1 出資会社の競争者に対する取引拒絶

 デジタルコンテンツの卸販売業者が,出資会社の意向を踏まえて,出資会社の競争者である配信業者に対して,新規格により制作されたデジタルコンテンツの卸販売を拒絶することについて,独占禁止法上問題となるおそれがあると回答した事例

1 相談者

 X社(デジタルコンテンツの卸配信業者)

2 相談の要旨

(1)X社は,甲地域におけるデジタルコンテンツの卸販売業者であり,デジタルコンテンツメーカーからデジタルコンテンツを購入し,デジタルコンテンツの配信業者に対して販売(卸販売)している。
 甲地域のデジタルコンテンツの卸販売市場におけるX社の市場シェアは約50パーセントであり,他に市場シェア約50パーセントを有する卸販売業者であるP社が存在する。

(2)Y社及びZ社は,甲地域におけるデジタルコンテンツの配信業者であり,卸販売業者を介さずに,デジタルコンテンツメーカーからデジタルコンテンツを直接購入して配信している。
 甲地域のデジタルコンテンツの配信市場におけるY社の市場シェアは20パーセントを超えており,Z社の市場シェアは約10パーセントである。

(3)X社は,Y社から約4割の出資を受けており,Y社は,X社によるデジタルコンテンツの卸販売事業に対して強い影響力を有している。

(4)今般,デジタルコンテンツの品質を向上させる新たな規格が策定されることとなったところ,新たな規格により制作されたデジタルコンテンツ(以下「新規格コンテンツ」という。)は,今後消費者が配信業者を選択するに当たって重要な要素になると考えられる。
 新規格コンテンツについては,従来と異なるフォーマットに変換して配信する必要があるところ,デジタルコンテンツの配信業者がデジタルコンテンツメーカーから直接購入する場合には配信のフォーマットを新規格コンテンツに合わせて変換するための高額な専用設備が必要となるが,卸販売業者は専用設備を既に導入しており,配信のフォーマットを新規格コンテンツに合わせて変換した上で卸販売を行うため,デジタルコンテンツの配信業者が卸販売業者から卸販売を受ける場合には専用設備は不要である。

(5)Z社は,従来,デジタルコンテンツをデジタルコンテンツメーカーから直接購入していたが,新規格コンテンツについては,自社で専用設備を導入することは多額の費用を要するため現実的に困難であることから,卸販売業者であり,Y社の出資先であるX社から卸販売を受けることを希望している。
 しかし,Y社は,甲地域においてZ社と競争関係にあることを理由として,X社に対して,Z社への新規格コンテンツの卸販売に反対する意向を伝えている。

(6)そこで,X社は,Y社の意向を受けて,Z社に対して新規格コンテンツの卸販売を拒絶することを検討している。
 このようなX社の取組(以下「本件取組」という。)は,独占禁止法上問題ないか。

  • 本件の概要図

平成30年度相談事例集事例1概要図

3 独占禁止法上の考え方

(1)事業者が単独で行う取引拒絶であっても,例外的に,独占禁止法上違法な行為の実効を確保するための手段として取引を拒絶する場合には違法となり,また,競争者を市場から排除するなどの独占禁止法上不当な目的を達成するための手段として取引を拒絶する場合には,その他の取引拒絶(一般指定第2項)に該当し,不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)として独占禁止法上問題となる(同法第19条)(流通・取引慣行ガイドライン第2部第3-1〔考え方〕)。

(2)本件取組は,甲地域において有力な卸販売業者であるX社が,自らの出資会社であるY社の意向を踏まえ,Z社に対して取引を拒絶するものであるところ,Z社がP社から同様に新規格コンテンツの卸販売を受けられるのか不明であるものの,
 [1] 新規格コンテンツの取扱いは,今後消費者が配信業者を選択するに当たって重要な要素になると考えられるため,配信業者間の競争において不可欠なものとなり得ること
 [2] Z社が自社で専用設備を導入することは多額の費用を要するため現実的に困難であること
を踏まえれば,Y社の競争者であるZ社が新規格コンテンツの配信ができずにデジタルコンテンツの配信市場から排除される,又は同市場における取引機会が減少するという市場閉鎖効果(注)が生じるおそれがあることから,その他の取引拒絶(直接の取引拒絶)として独占禁止法上問題となるおそれがある。
 なお,本件取組におけるY社の行為は,自己の競争者であることを理由として,X社に対してZ社との取引を拒絶させるものであり,その他の取引拒絶(間接の取引拒絶)又は取引妨害として独占禁止法上問題となるおそれがある。

(注)「市場閉鎖効果が生じる場合」とは,非価格制限行為により,新規参入者や既存の競争者にとって,代替的な取引先を容易に確保することができなくなり,事業活動に要する費用が引き上げられる,新規参入や新商品開発等の意欲が損なわれるといった,新規参入者や既存の競争者が排除される又はこれらの取引機会が減少するような状態をもたらすおそれが生じる場合をいう(流通・取引慣行ガイドライン第1部-3(2)ア〔市場閉鎖効果が生じる場合〕)。

4 回答の要旨

 X社が,Y社の意向を踏まえて,Y社の競争者であるZ社に対して,新規格コンテンツの卸販売を拒絶することは,その他の取引拒絶に該当し,不公正な取引方法として独占禁止法上問題となるおそれがある。
 

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