令和5年6月1日
公正取引委員会
はじめに
公正取引委員会は、迅速かつ実効性のある事件審査を行うとの基本方針の下、国民生活に影響の大きい価格カルテル・入札談合・受注調整、中小事業者等に不当に不利益をもたらす優越的地位の濫用や不当廉売などに厳正かつ積極的に対処することとしている。
令和4年度においては、東京オリンピック・パラリンピック関連の入札談合事案や電力小売分野における市場分割カルテル等大規模な入札談合、カルテル事案に厳正に対処したほか、情報システム調達に係る実態調査等のアドボカシーと連携した事案や電力小売分野等規制改革が進められた分野における事案への効果的な取組を行った。また、インボイス制度の導入等に関連した優越的地位の濫用に該当するおそれのある事案など中小事業者等に不当に不利益を与える行為にも迅速に対処した。
令和4年度における独占禁止法違反事件の処理状況は、次のとおりである。
第1 審査事件の概況
1 法的措置等の状況
(1) 排除措置命令等の状況
令和4年度においては、独占禁止法違反行為について、延べ29名の事業者に対して、8件の排除措置命令を行った。排除措置命令8件の内訳は、価格カルテル1件、その他のカルテル(注1)3件、入札談合4件となっている。価格カルテル・その他のカルテル・入札談合8件の市場規模は、総額2兆5370億円超である。
また、令和4年度においては、独占禁止法違反被疑行為について、4名の事業者に対して、3件の確約計画の認定を行った(注2)。いずれも不公正な取引方法(再販売価格の拘束1件、その他の拘束・排他条件付取引(注3)1件、競争者に対する取引妨害1件)となっている。
(注1) その他のカルテルとは、数量、販路、顧客移動禁止、設備制限等のカルテルである(以下同じ。)。
(注2) 確約計画の認定は、確約手続に係る通知を受けた事業者から申請された確約計画を公正取引委員会が認定するという、独占禁止法に基づく行政処分である。公正取引委員会は、認定した確約計画に従って確約計画が実施されていないなどの場合には、当該認定を取り消し、確約手続に係る通知を行う前の調査を再開することとなる。
(注3) その他の拘束・排他条件付取引とは、再販売価格の拘束以外の拘束・排他条件付取引を指す(以下同じ。)。
図1 法的措置(注4)件数等の推移
(注4) 法的措置とは、排除措置命令、課徴金納付命令及び確約計画の認定のことである。一つの事件について、排除措置命令と課徴金納付命令が共に行われている場合には、法的措置件数を1件としている。
(注5) 私的独占と不公正な取引方法のいずれも関係法条となっている事件は、私的独占に分類している。
(2) その他の事件処理の状況
令和4年度においては、事業者から自発的な措置の報告を受けた1件について、法運用の透明性や事業者の予見可能性を高める観点から、事案の概要を公表した。
図2 排除措置命令・確約計画の認定・警告等の件数の推移
(注6) 事案の概要を公表したものに限る。
(3) 課徴金納付命令の状況
令和4年度においては、延べ21名の事業者に対して、総額1019億8909万円の課徴金納付命令を行った。
一事業者当たりの課徴金額の平均は48億5662万円(注7)であった。
(注7) 一事業者当たりの課徴金額の平均については、1万円未満切捨て。
表1 課徴金額等の推移
(注8) 課徴金額については、千万円未満切捨て。
2 刑事告発の状況
公正取引委員会は、平成2年6月に「独占禁止法違反に対する刑事告発に関する公正取引委員会の方針」(注9)を公表し、価格カルテル・入札談合その他の違反行為であって、国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案や違反行為を繰り返す等の公正取引委員会の行政処分では独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案について、積極的に刑事処分を求めて告発を行うこととしている。
令和4年度においては、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)が発注する東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京2020大会」という。)に関するテストイベント計画立案等業務委託契約等(注10)の入札談合事件について、令和5年2月28日、広告代理業等又はイベントの企画・運営等を営む6社及び同6社でテストイベント計画立案等業務委託契約等の受注等に関する業務に従事していた者6名並びに組織委員会大会準備運営第一局次長等としてテストイベント計画立案等業務委託契約等の発注等に関する業務に従事していた者1名を、検事総長に告発した。公正取引委員会は、本件について、発注者である組織委員会の従業者と国内外の主要なスポーツイベント等の運営実績がある大手の広告代理店又は大手のイベント企画・運営会社等である被告発会社らが、国家的プロジェクトである東京2020大会の運営業務等を対象として入札談合を行っていたことなどから、「独占禁止法違反に対する刑事告発に関する公正取引委員会の方針」に照らし、告発することとしたものである。
(注9) 同方針(平成17年、平成21年及び令和2年に一部改定)については、以下のリンク先を参照。
ウェブサイト https://www.jftc.go.jp/dk/dk_qa_files/kokuhatsuhoushin.pdf
(注10) 「テストイベント計画立案等業務委託契約等」とは、組織委員会が順次発注する東京2020大会に関して競技・会場ごとに実施される各テストイベント計画立案等業務委託契約並びに同契約の受注者との間で締結されることとされていた各テストイベント実施等業務委託契約及び各本大会運営等業務委託契約をいう。
3 申告の状況
令和4年度において、独占禁止法の規定に違反すると考えられる事実について、公正取引委員会に寄せられた報告(申告)の件数は、2,991件であった。
申告が書面で具体的な事実を摘示して行われるなど一定の要件を満たした場合には、申告者に対して措置結果等を通知することとされているところ、令和4年度においては、2,735件の通知を行った。
図3 申告件数の推移
4 課徴金減免制度
公正取引委員会は、平成17年独占禁止法改正法により、事業者が自ら関与したカルテル・入札談合について、その違反内容を当委員会に自主的に報告した場合、課徴金が減免される制度(以下「課徴金減免制度」という。)を導入し、さらに、令和元年独占禁止法改正法により、課徴金減免申請の申請順位に応じた減免率に、課徴金減免申請を行った事業者(調査開始日より前に最初に課徴金減免申請をした者を除く。)の事件の真相の解明に資する程度に応じた減算率を付加する制度(以下「調査協力減算制度」という。)を導入し、運用している。
令和4年度において、課徴金減免制度に基づき、事業者から自らの違反行為に係る事実の報告等が行われた件数は、22件であった(平成18年1月の制度導入時から令和4年度末までの累計は1,417件)。
また、令和4年度においては、価格カルテル・その他のカルテル・入札談合事件8件における延べ22名の課徴金減免制度の適用事業者について、これらの事業者の名称、減免の状況等を公表した(注11)。このうち、2事件計4名の事業者に調査協力減算制度を適用した。
(注11) 公正取引委員会は、法運用の透明性等を確保する観点から、課徴金減免制度が適用された事業者について、課徴金納付命令を行った際に、当委員会のウェブサイトに、当該事業者の名称、所在地、代表者名及び免除の事実又は減額の率等を公表することとしている(ただし、平成28年5月31日以前に課徴金減免申請を行った事業者については、当該事業者から公表の申出があった場合に、公表している。)。
なお、公表された事業者数には、課徴金減免申請を行った者であるものの、①独占禁止法第7条の2第1項に規定する売上額(課徴金の算定の基礎となる売上額)が存在しなかったため課徴金納付命令の対象になっていない者及び②算出された課徴金額が100万円未満であったため独占禁止法第7条の2第1項ただし書により課徴金納付命令の対象になっていない者のうち、公表することを申し出た事業者の数を含めている。
ウェブサイト https://www.jftc.go.jp/dk/seido/genmen/kouhyou/index.html
表2 課徴金減免申請件数の推移
年度 | H30 | R元 | R2 | R3 | R4 | 累計 (注12) |
申請 件数 |
72 | 73 | 33 | 52 | 22 | 1,417 |
(注12) 課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から令和5年3月末までの件数の累計。
表3 課徴金減免制度の適用状況
年度 | H30 | R元 | R2 | R3 | R4 | 累計 (注15) |
課徴金減免制度の適用が公表された 法的措置件数(注13)(注14) |
7 | 9 | 8 | 3 | 8 | 164 |
課徴金減免制度が適用された 事業者数 |
21 | 26 | 17 | 10 | 22 | 423 |
(注13) 本表における法的措置とは、排除措置命令及び課徴金納付命令であり、一つの事件について、排除措置命令と課徴金納付命令が共に行われている場合には、法的措置件数を1件としている。
(注14) 排除措置命令のみを行い課徴金納付命令は行わなかったものの、当委員会のウェブサイトに課徴金減免申請を行った旨を公表することを申し出た事業者が存在する事件又は当該事業者を含む。
(注15) (注11)を参照。課徴金減免制度が導入された平成18年1月4日から令和5年3月末までの件数又は事業者数の累計。
表4 調査協力減算制度の適用状況
年度 | H30 | R元 | R2 | R3 | R4 | 累計 |
調査協力減算制度が適用された 法的措置件数 |
― | ― | 0 | 0 | 2 | 2 |
調査協力減算制度が適用された 事業者数 |
― | ― | 0 | 0 | 4 | 4 |
第2 行為類型別の事件概要
1 価格カルテル
令和4年度においては、炭素鋼製突合せ溶接式管継手の製造販売業者らによる価格カルテル事件について、1件の法的措置(排除措置命令及び課徴金納付命令)を採った。
・ 炭素鋼製突合せ溶接式管継手の製造販売業者らによる価格カルテル事件
炭素鋼製突合せ溶接式管継手の製造販売業者らが、共同して販売価格の引上げを行っていく旨を合意していた。 |
2 その他のカルテル
令和4年度においては、旧一般電気事業者らによる市場分割カルテル事件について、3件の法的措置(排除措置命令及び課徴金納付命令)を採った。
・ 旧一般電気事業者らによる市場分割カルテル事件
⑴ 中部電力株式会社、中部電力ミライズ株式会社及び関西電力株式会社が、互いに、相手方の供給区域において相手方が小売供給を行う大口顧客の獲得のための営業活動を制限することを合意していた。 ⑵ 中国電力株式会社及び関西電力株式会社が、 ア 互いに、相手方の供給区域に所在する相対顧客の獲得のための営業活動を制限する イ 関西電力株式会社にあっては、中国電力管内において順次実施される官公庁入札における入札参加及び安値による入札を制限する ことを合意していた。 ⑶ 九州電力株式会社、九電みらいエナジー株式会社及び関西電力株式会社が、互いに、相手方の供給区域において順次実施される官公庁入札等で安値による電気料金の提示を制限することを合意していた。 (令和5年3月30日 排除措置命令(3件)及び課徴金納付命令) (課徴金総額:1010億3399万円) |
〇電気事業連合会に対する申入れ
電気事業連合会の会員である中部電力株式会社、関西電力株式会社、中国電力株式会社及び九州電力株式会社を含む違反事業者により、上記の独占禁止法違反行為が行われ、排除措置命令を行ったこと、また、本件審査において、当該違反事業者が、同連合会が開催する会合の機会や同連合会へ出向したことのある者同士が出向した際に構築した業務上の関係を利用して、本件違反行為に係る情報交換を行っていた事実が認められたことから、同連合会に対し、今後、本件違反行為と同様の行為又は独占禁止法違反につながる情報交換が行われないよう、同連合会の会員、役員及び事務局職員に対して周知徹底することを申し入れた。
〇電力・ガス取引監視等委員会に対する情報提供
本件審査において認められた以下の事実等について、電気の小売供給市場における競争の適正化を図るため、電力・ガス取引監視等委員会に対し情報提供を行った。
⑴ 違反事業者により、上記の独占禁止法違反行為が行われ、排除措置命令を行ったこと
⑵ 旧一般電気事業者及びその販売子会社は、会合等において、営業活動に関する情報交換を行っていたこと。また、旧一般電気事業者及びその販売子会社は、自社の供給区域外の顧客に営業活動を行う際に、当該区域を供給区域とする旧一般電気事業者に対して、「仁義切り」などと称して、当該顧客に営業活動を行うことなどに関する情報交換を慣習的に行っていたこと。当該情報交換は、旧一般電気事業者及びその販売子会社の代表者、役員級、担当者級といった幅広い層で行われていたこと。
⑶ 電力・ガス取引監視等委員会が、旧一般電気事業者及びその販売子会社の小売供給価格を監視するモニタリング調査を行っていたところ、旧一般電気事業者及びその販売子会社の中には、当該調査を行っていたことを利用し、他の旧一般電気事業者に対し、安値での小売供給に関して牽制等をしていた者がいたこと。
⑷ 旧一般電気事業者の中には、競争により顧客移動が生じていることを示すために、価格競争によらず、相互に顧客を獲得することを企図していた者がいたこと。
⑸ 旧一般電気事業者の中には、各供給区域における電気の需要の大部分に相当する電気を自ら発電又は調達してきたところ、自社又はその販売子会社の小売価格及び自社の販売子会社に卸供給する価格を、当該販売子会社以外の新電力に卸供給を行う価格よりも安価に設定していた者がいたこと。
⑹ 旧一般電気事業者の中には、卸売市場への電気の供給量の絞り込みを行い、市場価格を引き上げることなどにより、外部からの調達に依存する新電力の競争力を低下させることを企図していた者がいたこと。
⑺ 旧一般電気事業者の中には、新電力に対し、相対取引で電気の卸供給を行うに当たり、当該旧一般電気事業者の供給区域においては当該電気の小売供給を行わないように求めていた者がいたこと。
3 入札談合
令和4年度においては、広島県又は広島市が発注するコンピュータ機器の入札等の参加業者らによる入札談合事件(2件)、愛知県又は岐阜県に所在する病院が発注する医事業務の入札等の参加業者による入札談合事件、独立行政法人国立病院機構が発注する九州エリアに所在する病院が調達する医薬品の入札参加業者らによる入札談合事件について、4件の法的措置(排除措置命令及び課徴金納付命令)を採った。
・ 広島県又は広島市が発注するコンピュータ機器の入札等の参加業者らによる談合事件
⑴ 広島県教育委員会発注のコンピュータ機器の入札等の参加業者らが、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。 ⑵ 広島市発注のコンピュータ機器の入札参加業者らが、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。 (令和4年10月6日 排除措置命令(2件)及び課徴金納付命令) (課徴金総額:5682万円) |
・ 愛知県又は岐阜県に所在する病院が発注する医事業務の入札等の参加業者による談合事件
愛知県又は岐阜県に所在する病院発注の医事業務の入札等の参加業者が、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。 |
・ 独立行政法人国立病院機構が発注する九州エリアに所在する病院が調達する医薬品の入札参加業者らによる談合事件
独立行政法人国立病院機構発注の九州エリアに所在する病院が調達する医薬品の入札参加業者らが、受注予定者を決定し、受注予定者が受注できるようにしていた。 |
4 不公正な取引方法
(1) 再販売価格の拘束
令和4年度においては、株式会社一蘭による再販売価格の拘束被疑事件について、1件の法的措置(確約計画の認定)を採った。
・ 株式会社一蘭に対する確約計画の認定
公正取引委員会は、株式会社一蘭に対し、同社の次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして、確約手続通知を行ったところ、同社から当該行為を取りやめる等の確約計画の認定申請があり、当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め、当該計画を認定した。 ○ 株式会社一蘭は、同社が販売する即席めん等(以下「一蘭の即席めん等」という。)に関し、自ら又は取引先卸売業者を通じて小売業者に販売しているところ、遅くとも平成30年1月以降、一蘭の即席めん等の商品ごとに希望小売価格を定めた上で(以下当該商品ごとに定められた希望小売価格を「一蘭の希望小売価格」という。)、当該商品が小売業者において販売される態様(同一の商品を複数まとめる場合又は異なる商品を組み合わせる場合を含む。)にかかわらず ⑴ 当該商品の購入を希望する小売業者に対し、一蘭の希望小売価格から割引した価格による販売を行わないよう要請し、これに同意した小売業者に ⑵ 取引先卸売業者をしてその取引先である当該商品の購入を希望する小売業者に一蘭の希望小売価格から割引した価格による販売を行わないよう要請させ、これに同意した小売業者への販売を行うことになる当該取引先卸売業者に 当該商品をそれぞれ供給している。 (令和4年5月19日 確約計画の認定) |
(2) 拘束条件付取引
令和4年度においては、エクスペディア・ロッジング・パートナー・サービシーズ・サールによる拘束条件付取引被疑事件について、1件の法的措置(確約計画の認定)を採った。
・ エクスペディア・ロッジング・パートナー・サービシーズ・サールに対する確約計画の認定
公正取引委員会は、エクスペディア・ロッジング・パートナー・サービシーズ・サール(以下「エクスペディア」という。)に対し、同社の次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして、確約手続通知を行ったところ、同社から当該行為を取りやめる等の確約計画の認定申請があり、当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め、当該計画を認定した。 ○ エクスペディアは、自社の企業グループに属する事業者が運営する「Expedia」と称する宿泊予約サイト(以下「Expediaサイト」という。)に我が国所在の宿泊施設を掲載する、宿泊施設の運営業者(以下「宿泊施設運営業者」という。)との間で締結し、又は自社の企業グループに属する事業者をして締結させる契約において、Expediaサイトに宿泊施設運営業者が掲載する我が国所在の宿泊施設に係る宿泊料金及び部屋数について、他の販売経路と同等又は他の販売経路よりも有利なものとする条件(ただし、当該契約において定めている、当該宿泊料金について自社ウェブサイト等の販売経路と同等又は当該販売経路よりも有利なものとする条件を除く。)を定めるとともに、宿泊施設運営業者に対し、当該条件の遵守について、自ら要請し、又は我が国においてエクスペディアに対する支援業務を行うエクスペディアホールディングス株式会社をして要請させている。 (令和4年6月2日 確約計画の認定) |
(3) 優越的地位の濫用
令和4年度においては、株式会社セブン-イレブン・ジャパンによるプライベート・ブランド製造委託に関する「商品案内作成代」の徴収について、当該徴収を取りやめるなどの措置を自発的に講じた旨の報告があったことから、事案の概要を公表した。
・ 株式会社セブン-イレブン・ジャパンによるプライベート・ブランド製造委託に関する「商品案内作成代」への対応について
公正取引委員会は、株式会社セブン-イレブン・ジャパンの取引先が、株式会社セブン-イレブン・ジャパンのプライベート・ブランド等の製造委託先下請事業者から「商品案内作成代」を徴収していたことについて、下請法上の勧告(注16)をした後、これに関連して、株式会社セブン-イレブン・ジャパンに対し、当該取引先との間における優越的地位の濫用の観点からみた問題の有無について事実確認するため資料を求めるなどした。こうした中、株式会社セブン-イレブン・ジャパンから、当該取引先との取引を含むプライベート・ブランド等の製造委託に関する「商品案内作成代」の徴収を取りやめ、徴収していた取引先に対して、その旨を通知するなどの措置を自発的に講じた旨の報告があったため、これ以上の対応は行わないこととした旨を公表した。 |
(注16) 株式会社エスアイシステムに対する勧告について
ウェブサイト https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/2022/sep/220909_SIsystem.html
このほか、令和4年度においては、優越的地位の濫用につながるおそれがあるとして55件の注意を行った(別添参照)。
(4) 競争者に対する取引妨害
令和4年度においては、ホームページの管理を行うために導入するコンテンツ管理システム(注17)の販売業者による競争者に対する取引妨害被疑事件について、1件の法的措置(確約計画の認定)を採った。
(注17) 組織が持つ情報(コンテンツ)の配信、版管理等を行うためのシステムをいう。
・ 株式会社サイネックス及び株式会社スマートバリューに対する確約計画の認定
公正取引委員会は、株式会社サイネックス及び株式会社スマートバリューの2社(以下「2社」という。)に対し、2社の次の行為が独占禁止法の規定に違反する疑いがあるものとして、確約手続通知を行ったところ、2社からそれぞれ当該行為を取りやめる等の確約計画の認定申請があり、当該計画が独占禁止法に規定する認定要件に適合すると認め、当該計画を認定した。 ○ 2社は、平成31年2月頃以降、自らのホームページをリニューアルする業務(以下「本件業務」という。)の発注を検討している市町村及び特別区(以下「市町村等」という。)に対して、それぞれが行う受注に向けた営業活動において、当該市町村等が本件業務の仕様において定める、ホームページの管理を行うために導入するコンテンツ管理システム(以下「CMS」という。)について、2社によって作成された、オープンソースソフトウェアではないCMSとすることが当該ホームページの情報セキュリティ対策上必須である旨を記載した仕様書等の案を、自らだけではCMSに係る仕様を設定することが困難な市町村等に配付するなどして、オープンソースソフトウェアのCMSを取り扱う事業者が本件業務の受注競争に参加することを困難にさせる要件を盛り込むよう働き掛けている。 (令和4年6月30日 確約計画の認定) |
○ 地方公共団体への周知
公正取引委員会は、市町村等におけるベンダーロックインや独占禁止法違反行為の未然防止のための取組に資するべく、全国の地方公共団体に対し、本件新聞発表文を周知した。
(5) 不当廉売
令和4年度においては、酒類、石油製品等の小売業に係る不当廉売の申告に対し迅速処理(注18)を行い、不当廉売につながるおそれがあるとして192件の注意を行った。
また、「ガソリン等の流通における不当廉売,差別対価等への対応について」の改定(令和4年11月11日)も踏まえて、繰り返し注意を受けた事業者に対し、①複数の給油所を運営している場合にあっては、事案に応じて本社の責任者に対して注意を行う、②注意後の販売価格、仕入価格等について報告を求めるなどして問題がみられる場合には早期に対処することとするなど実効性のある事件処理に努めた。
(注18) 原則として、申告のあった不当廉売事案に対し可能な限り迅速に処理する(原則2か月以内)という方針に基づいて行う処理をいう。
表5 令和4年度の不当廉売事案の注意件数(迅速処理によるもの)
酒類 | 石油製品 | 家電製品 | その他 | 合計 | |
注意件数 | 37 | 151 | 0 | 4 | 192 |
図4 不当廉売事案の注意件数の推移
(6) その他(協同組合等による不公正な取引)
その他の事例として、農業分野では、米殻等を集荷し販売する事業者を組合員とする協同組合が、組合員に対し、協同組合以外への米穀の出荷分に対し手数料を徴収していた疑いがあったとして、独占禁止法違反につながるおそれがあるとして注意を行った事例があるほか、漁業分野では、漁業協同組合が、組合員との間で、全量出荷を条件として漁業権を行使するための契約を締結していた疑いがあったとして、独占禁止法違反につながるおそれがあるとして注意を行った事例などがある。
第3 タスクフォースの取組状況等
1 IT・デジタル関連分野
公正取引委員会は、IT・デジタルタスクフォース(注19)を設置し、当該分野における独占禁止法違反被疑行為に係る情報に接した場合に、専門的な検討・分析、効率的な調査を実施することとしている。
また、同分野における独占禁止法違反被疑行為に係る情報を広く受け付けるため、平成28年10月に専用の情報提供窓口を設置している。公正取引委員会においては、今後窓口の更なる周知徹底を図るなどして、より効率的な情報収集ができるよう取り組んでいくこととしている。令和4年度における当該情報提供窓口における情報受付件数は139件となっている。平成29年度以降の各年度における情報受付件数は以下のとおりである。
表6 IT・デジタル関連分野における情報受付件数
年度 | H29 | H30 | R元 | R2 | R3 | R4 |
情報受付 件数 |
104 | 117 | 180 | 182 | 140 | 139 |
(注19) 令和3年8月にITタスクフォースから改称。
2 その他の分野
公正取引委員会は、前記1のIT・デジタルタスクフォースのほか、農業分野タスクフォース、公益事業タスクフォース等を設置している。また、専用の情報提供窓口を設置しており、令和4年度における当該情報提供窓口における情報受付件数は、農業分野が40件、電力・ガス分野が87件となっている。
【情報提供窓口の電話番号等】
<電話番号>
IT・デジタル関連分野 03-3581-5492
農業分野 03-3581-3387(※)
電力・ガス分野 03-3581-1760
※ 農業分野については、上記のほか、各地方事務所・支所にも窓口を設置している。
<情報提供フォーム>
https://www.jftc.go.jp/application/zzza092.html
※ IT・デジタル関連分野、農業分野、電力・ガス分野とも共通のアドレス
第4 独占禁止法違反に係る行政処分に対する取消請求訴訟(注20)
令和4年度当初において係属中の排除措置命令等取消請求訴訟は8件(東京地方裁判所5件、東京高等裁判所3件)(注21)であったところ、同年度中に新たに提起された排除措置命令等取消請求訴訟はなかった。
令和4年度当初において東京地方裁判所に係属中であった5件のうち2件については、令和4年度中に判決(請求棄却)があり、いずれについてもその後控訴(うち1件については令和5年度に控訴)され、東京高等裁判所に係属中である。
令和4年度当初において東京高等裁判所に係属中であった3件のうち2件については、同裁判所が控訴を棄却する判決をしたが、いずれについてもその後、最高裁判所に上告及び上告受理申立てがなされ、2件のうち1件については同裁判所が上告棄却及び上告不受理決定をしたことにより終了し、その余の1件については同裁判所に係属中である。
これらの結果、令和4年度末時点において係属中の排除措置命令等取消請求訴訟は6件(上記令和5年度に控訴された1件は含まない)であった。
(注20) 審判制度の廃止に伴い、平成27年度以降、独占禁止法違反に係る行政処分に対する取消請求訴訟は、直接東京地方裁判所に提起する制度となっている。
(注21) 排除措置命令等取消請求訴訟の件数は、訴訟ごとに裁判所において番号が付される事件の数である。
第5 審決取消請求訴訟
令和4年度当初において係属中の審決取消請求訴訟の件数(注22)は15件であり、これらのうち、同年度中に東京高等裁判所が原告の請求を棄却した判決が2件(いずれも原告が上訴)、最高裁判所が上告不受理決定をしたことにより終了したものが1件あった(別表第9表参照)。
この結果、令和4年度末時点では14件の審決取消請求訴訟が係属中である。
(注22) 審決取消請求訴訟の件数は、第一審裁判所において番号が付される事件の数である。
関連ファイル
(印刷用)(令和5年6月1日)令和4年度における独占禁止法違反事件の処理状況について(20,582 KB)
問い合わせ先
第1から第4までに関する問い合わせ 公正取引委員会事務総局審査局管理企画課
電話 03-3581-3381(直通)
第5に関する問い合わせ 公正取引委員会事務総局官房総務課(審判・訟務担当)
電話 03-3581-5478(直通)
ホームページ https://www.jftc.go.jp/