけるそれぞれの経済主体のシェアが20%を超えない場合
[3] 前記エの合意において,支配的地位が認められず,かつ,合意に加わった全ての経済主体の前歴年における売上額が400ルーブルを超えない場合。

(3) 事業者間における競争を制限する協調的行為(11.1条)

ア 概要

 前記(2)ア,ウ及びエ(dを除く。)の経済主体間競争を制限する合意の対象となる行為については,経済主体間で競争を制限する協調的行為を行うことも禁止される。

イ 例外

 以下に該当する協調的行為は競争保護法違反とはならない。
[1] 経済主体の市場シェアの合計が20%以下であり,かつ,各経済主体の市場におけるシェアが8%以下である場合。
[2] 同じグループに属する経済主体同士の協調的行為であり,当該グループのある経済主体が他の経済主体を支配する関係にある場合又は当該グループが第三者の支配下にある場合

(4) 不公正競争の禁止(14.1~14.8条)

 以下の不公正競争行為は禁止される。
[1] 経済主体に対し損害を与える及び(又は)事業の信用を損なわせるおそれのある,虚偽の,不正確な又は歪曲された情報の流布
[2] 販売される商品の質,消費者特性,市場における商品の入手可能性,生産場所,価格等の販売条件について誤認させる表示
[3] 他の経済主体が生産又は販売する商品との不正確な比較
[4] 法人の区別,商品,作業,サービスの差別化のための独占的な権利の取得及び使用に関する不公正な競争
[5] 知的財産の不法使用によって,商品を流通させること
[6] 競争相手である経済主体の事業活動に混乱を生じさせるおそれがあること
[7] 事業上の秘密又は法律で保護されたその他の秘密情報の不法入手,使用及び公開
[8] その他不正な競争

(5) 経済集中に対する国家規制(企業結合規制。26.1条~35条)

ア 反独占当局(「連邦反独占庁」をいう。以下同じ。)の事前承認を必要とする会社の設立,合併又は合弁契約(27条)

 以下のいずれかに該当する合併又は会社の設立については,反独占当局から事前承認を得る必要がある。当事会社は,合併等の完了前に反独占当局による承認を得る必要がある。
[1] 当該設立,合併又は合弁契約の当事会社の直近の貸借対照表上の合算資産額が,70億ルーブルを超える場合
[2] 当該設立,合併又は合弁契約の当事会社の前年の連結売上高が,100億ルーブルを超える場合

イ 反独占当局の事前承認を必要とする株式,持分又は資産の取得(28条)

 以下のいずれかに該当し,競争保護法第28条に定める一定の基準を超える議決権付株式,持分又は資産の取得は,反独占当局から事前承認を得る必要がある。
[1] 買収を行う企業及びそのグループ会社並びに買収の対象企業及びそのグループ会社の直近の貸借対照表上の合算資産額が70億ルーブルを超える場合
[2] 買収を行う企業及びそのグループ会社並びに買収の対象企業及びそのグループ会社の前年の合計売上額が100億ルーブルを超え,かつ,買収の対象企業の直近の貸借対照表上の総資産が4億ルーブルを超える場合

 上記のほか,金融機関の株式,持分又は資産の取得についても,反独占当局の事前承認が必要とされており,別途基準が設けられている(29条)。

ウ 反独占当局への事後届出を必要とする会社の設立,合併,株式,持分又は資産の取得(30条)

 以下のいずれかに該当する企業結合は,実施後45日以内に反独占当局に届出を行う必要がある。
(ア) 会社の設立又は合併の場合
 会社の設立又は合併の結果,消滅する会社の直近の貸借対照表上の総資産額又は前年の商品売上額が4億ルーブルを超える場合

(イ) 株式,持分又は資産の取得の場合
[1] 取得又は買収を行う企業及びそのグループの直近の貸借対照表上の総資産額又は前年の商品売上額が4億ルーブルを超える場合,かつ,
[2] 取得又は買収の対象となる企業及びそのグループの直近の貸借対照表上の総資産額が6千万ルーブルを超える場合

エ 企業結合審査(33条)

 反独占当局は,当事会社からの申請,資料等を審査し,申請を受領した日から30日以内に,その決定について理由を付して申請者に文書で通知しなければならない。
反独占当局は,申請に対する審査の結果,以下のいずれかの決定をする。
[1] 申請書において示された取引その他の活動が競争の制限につながらない場合,申請の承認
[2] 申請書において示された取引その他の活動が,事業者の支配的地位の発生及び強化をもたらすなど競争の制限につながるおそれがある場合,追加資料を得て,追加審査をするための審査期間の延長(審査期間の延長は2か月まで可能)
[3] 第27条(会社の設立,合併等)及び第28条(株式,持分又は資産の取得)に係る申請者が,当該申請の承認を受けるために反独占当局から提示された条件を履行するために必要な申請書審査期間の延長
[4] 申請書に示されている取引その他の活動が,申請者の支配的地位を発生及び強化する結果となるなど競争の制限をもたらす場合,並びに提出資料の審査手続において,反独占当局の意思決定に必要な重要な情報が信頼できない場合,又は反独占当局が当該申請に係る競争制限の存否を判断する際に必要な情報が提出されない場合,申請の承認の拒絶

(6) 当局等に対する禁止規定(15条~17条)

ア 当局等による競争制限行為の禁止(15条)

 連邦行政当局又はロシア連邦の国家行政当局,地方自治体当局,上記当局の職務を実施するその他の当局又は団体,国家予算外基金及びロシア連邦中央銀行(以下「当局等」という。)は,競争の禁止,制限,排除につながる又はつながるおそれのある法律の制定及び行為(不作為を含む。)を行うことは禁じられている(別段の定めが連邦法に存在する場合を除く。)。特に,以下の行為については禁止されている。
[1] 事業分野において経済主体設立に関する制限を導入すること及び個別の事業の実施又は特定種類の製品生産の禁止又は制限の導入
[2] 経済主体の事業実施に対する不当な妨害
[3] ロシア連邦領域内における自由な商品移動に対する禁止の決定若しくは制限の導入又は商品の販売・購入・その他の取得,交換等に対する経済主体の権利のその他の制限の導入
[4] 経済主体に対し,商品優先引渡し又は優先的契約締結に関する指示を行うこと
[5] 購入者に対し,当該商品を提供する経済主体の選択に関する制限を課すこと
[6] 経済主体に対し,情報を優先的に取得させること
[7] 競争保護法5章(補助金)の規定に違反して,国家又は地方自治体による補助を与えること
[8] 差別的な条件を創出すること
[9] 公的サービスの提供又は公的なサービスの提供のために必要不可欠なサービスについて,ロシア連邦法で規定されていない支払いを設定又は請求すること
[10] 経済主体に対して,ロシア連邦法に規定されている場合を除き,商品の購入に関する指示をすること

イ 当局等による競争制限合意及び協調的行動の禁止(16条)

 競争の防止,制限又は排除につながる若しくはつながるおそれのある当局等の間又は当局等と経済主体間で締結される合意又は協調的行動は禁止される。特に,以下の行為は禁止される。
[1] 価格(料率)の引上げ,引下げ又は維持(ただし,ロシア連邦法等に規定されている場合を除く。)
[2] 経済的,技術的,又は他の方法により正当化できない方法による同一商品に対する異なる価格(料率)の設定
[3] 地域,商品の販売量・購入量,販売製品の品目,売手・買手(発注者)の構成等に基づく商品市場の分割
[4] 経済主体の商品市場への参加,商品市場からの離脱を制限すること又は市場から経済主体を排除すること

ウ 入札行為に関する規定(17条)

 入札又は見積り合わせにおける,競争の防止,制限又は排除につながる若しくはつながるおそれのある行為は禁止される。特に,以下の行為は禁止される。
[1] 入札主催者等による入札参加者の活動の調整,競争の制限等を目的とする及びにこれにつながる又はつながるおそれがある入札主催者や入札参加者間の合意
[2] 単独又は複数の入札参加者に対し,情報入手手段を含む入札参加時の優先条件を設定すること
[3] 入札等における単独又は複数の落札者の決定手続違反
[4] 入札主催者等又は入札主催者等の職員による入札参加

(7) 国家又は地方自治体による補助(19条~21条)

 国家又は地方自治体による補助の提供は,次に掲げる場合を除き,反独占当局の事前の書面による承認が必要となる(19条3項)。
[1] ロシア連邦法等に準拠する場合
[2] ロシア連邦法に準拠する準備基金の使用による資金供給の場合
[3] 中央銀行により定められた1回あたりの現金決済額を超えない場合
[4] 中小企業支援のためのロシア連邦及び地方自治体のプログラムに合致する場合
 行政当局又は地方自治体当局が補助を希望する場合には,反独占当局に申請する。これに対し,反独占当局は,当該申請に係る補助が競争保護法19条1項に列挙された目的に合致し,当該補助の供与が競争の排除又は抑止につながらないと判断した場合には,当該申請を承認する。

(8) 一定の行為についての一般的例外規定(13条)

 市場支配的地位の濫用となる行為(ただし,上記3(1)エのうちa,b,c,e,g及びjを除く。),経済主体間の合意及び協調的行為(ただし競争関係にある場合を除く。),経済主体間におけるジョイントベンチャーについては,当該行為が特定の者に対し市場の競争を排除する可能性を生じさせない場合,当該行為の目的達成のための不適切な制限を市場の参加者等に課していない場合又は以下の場合には違反とならない。
[1] 商品の生産,販売の完全化,技術的経済的進歩の促進又はロシア製商品の世界市場における競争力向上
[2] 当該行為の結果得られる消費者利潤と経済主体の利潤の均衡が取れていること

4 法執行手続

(1) 違反事件の端緒等(39条)

 反独占当局は,以下の情報に基づき,被疑違反事件について調査を実施する。
[1] 国の当局又は地方自治体当局から競争法違反の兆候を示す文書の入手
[2] 法人又は自然人からの申告
[3] 反独占当局による職権探知
[4] メディア情報
[5] 他の当局による検査

(2) 調査権限

ア 審理手続の開始

 反独占当局は,違反事件の調査の過程において,違反を示す状況が明らかとなった場合,審理手続を開始する(39条5項)。
反独占当局は,申告等がなされてから1か月の期間内に,申告書の内容,資料等を検討し,競争法違反について審理手続の開始の可否又は警告の発出について決定を下さなければならない。ただし,反独占当局が追加証拠を収集,分析するため,当該検討期間を最大2か月まで延長することが可能。(44条)

イ 審理委員会

(ア) 審理委員会の設置(40条)
 反独占当局は,違反事件ごとに調査を行い,検討するために合議制の審理委員会を設置する。審理委員会は,反独占当局の職員で構成され,反独占当局の長又は副長,若しくは連邦反独占庁の局長が審理委員会の議長となることができる。審理委員会の構成員は,3名以上でなければならず,その意思決定は多数決で行われ,賛否同数の場合は議長が決定権を持つ。
(イ) 審理委員会の権限(41条)
 審理委員会は,審理手続を開催するなどして,事件についての検討を終えた後,事件の事実認定に係る声明,警告,命令,決定(decisions),命令(determinations)を可決する。

ウ 証拠収集手続

 反独占当局職員は,競争法遵守状況を確認する時は,与えられている権限に基づいて身分証明書及び競争法遵守状況の検査実施に関する反独占当局における責任者の決定書を提示することによって,反独占当局に必要な文書及び情報入手のために連邦行政機関,商業組織等に対し,自由に立入りできる権限を有する(24条)。
 また,商業的組織,非商業的組織,連邦行政機関,地方行政機関,個人事業主を含む自然人等は,反独占当局に対して,同当局からの理由を付した要求書に基づいて,定められた期間内に,文書,説明及び情報を提出する義務を負う。これらの情報等には,営業上の機密,職業上の機密,法律で保護されているその他の機密を構成する情報を含む(25条)。

エ 当事者の権利(43条)

 審理手続が開始された時点から,当事者(申告人,関係人及び利害関係人)は,事件資料を閲覧し,その抜粋の作成,証拠の提出,証拠の閲覧等を行い,事件に関与するその他の当事者に問題を提示し,申請書を申請し,文書又は口頭で審理委員会に説明をし,事件審査審理の過程で発生するすべての問題に関する論拠を提示し,事件に関与するその他の当事者の申請書を閲覧し,事件に関与するその他の事業者の申請書,論拠に対して反駁するなどの権利を有する。

オ 違反事件の審理手続(45条)

 審理委員会による審理手続は,審理手続の開始決定の発出から3か月以内に開始される。反独占当局による更なる証拠収集が必要な場合は,当該期間を最大6か月まで延長することができる(45条1項)。
 審理手続は,委員会の会議(the Commission session)において実施され,審理手続の出席者である事件の当事者又はその代理人には当該手続の時間及び場所が通知される(45条2項)。

(3) 審理委員会による審理手続の終了(48条~51条)

 事件審査は,以下の場合に終了する。

ア 審理委員会による審理手続の終了決定(48条)

 審理委員会は,以下の場合に審理手続を終了する。
[1] 審理委員会による審理の結果,違反事実は認められないと判断した場合
[2] 事件審査における唯一の関係人である法人の解散
[3] 事件審査における唯一の関係人である自然人の死亡
[4] 審理委員会により審理された行為に関して,反独占当局による違反の事実を認定した決定が効力を生じた場合
[5] 41.1条に規定された除斥期間(3年)を経過した場合

イ 審理委員会による命令(49条及び50条)

 審理委員会が,審理手続において,当事者によって提出された証拠,資料及び当事者による主張を審理した結果,競争法違反事実を認定した場合には,その旨の決定を下し,違反行為を排除又は防止するために必要な措置を内容とする命令を発出する。
 なお,第10条第1項3,5,6,8号(支配的地位の濫用),第14.1条,第14.2,第14.3,第14.7,第14.8(不公正競争行為)及び第15条(当局等による競争制限行為)に規定する違反行為については,反独占当局は審理手続を経ずに関係人に対して警告を発出する。警告を受けた関係人は,当該警告書に記載された措置を定められた期間内に実施しなければならない。また,当該期間内に措置が実施されない場合は,反独占当局は審理手続を開始しなければならない(39.1条)。

ウ 命令履行義務(51条)

 競争保護法違反事件に関する命令は,命令において定められた期限内に履行しなくてはならない。反独占当局は,命令の執行について監視する。命令を期限内に履行しない場合には,行政制裁の対象となる。
 また,命令違反による事業活動によって得られた収益は,反独占当局による命令に基づいて国庫に納付しなければならない。

(4) 決定又は命令に対する不服申立て(52条)

 競争保護法に基づく決定又は命令に対して,決定の採択又は命令の発出から3か月以内に仲裁裁判所に不服申立てをすることができる。
 仲裁裁判所に不服申立てをする場合,反独占当局の命令執行は,裁判所の決定が効力を生じるまで停止される。

(5) リニエンシー制度について(行政違反法及び刑法)

ア 行政罰に対する適用

 反競争的な合意や協調的行為を行った当事者は,以下の要件に該当する場合にリニエンシーの適用を受けることができる。全額免除を受けられるのは最初の申請者のみであるが,2番目,3番目の申請者についても反独占当局の裁量による減免を受けることができる。

[1] リニエンシー申請時に反独占当局が違反に関連する情報を有していないこと
[2] 反競争的な合意への参加や協調的行為の実行を取りやめていること
[3] 行政罰の立証に十分な証拠を提出すること

イ 刑事罰に対する適用

 以下の要件を満たした個人は,刑事罰を免除される。
[1] 調査へ協力すること
[2] 違反行為によって生じた損害への補償や損害の回復を行うこと
[3] 他の違反行為を行っていないこと

5 罰則等(行政違反法及び刑法)

(1) 競争制限的合意等に関する罰則

ア 競争制限的合意

 カルテル等の競争制限的合意を行った①経済主体に対しては,違反行為があった市場における違反が発生する前年の年間売上高の3%から15%の過料又は違反行為者からの商品等の購入に要した費用の合計が,②個人に対しては,4万から5万ルーブルの過料又は最大で3年間の資格停止が課される。

イ 入札談合

 入札談合への参加を行った①経済主体に対しては,入札開始価格の10%から50%(ただし全売上高の4%を超えない)の過料が,②個人に対しては,4万から5万ルーブルの過料又は最大で3年間の資格停止が課される。
 いずれの場合も,経済主体への過料が10万ルーブルを下回る場合は課されない。また,経済主体に対しては刑事罰が課されないが,個人に対しては刑事罰が課され得る。

(2) 市場支配的地位の濫用及び不公正競争行為に関する罰則

 市場支配的地位の濫用を行い,当該行為が競争の阻害,制限又は排除となる又はこれらにつながるおそれがあった場合,①経済主体に対しては最大で当該市場における売上高の15%の過料が,②個人に対しては最大で5万ルーブルの過料又は最長で3年間の資格停止が課される。

(3) 不公正競争に関する罰則

 不公正競争を行った場合には,①経済主体に対しては最大で50万ルーブルが,②個人に対しては最大で2万ルーブルの過料が課される。不公正競争のうち,知的財産の不法な使用,その他法人,商品等の差別化のための手段の不法な使用による商品の流通については,①経済主体に対しては最大で関連する商品の購入費用の最大15%の過料が,②個人に対しては2万ルーブルの過料又は最大で3年の資格停止が課される。

(4) 企業結合規制に関する罰則

 反独占当局の事前の同意を経ずに行われた企業結合について,反独占当局は企業結合の無効について裁判で争うことができる。また,企業結合についての届出を行わなかった場合や信頼できない情報を提供するなどの手続違反については,①法人に対しては最大で50万ルーブルが,②個人に対しては最大で2万ルーブルが課される。

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