9 業務提携に向けた情報共有等

 事業者団体とその会員である輸送用機械のメーカーが、購入した部品の共同配送の実施に向けた情報共有及び検討を行った上で、会員間で共同配送を実施することについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例  

1 相談者

 X工業会(輸送用機械Aのメーカーを会員とする団体) 

2 相談の要旨

⑴  X工業会は、輸送用機械Aのメーカーを会員とする団体である。我が国で製造販売を行う輸送用機械Aのメーカーのほとんどがその会員となっている。


⑵  輸送用機械A業界では、輸送用機械Aのメーカーが、部品メーカーから部品を購入し、それらを用いて輸送用機械Aの製造を行っている。購入した部品の納入に係る配送方法については、部品メーカーが輸送用機械Aのメーカーの工場に部品を届ける方法と、輸送用機械Aのメーカーが部品メーカーの工場で部品を受け取る方法(以下「引取物流」という。)の二つがある。
 引取物流では、輸送用機械Aの各メーカーが、物流事業者や自社の物流子会社に部品の配送を委託している。この際、いずれに配送を委託する場合でも、輸送用機械Aの各メーカーは、配送のために特殊な装置を用いなければならないなどといった特殊な条件を付すことはしていない。
 物流事業者においては、輸送用機械Aのメーカー以外からの配送の委託も受けており、同種の物流サービスの調達市場における輸送用機械Aのメーカーの引取物流のシェアは高くない。
 また、X工業会の会員の輸送用機械Aの製品市場におけるシェアは90パーセント超であるが、輸送用機械Aの製造に要する費用全体に占める部品の物流に係る費用の割合は、輸送用機械Aのいずれのメーカーにおいても3パーセント程度である。

⑶ア  働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)によって、令和6年4月1日以降、自動車運転業務についての時間外労働時間は、原則として月45時間及び年360時間が上限となり、臨時的な特別の事情がなければ当該上限を超えることができず、臨時的な特別の事情があっても年960時間が上限とされ、トラックドライバーの労働時間が減少するなどにより、物流への影響が懸念されている(以下、このような問題を「物流の2024年問題」という。)。

  イ  物流の2024年問題の解消に向け、国は「物流の適正化・生産性向上に向けた 荷主事業者・物流事業者の取組に関するガイドライン」(令和5年6月2日経済産業省・農林水産省・国土交通省)において、発荷主事業者及び着荷主事業者に対し、両者間の商取引契約において、物流事業者に過度な負担をかけているものがないか検討し、改善することを促している。


⑷  X工業会は、前記⑶を踏まえ、物流の効率化を目的として、輸送用機械Aのメーカーである会員が共同で部品の引取物流を実施すること(以下「共同ミルクラン」という。)を検討している。

  ア  この検討に当たり、X工業会は、会員とともに、次の(ア)から(ウ)までの取組を行うことを計画している(以下「本件取組①」という。)。

   (ア) X工業会は、会員と部品メーカーとの売買契約で合意したリードタイム等の条件並びに会員から部品メーカーへの個別具体的な納入指示及び会員から物流事業者への配送指示に係る情報(以下これらを併せて「指示情報」という。)を、共同ミルクランへの参加を希望する会員(以下「参加会員」という。)の物流部門からそれぞれ収集する。

   (イ) X工業会は、収集した指示情報を参加会員の物流部門に共有し、参加会員の物流部門と共同で「共同ミルクラン」の制度設計を行う。

   (ウ) 参加会員の物流部門は、共有された指示情報を社内の他部署には共有しない。

  イ  その上で、共同ミルクランについては、次の(ア)から(ウ)までの内容で実施することを検討している(以下「本件取組②」という。)。

   (ア) 引取物流のうち、参加会員が物流事業者に配送を委託するものを対象とする。

   (イ) X工業会は、参加会員の中から1社を共同ミルクランの幹事会社として選定し、指示情報を幹事会社の物流部門に集約する。集約される指示情報には、参加会員が取引する部品メーカーの情報や参加会員間で輸送用機械Aの生産数量の予測を可能にするような情報が含まれる可能性がある。

   (ウ) 幹事会社の物流部門は、各参加会員の物流部門から集約した指示情報を基にマッチングを行って物流事業者を手配し、各参加会員の物流部門に対してマッチング結果を共有した上で、参加会員が取引する部品メーカーとも連携して共同ミルクランを運営する。幹事会社の物流部門及び参加会員の物流部門は、情報の取扱いをそれぞれの社内の物流部門のみで行い、他部署に共有しない。


  本件取組①及び本件取組②は、独占禁止法上問題となるか。



○本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方

 本件取組①及び本件取組②は、輸送用機械Aの部品の物流の効率化を図ることを目的として、事業者団体が主導して競争関係にある会員である事業者間での共同ミルクランについて検討し(本件取組①)、会員間でこれを実施するもの(本件取組②)であることから、関係する独占禁止法の条文は、第3条及び第8条第1号である。
 具体的な検討は次のとおり。

⑴  事業者が、契約、協定その他何らの名義をもってするかを問わず、他の事業者と共同して対価を決定し、維持し、若しくは引き上げ、又は数量、技術、製品、設備若しくは取引の相手方を制限する等相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することは、不当な取引制限(独占禁止法第2条第6項)に該当し、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第3条)。
 また、事業者団体による情報活動を通じて構成事業者間に競争制限に係る暗黙の了解若しくは共通の意思が形成され、又はこのような情報活動が手段・方法となって競争制限行為が行われていれば、原則として独占禁止法第8条違反となる。
 さらに、情報共有が、現在又は将来の事業活動に係る価格等重要な競争手段の具体的な内容に関して、相互間での予測を可能にするような効果を生ぜしめる場合には、独占禁止法上問題となるおそれがある(事業者団体ガイドライン第2の9「情報活動」を参照。)。
 ここで、価格等重要な競争手段の具体的な内容とは、事業者が供給し、又は供給を受ける商品又は役務の価格又は数量、取引に係る顧客・販路、供給のための設備等、制限されることによって市場メカニズムに直接的な影響を及ぼす、事業者の事業活動の諸要素のことをいう(事業者団体ガイドライン第2を参照。)。


⑵   本件取組①及び本件取組②は、物流の2024年問題の解消に向けて購入した部品の物流の効率化を図ることを目的として、X工業会が、各参加会員の物流部門から指示情報を収集し、収集した指示情報を参加会員の物流部門のみと共有した上で、参加会員と共に共同ミルクランの制度を設計し(本件取組①)、それを踏まえ共同ミルクランを実施すること(本件取組②)を検討するものである。

    本件取組に係る独占禁止法上の問題の有無の検討に当たっては、①共同ミルクランの制度設計段階における情報共有(本件取組①)及び②共同ミルクランの実施(本件取組②)の2段階に分けて検討を行う。

  ア  共同ミルクランの制度設計段階における情報共有について(本件取組①)

     共同ミルクランの制度設計段階においてX工業会が収集する指示情報には、参加会員の取引先情報や参加会員間で輸送用機械Aの生産数量の予測を可能にするような情報が含まれる可能性がある。しかしながら、参加会員の物流部門は、共有された指示情報を社内の製造部門・販売部門等の他部署に共有しない。
 そのため、この情報共有を通じて参加会員間に輸送用機械Aの価格・数量・取引先等の競争制限に係る暗黙の了解若しくは共通の意思が形成され、又はこの情報共有が手段・方法となって競争制限行為が行われることはないものと考えられることから、共同ミルクランの制度設計段階における情報共有(本件取組①)は、独占禁止法上問題となるものではない。

  イ  共同ミルクランの実施について(本件取組②)

     共同ミルクランは、共同で物流事業を行うものであり、共同物流の独占禁止法上の問題の検討に当たっては、一般に、①物流サービスの調達市場への影響及び②共同物流の対象商品の販売市場への影響について検討することとなる。しかし、本件取組②は輸送用機械Aの部品の購入者が共同で購入した部品の物流事業を行うものであることから、③輸送用機械Aの部品の調達市場への影響についても検討する。

   (ア) 物流サービスの調達市場への影響について

        輸送用機械Aの各メーカーは、物流事業者や自社の物流子会社に部品の配送を委託し、輸送用機械Aの部品の配送のために特殊な条件を付すことはしていない。さらに、購入した部品の配送を受注する物流事業者においては、輸送用機械Aメーカー以外からの配送委託も受けており、参加会員の物流サービスの調達市場におけるシェアは高くない。
 そのため、共同ミルクランの実施が物流サービスの調達市場へ与える影響は軽微と考えられる。

   (イ) 輸送用機械Aの販売市場への影響について

        輸送用機械Aの製造に要する費用全体に占める購入した部品の物流に係る費用の割合は、いずれの参加会員においても3パーセント程度である。このため、共同ミルクランの実施に伴い参加会員間で共通化される費用の割合は小さいことから、本件取組②による輸送用機械Aの販売価格へ与える影響は軽微と考えられる。

        また、共同ミルクランの実施に伴い幹事会社の物流部門に集約される指示情報には、参加会員の取引先である部品メーカーに関する情報や参加会員間で輸送用機械Aの生産数量の予測を可能にするような参加会員の購入する部品の数量に関する情報が含まれる可能性があるものの、幹事会社の物流部門は、指示情報の取扱いを物流部門のみで行い、社内の他部署に共有しない。また、幹事会社の物流部門から参加会員の物流部門に共有されるマッチング結果については参加会員の物流部門のみで取扱い、社内の他部署に共有しない。そのため、共同ミルクランの実施に伴い行われる情報共有が輸送用機械Aの価格・数量・取引先等の競争制限に係る暗黙の了解若しくは共通の意思が形成され、又はこの情報共有が手段・方法となって競争制限行為が行われることはないものと考えられる。

        以上から、共同ミルクランの実施が輸送用機械Aの販売市場に与える影響は軽微と考えられる。

   (ウ) 輸送用機械Aの部品の調達市場への影響について

        本件取組は、輸送用機械Aのメーカーと部品メーカーとの売買契約が成立した後の部品の輸送面のみの共同の取組であり、また、前記(イ)の情報の取扱いを前提すると、共同ミルクランの実施が輸送用機械Aの部品の価格・数量等について、参加会員間での協調的な行動を助長するおそれはないと考えられる。

        以上のことから、共同ミルクランの実施(本件取組②)は、独占禁止法上問題となるものではない。

  ウ  前記ア及びイを踏まえると、本件取組①及び本件取組②は、独占禁止法上問題となるものではない。

4 回答

  本件取組①及び本件取組②は、独占禁止法上問題となるものではない。 

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