令和5年3月1日
公正取引委員会
令和3年12月27日、中小企業等が労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇分を適切に転嫁できるようにし、賃金引上げの環境を整備するため、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」(内閣官房・消費者庁・厚生労働省・経済産業省・国土交通省・公正取引委員会。以下「転嫁円滑化施策パッケージ」という。)が取りまとめられた。
令和4年3月30日、公正取引委員会は、転嫁円滑化施策パッケージの内容も踏まえ、「令和4年中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」を策定し、適正な価格転嫁の実現に向けて、独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に関する緊急調査(以下「緊急調査」という。)の実施や事業者団体への自主点検の要請など、従来にない規模の取組を進めてきた。
今般、公正取引委員会は、このような緊急調査や自主点検の結果等を踏まえ、以下のとおり、新たに「令和5年中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」を策定し、適正な価格転嫁の実現に向けて、取引の公正化の更なる推進を図っていくこととした。
公正取引委員会としては、今後、発注者からの積極的な価格転嫁に向けた協議が重要であることなどを改めて周知徹底するとともに、緊急調査のフォローアップを含む転嫁円滑化に向けた更なる調査を実施するほか、引き続き、価格転嫁円滑化スキームに基づき、関係省庁と緊密に連携を図り、中小事業者等から寄せられる情報も活用しつつ、執行強化の取組を進め、独占禁止法又は下請法に違反する事案については、より積極的かつ厳正に対処していく。
第1 独占禁止法の執行強化
1 転嫁円滑化に向けた更なる調査の実施
公正取引委員会は、令和4年3月30日、緊急調査の中心となる対象業種として22業種を選定し、同年6月3日には受注者8万名に対し、同年8月30日には発注者3万名に対し、それぞれ書面調査を開始し、同年12月27日、緊急調査の結果を取りまとめ、公表した。
今後、令和4年6月1日から令和5年5月31日までを調査対象期間とし、令和5年6月を目途に、緊急調査(22業種11万名)を上回る規模の業種及び発送数の書面調査を開始する。この際、コスト構造において労務費の占める割合が高い業種に対し重点的に調査票を送付するなど労務費に関する対応を強化する。あわせて、緊急調査において注意喚起文書を送付した4,030名及び多数の取引先に対して協議を経ない取引価格の据え置き等が認められたため事業者名を公表した13名について、その後の価格転嫁の取組状況の確認(フォローアップ)を行う。
書面調査等の結果を踏まえ、協議を経ない取引価格の据え置き等が疑われる事案について、立入調査等を行い、令和5年内を目途に調査結果を取りまとめ、公表する。また、問題につながるおそれのある行為が認められた事案については、具体的な懸念事項を明示した注意喚起文書を送付するなど必要な対応を採るとともに、独占禁止法上問題が認められた事案については、より積極的かつ厳正に対処していく。
2 荷主と物流事業者との取引に関する調査の実施
公正取引委員会は、荷主による物流事業者に対する優越的地位の濫用を効果的に規制する観点から、平成16年に「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(物流特殊指定)を指定(注)し、荷主と物流事業者の取引公正化に向けた調査を継続的に行っている。令和4年度においても、令和4年9月30日に荷主3万名に対し、令和5年1月13日に物流事業者4万名に対し、それぞれ書面調査を開始した。今後、書面調査等の結果を踏まえ、協議を経ない取引価格の据え置き等が疑われる事案について、前回調査を大幅に上回る規模の立入調査を行い、令和5年5月を目途に調査結果を取りまとめ、公表する。また、問題につながるおそれのある行為が認められた事案については、具体的な懸念事項を明示した注意喚起文書を送付するとともに、独占禁止法上問題が認められた事案については、より積極的かつ厳正に対処していく。
(注)独占禁止法は、禁止行為の一つである「不公正な取引方法」の規制に際し、その具体的な内容は公正取引委員会が告示で指定するという法形式を採用しており、物流特殊指定においては、荷主及び物流事業者の資本金等が一定の関係にあるときには、それぞれ特定荷主及び特定物流事業者として、物流特殊指定の適用対象となり、物流特殊指定の規定する禁止行為に該当する場合には、独占禁止法上問題となるものである。
第2 下請法の執行強化等
1 重点的な立入調査の実施
公正取引委員会及び中小企業庁は、令和4年5月31日、令和3年度における下請法違反被疑事件の処理状況等を踏まえ、下請法上の重点立入業種として、道路貨物運送業、金属製品製造業、生産用機械器具製造業及び輸送用機械器具製造業の4業種を選定した。公正取引委員会は、令和5年2月末までに、168件の重点的な立入調査を実施した。
今後、公正取引委員会は、令和4年度における下請法違反被疑事件の処理状況等を踏まえ、令和5年5月を目途に令和5年度の下請法上の重点立入業種を選定し、重点的な立入調査を実施する。重点的な立入調査を通じて、協議を経ない取引価格の据え置き等が認められた事案については、下請法上の勧告又は指導を迅速かつ積極的に実施する。
2 下請法違反行為の再発防止が不十分な事業者に対する取組の実施
公正取引委員会及び中小企業庁は、令和4年5月20日、下請法違反行為の再発防止が不十分と認められる事業者に対し指導を行う際に、取締役会決議を経た上での改善報告書の提出を求めていくこととした。公正取引委員会は、令和5年2月末までに、7件の改善報告書の提出を求めた。
引き続き、公正取引委員会は、上記の取組を着実に実施していく。
3 法違反等が多く認められる業種における取引適正化に向けた取組強化の把握
公正取引委員会及び中小企業庁は、令和4年9月14日、下請法違反行為が多く認められる19業種(このうち5業種は荷主による独占禁止法違反につながるおそれのある行為が多く認められる業種にも該当する。)について、事業所管省庁と連名により、関係事業者団体に対して、傘下企業による法遵守状況の自主点検を要請し、同年12月14日、法遵守状況の自主点検の結果を取りまとめ、公表した。
法遵守状況の自主点検の結果においては、関係事業者団体及び事業所管省庁における今後の取引適正化に向けた取組の強化の内容についても記載したところ、今後、公正取引委員会は、関係省庁とも連携し、関係事業者団体等が実施した取引適正化に向けた取組の強化の内容について、緊急調査において、注意喚起文書の送付件数又は割合が多かった業種も対象に加えつつ、令和5年内を目途に必要なフォローアップを行う。
第3 独占禁止法及び下請法の考え方の周知徹底
1 法律上問題となり得る取引価格の据え置きに関する考え方の周知
公正取引委員会は、令和4年1月26日、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号。以下「下請法運用基準」という。)を改正するとともに、同年2月16日、公正取引委員会ウェブサイトに掲載している「よくある質問コーナー(独占禁止法)」のQ&A(以下「独占禁止法Q&A」という。)を追加し、労務費、原材料費、エネルギーコスト等のコストの上昇分を取引価格に反映せず、従来どおりに取引価格を据え置くことは、下請法上の買いたたき又は独占禁止法上の優越的地位の濫用の要件の1つに該当するおそれがあり、下記の①及び②の2つの行為がこれに該当することを明確化した。
① 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと ② 労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストが上昇したため、取引の相手方が取引価格の引上げを求めたにもかかわらず、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等で取引の相手方に回答することなく、従来どおりに取引価格を据え置くこと ※下請法運用基準は、上記の「取引の相手方」を「下請事業者」としている。 |
・ ①に該当する行為については、多くの場合、発注者のほうが取引上の立場が強く、受注者からはコスト上昇が生じても価格転嫁を言い出しにくい状況にあることを踏まえ、積極的に発注者からそのような協議の場を設けることが円滑な価格転嫁を進める観点から有効かつ適切であることから、明示的に協議を行わないことを、
・ ②に該当する行為については、受注者からコスト上昇を踏まえた取引価格引上げの要請があったにもかかわらず、受け入れない場合には、その理由については書面等の形に残る方法で伝えることが円滑な価格転嫁を進める上では有効かつ適切であることから、書面等による回答を行わないことを、
それぞれ下請法上の買いたたき又は独占禁止法上の優越的地位の濫用の要件の1つに該当するおそれがある行為として挙げている。
下請法運用基準及び独占禁止法Q&Aに掲載した事例は、現下のような労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコストの急激な上昇という経済環境においては、
・ 受注者からの要請の有無にかかわらず、発注者から積極的に価格転嫁に向けた協議の場を設けていくこと
・ 受注者からの取引価格引上げの要請を受け入れない場合であっても、価格転嫁をしない理由を書面、電子メール等の形に残る方法で行うこと
が発注者に求められていることを明確化したものである。
公正取引委員会は、上記の下請法運用基準及び独占禁止法Q&Aについて、今後、関係省庁とも連携しつつ、下記のとおり、改めて事業者、事業者団体等向けの周知徹底を図る。
ア 円滑な価格転嫁に向けた要請
円滑な価格転嫁に向けて、上記の考え方を周知し、積極的な協議を後押しする観点から、関係事業者団体に対し、文書で要請を行う。
イ 経済団体等への働きかけ
発注側の大企業、受注側の中小事業者等を含め、取引の当事者となる事業者への周知徹底を図るため、経済団体等との意見交換の場を設けて、傘下の団体、事業者等への周知について働きかけを行う。
ウ ウェブサイト等を通じた周知
令和5年1月31日、政府インターネットテレビに、下請法を解説する新たな動画「下請事業者を守る下請法」を掲載し、その中に、発注者から積極的に価格転嫁に向けた協議の場を設けていくことが重要である旨を盛り込んだところ、当該動画の周知を図っていく。
2 相談対応及び情報収集の実施
ア 中小事業者等からの相談対応
公正取引委員会は、中小事業者等からの相談を受け付ける「不当なしわ寄せに関する下請相談窓口」を設置し、フリーダイヤル経由の電話相談を受け付けているほか、中小事業者等からの要望に応じ、オンライン相談会を実施しているところ、引き続き、相談窓口の周知徹底を図っていく。
「不当なしわ寄せに関する下請相談窓口」 ゼ ロ ゼロ 1 1 0 番 電話番号 0120-060-110 ※固定電話のほか、携帯電話からも御利用いただけます。 ※公正取引委員会の本局又は地方事務所等の相談窓口につながります。 【受付時間】10:00~17:00 (土日祝日・年末年始を除く。) |
イ 中小事業者等からの情報収集
公正取引委員会及び中小企業庁は、中小事業者等が匿名で情報提供できる「違反行為情報提供フォーム」を設置し、買いたたきなどの違反行為が疑われる親事業者に関する情報を受け付けている。公正取引委員会に対しては、令和5年2月末までに、613件の情報が寄せられた。
引き続き、「違反行為情報提供フォーム」の周知徹底を図るとともに、同フォームに寄せられた情報を活用しつつ、各種調査を実施していく。
「違反行為情報提供フォーム」 (買いたたきなどの違反行為が疑われる親事業者に関する情報提供フォーム) |
関連ファイル
(令和5年3月1日)「令和5年中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」の策定について(42 KB)
(令和5年3月1日)「令和5年中小事業者等取引公正化推進アクションプラン」の概要 (383 KB)
問い合わせ先
公正取引委員会事務総局 経済取引局 取引部
企業取引課 電話 03-3581-3373(直通)(下記以外)
下請取引調査室 電話 03-3581-3374(直通)(第2の2関係)
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