EU
欧州委員会,デ・ミニマス告示の改正を採択
2014年6月25日 欧州委員会 公表
【概要】
欧州委員会は,EU競争法に基づく反競争的行為の一般的な禁止の対象とはならない小規模の協定について評価する規則(いわゆる「デ・ミニマス告示」という。)を改正した旨公表した。
本規則は,特に中小事業者によるEU競争法の遵守を促進すると同時に,単一市場においてより競争を歪曲する危険性が高い協定に対し欧州委員会の資源を集中させるものである。
本規則は,従来の規則と同様,市場シェアの閾値によって,欧州委員会が大幅な競争制限であると判断する基準を明らかにしており,市場シェアが10%以下の競争事業者間の協定及び市場シェアが15%以下の非競争事業者間の協定についてセーフハーバーとしている。これらの基準は,従来の規則から変更していない。
今回の主な変更点は,競争制限を目的とする協定(いわゆる,「目的を持った(by object)」制限。)を小規模の協定とみなさず,常にEU機能条約第101条に違反する大幅な競争制限を構成する旨を明らかにしたことである。これらの協定はセーフハーバーの対象とならない。このことは,フランス裁判所から付託されたEU司法裁判所のExpedia判決を追認するものである。
なお,今回の改正で,本規則には,事業者の助けとなるよう,目的を持った制限と考えられる競争制限を明らかにした職員作成文書(Staff working Document)が添付されている。同文書では,目的を持った制限又はEU競争法のハードコアとされる競争制限行為が一覧になっており,EU司法裁判所の判例及び欧州委員会の決定のうち役に立つ実例が補足として記載されている。
欧州委員会,経営破綻した事業者を支援する国家補助の改正ガイドラインを採択
2014年7月9日 欧州委員会 公表
【概要】
欧州委員会は,欧州委員会の国家補助近代化(SAM)戦略の一環として,経営破綻した事業者の救済及び再建のためのEU加盟国の支援策を評価するガイドラインを改正した旨公表した。改正ガイドラインは,最も必要とされる事案に公的資金を投入すること及び納税者ではなく,経営破綻した事業者の投資家に再建コストを応分に負担させることを目的としており,非金融業者に対してのみ適用する。銀行その他の金融機関のための一連のルールは別に定められている。改正ガイドラインは,2014年8月1日に施行される。
経営破綻した事業者に対しEU加盟国が付与する国家補助は,補助しなければ市場から退出したであろう事業者を存続させる。そのような国家補助は,単一市場における競争を歪めるおそれが高い。競争を歪めるおそれが高い国家補助は,構造調整のコストを,国家補助を受けない別の事業者に負わせ,国家補助を必要としないより効率的で革新的な事業者を不利な立場に置く。また,非効率的な事業者の退出及び交替は,経済成長の重要な推進力の一つであることから,競争を歪めるおそれが高い国家補助は,経済成長を損なう危険があり,納税者の税金を無駄にするおそれがある。以上のことから,国家補助には厳しい条件が課せられている。
改正ガイドラインは,2004年に採択された旧ガイドライン(いわゆる「救済及び再建」ガイドライン)を変更するものであり,重要な原則である以下の点は変更していない。
・ 経営不振に陥った事業者に対する補助は,6か月間,一時的に付与する(「救済補助」)。
・ 当該期間が過ぎると,当該補助を返納するか,又は当該補助について「再建補助」として承認を受けるため,再建計画を欧州委員会に対し届け出なければならない。当該再建計画は,追加的な国家補助なしで事業者の長期的な活力を回復させること,国家補助によって生じた競争の歪みに対処すること,及び再建コストを当該事業者が負担することを担保しなければならない。
・ 再建補助は,存続能力のない事業者が,国家補助により人為的に存続することを阻止するために,10年間で1度だけ付与される(「1度限り」の原則)。
本日採択されたガイドラインの主な変更点は以下のとおりである。
・ 直接的な補助金又は資本投入というような構造的な救済措置と比較して,融資及び保証というような競争に対する歪みが相対的に少ない手段を用いることにより,競争の歪みを抑えつつ,再建目的の国家補助の付与を簡略化するように設計された,中小事業者に対する一時的な再建支援を認めた新たなルール。現在,そのような国家補助は,簡略化された再建計画に基づき,最大18か月間,-すなわち,救済補助を受ける3倍の期間―付与することができる。これは,中小事業者にとって,現下の経済状況において特に重要な流動性の問題について,EU加盟国が一層支援できるようにするものである。
・ 真に必要とされる事案に国家補助が付与され,納税者の税金の無駄遣いを防ぐためのよりよい「フィルター機能」。EU加盟国は,例えば失業率の高い地域の場合において,苦境を回避するためには補助が必要であることや,再建のための補助を付与することによって,失業の規模を縮小させるといった変化がもたらされることを明示する必要がある。
・ 投資家による事業者の再建コストの応分の負担を確保する新たなルール(「負担の分担(burden sharing)」。投資家には,国家補助が付与される前に損害を補填する一義的な責任がある。国家は,仮に再建計画が成功すれば,出資に見合った利潤を受け取ることとなる。この考え方は金融危機の際に展開された。金融危機時は,銀行に対し大量の公的資金が供給され,納税者及び消費者の利益を保護するためには,投資家に対し応分の負担を求めることが不可欠であった。今回,その考え方が非金融業者まで拡大されたものである。
欧州委員会,EU企業結合規制の改善(規制の対象を少数株式の取得にまで拡大する等)について,ホワイト・ペーパーを公表し,意見募集を開始
2014年7月9日 欧州委員会 公表
【概要】
欧州委員会は,EU企業結合規制の改善についてホワイト・ペーパーを公表し,意見募集を開始した。2004年のEU企業結合規制改正は,事業者及び消費者のために単一市場における効果的な競争を維持し,EU企業結合規制をより効率的で予測可能な規制にしたが,ここ10年間の経験によって,更なる改善の余地があることが明らかになった。欧州委員会は,「より効果的なEU企業結合規制に向けて」と題するホワイト・ペーパーにおいて,競争に影響を及ぼすおそれがあるが支配権を取得するには至らない少数株式の取得について,より効果的に対処することを提案するとともに,(欧州委員会と加盟国間の案件の)付託手続を簡易で迅速なものにすることを提案し,2014年10月3日まで意見募集を行う。欧州委員会は,受け取った意見を踏まえて,EU企業結合規制の改正法案を提出する予定である。ホワイト・ペーパーにおける主な提案は以下のとおりである。
・ 競争に悪影響を及ぼすおそれがあるが支配権を取得するには至らない少数株式の取得についての簡易で事案に則した審査:事業者は,例えば競争事業者の少数株式を取得することによって競争事業者の事業活動に影響を与え,市場における競争を減殺させることがある。現行のEU企業結合規制は,欧州委員会が少数株式の取得の影響を審査することを認めていないが,EU加盟国のうち数か国においては,米国や日本といった主要国と同様に,当局が少数株式の取得の影響を審査することを認めている。改正案は,競争上の懸念があり,EU域内において国境を越えて影響を及ぼす企業結合について,欧州委員会が審査することができるようにするものである。これにより,競争を阻害するあらゆるものが確実に審査対象となり,このような企業結合に係るワン・ストップ・ショップが実現することとなる。また,競争上の観点から懸念される企業結合のみが審査対象となるため,事業者に当該規制による追加費用が著しく発生することはない。競争に影響を与えない投資や再建への取組が審査対象となることはない。
・ EU加盟国及び欧州委員会の間の案件の付託を,より事業者に使いやすく効果的にする:改正案の下では,企業結合の届出を行う事業者は,簡易な手続でより容易に案件を欧州委員会に付託することができる。加えて,EU加盟国が欧州委員会による審査を求める場合に関する規則を整理することにより,同時並行で審査が行われることを避け,ワン・ストップ・ショップの原則をより一層実現するようにしている。また,改正案は,EU加盟国が欧州委員会に案件を付託しない場合においても,EU加盟国同士で一層協力することを可能にしている。
・ 手続の簡素化:例えば,欧州経済領域(EEA)外で運営され,欧州市場に影響を及ぼさない共同出資会社の設立というような,一定の問題のない企業結合について,欧州委員会の企業結合審査の範囲から除外することによって,手続を簡素化する。現在簡易審査手続で審査されているものとは別の,問題のない案件に係る届出要件を更に緩和し,事業者の費用負担と行政上の負荷は削減されるだろう。
・ 一貫性及び収れんの促進:ホワイト・ペーパーは,現行のEU企業結合規制の利用について評価を行い,EU加盟国の複数の競争当局によって同時並行的に行われる企業結合審査における協力を強化する観点及び異なる決定がなされることを避ける観点から,EU加盟国間で収れんを促進する方法を検討することを提案している。
欧州委員会,高血圧治療薬についてpay-for-delay合意を行っていたとして,フランス製薬事業者Servier及びジェネリック薬メーカー5社に対し,総額4億2770万ユーロの制裁金を賦課
2014年7月9日 欧州委員会 公表
【概要】
欧州委員会は,フランス製薬事業者Servierのベストセラー製品である高血圧治療薬ペリンドプリルについて,欧州経済領域(EEA)内においてジェネリック薬との価格競争を回避することだけを目的とした一連の取引を行っていたとして, Servier及びジェネリック薬メーカー5社(Niche/Unichem,Matrix(現在はMylanの一部),Teva,Krka及びLupin)に対し,総額4億2770万ユーロの制裁金を賦課した旨公表した。Servierは,技術の獲得及びライバルとなるジェネリック薬メーカーとの一連の特許に係る和解を通じて,競争事業者を排除し,安価なジェネリック薬の参入を遅らせるという戦略を実行して,EU競争法に違反して公共の予算及び患者に損害を与えた。
ペリンドプリルは,売れ筋の高血圧治療薬であり,Servierのベストセラー製品である。ペリンドプリルの販売及び価格に有意に影響を与えることができる高血圧治療薬は,ペリンドプリルのジェネリック薬しかないことから,Servierは,ペリンドプリル分子(注:ぺリンドプリルの基となる分子)市場において強大な市場支配力を有していた。Servierが保有するペリンドプリル分子の特許のほとんどは,2003年に保護期間が満了した。ライバルとなるジェネリック薬メーカーにとっては,製法や製剤に関するいわゆる二次的な特許(secondary patents)が多数残っていたが,これらの特許は,Servierが言うところの「乳牛(dairy cow)」を保護するには,十分ではなかった。ペリンドプリルの安価なジェネリック薬メーカーは,ペリンドプリル分子市場に参入する準備を本格的に進めていた。
ジェネリック薬メーカーは,ペリンドプリル分子市場に参入し,残る二次的な特許の壁を乗り越えるため,特許で保護されていない製品へのアクセスを目指し,また,Servierの特許が不当に参入を妨害しているとして,その有効性を争った。特許で保護されていない技術は,ほとんどなかったが,Servierは,2004年,その中で最も進んだ技術を買収したため,多くのジェネリック薬開発プロジェクトが中止に追い込まれ,ジェネリック薬の参入が遅れた。Servierは,この買収について,「防衛メカニズムを強化する」ためだけのものであると認識しており,同社が当該技術を使用することはなかった。
この市場への参入ルートが妨害されたため,ジェネリック薬メーカーは,Servierの特許の有効性を裁判で争うことにしたが,2005年から2007年にかけて,ジェネリック薬メーカー各社が,市場に参入しようとするたびに,Servierと和解した。本件では,ジェネリック薬メーカーが,競争を控える見返りにServierの独占の利益を分けてもらうことに合意した。このようなことが,2005年から2007年にかけて,少なくとも5回起きている。Servierからジェネリック薬メーカーへの金銭の支払は,総計で数千万ユーロに上る。ある事例では,Servierがジェネリック薬メーカーに7か国の市場におけるライセンスを供与し,その見返りに,そのジェネリック薬メーカーは,その他のEU市場には参入せず,ペリンドプリルのジェネリック薬の販売の立ち上げを中止することに合意した。こうして,Servierは,合意した期間内は,ジェネリック薬メーカーが国内市場に参入せず,特許の有効性を法的に争わないことを確保した。
製法特許等の特許を申請し,特許権を行使すること,技術を移転すること及び訴訟で和解することは,正当であり,望ましいことであるが,Servierは,実力による競争を回避するため,競合する技術を締め出し,安価な医薬品を開発した競争事業者を多数買収することにより,このような正当な手段を濫用した。このような行為は,市場支配的地位の濫用を禁止している欧州連合の機能に関する条約(以下「EU機能条約」という。)第102条に違反する。また,Servier及びジェネリック薬メーカー5社それぞれとの間の裁判外の和解は,EU機能条約第101条で禁止している反競争的な合意に該当する。