2022年11月

EU

欧州委員会、IlluminaによるGRAILの買収を禁止

2022年9月6日 欧州委員会 公表
原文
【概要】

 欧州委員会(以下「欧州委」という。)は、EU企業結合規則に基づき、IlluminaによるGRAILの既に実施された買収を禁止する決定を行った。本件買収は、血液ベースの早期がん検知検査という新興市場において、イノベーションを阻害し、選択肢を減少させるものであったが、Illuminaはこれらの懸念に対処するのに十分な問題解消措置を提示しなかった。
 競争政策を担当するマルグレーテ・ヴェステアー欧州委上級副委員長は、次のように述べた。
「2022年9月6日、欧州委員会は、Illuminaが既に実施したGRAILの買収を禁止した。GRAILは、他社との競争の中で、血液ベースの早期がん検知検査を開発している。これらの検査は、もし成功すれば、がんとの戦いに革命をもたらし、何百万人もの命を救うことになる。Illuminaは、現在、これらの検査の開発・処理を可能にする技術を提供する唯一の信頼できるサプライヤーである。Illuminaは、本件買収により、GRAILの競合他社がその技術にアクセスすることを断ち切るか、さもなければ彼らに不利益を与えるインセンティブを持つことになる。この重大な開発段階において、早期がん検知検査開 発者間の競争を維持することは極めて重要である。我々の懸念を解消するような問題解消措置をIlluminaが提示しなかったことから、我々は買収を禁止した。」
 
欧州委の審査
 本日の決定は、遺伝子・ゲノム解析用NGS(next-generation sequencing=次世代シーケンシング)システムの唯一のサプライヤーであるIlluminaと、NGSシステムを用いてがん検出検査を開発しているIlluminaの顧客であるGRAILの垂直合併について、欧州委員会が詳細な審査(第二次審査)を行った結果、下されたものである。GRAILの行う検査は、簡単な血液サンプルを使用することにより、無症状の患者の様々ながんを早期に検出するものであり、がんとの闘いにおけるゲームチェンジャーとなる可能性を有している。本件買収により、Illuminaは、同社の技術に依存しているGRAILの競合他社が独自の検査を開発・販売するために必要不可欠な技術の入手を封じたり、封じるインセンティブを与えたりすることができることになる。その結果、GRAILの競合他社は、GRAILと比較して不利な立場に置かれることになる。
 欧州委は、審査期間中、多くの顧客や競合他社、NGSに基づくがん検出検査分野の専門家や各国当局から意見を聞いた。市場関係者は、Illuminaが、買収後、自社のNGS技術へのGRAILの競合他社のアクセスを削減するなどして不利益を与え、将来有望な早期がん検出検査の市場を掌握することを懸念していた。
 
欧州委の決定
 欧州委は、Illuminaが本件買収により、GRAILの競合他社に対して投入物閉鎖を行う能力及びインセンティブを持つおそれがあるだろうと判断した。例えば、Illuminaは、GRAILの競合他社に対し、NGSシステムについて、供給を拒否することも、価格を引き上げることも、品質を低下させ供給を遅らせることも可能となる。欧州委は、投入物閉鎖が行われれば、欧州経済領域(EEA)におけるNGSに基づくがん検出検査の開発・販売の競争に著しい悪影響を及ぼすことになると考えた。
 欧州委は、現在、GRAIL及びその競合他社が、早期がん検知検査の開発及び商品化において技術イノベーション競争を繰り広げていることを明らかにした。この競争の正確な結果や早期がん検知検査市場の将来の姿についてはまだ不透明であるが、現在のイノベーション競争を保護することは、様々な機能及び価格帯の早期がん検知検査が市場に出現することを保証するために極めて重要である。具体的には、以下のとおりである。
・Illuminaは、GRAILの競合他社への投入物閉鎖を行う能力を持つことになる。
 GRAIL及びその競合他社は、検査の開発及び実用を行う際、IlluminaのNGSシステムに依存している。早期がん検知検査開発者は、信頼できるサポートネットワークと確かな実績のある処理能力の高いNGSシステムを必要としている。現在、これらの要件を満たすのはIlluminaの装置のみであり、審査の結果、短中期的にはIlluminaに代わる信頼できる供給者は存在しないことが判明した。また、参入障壁は極めて高い。これらの要因は、①知的財産権訴訟のリスクがあること、②GRAILの競合他社が、第三者の研究所に装置の設置基盤を持ち、Illuminaの継続的なイノベーションに対抗でき、高度で安定した技術を持つNGSプレイヤーに依存する必要性があること、③長期間にわたるサポートサービ スを提供する信頼性が必要とされていることなどが考えられる。さらに、NGSプロバイダーの切替えは、GRAILの競合他社にとって、成功の保証のない、長期間にわたるコストのかかる過程である。
 
・Illuminaは、GRAILの競合他社を締め出す明確なインセンティブを持つことになる。
 IlluminaがGRAILの競合他社にNGS技術を販売することは、同社の売上及び利益のごく一部であるが、NGSベースの早期がん検知検査は、急速に拡大し、高い利益を生むと予想される。2035年までに世界規模で年間400億ユーロ以上の市場に達すると予測されている。欧州委は、巨大市場になる可能性及び早期がん検知検査の開発における接戦の技術 イノベーション競争を考慮した結果、Illuminaが本件合併から利益を得るのは将来であるが、既にGRAILの競合他社を阻止するインセンティブを有していると判断した。実際、審査の結果、GRAILの主力検査である「Galleri」は、先行者利益を享受しているものの決して特殊なものではなく、本件合併がなければ、近い将来Galleriと密接に競合することになるがん検出検査が、現在複数の事業者によって開発されていることが分かった。
 
Illuminaの提示した問題解消措置案
 Illuminaの提示した問題解消措置案は、欧州委の競争に関する懸念に適切に対処しておらず、競争が継続的に維持されると結論付けることはできない。当該問題解消措置案はIlluminaがGRAILの競合他社を排除する能力及びインセンティブを完全に取り除くものではなく、したがって、本件合併が競争に及ぼす有害な影響を防ぐことはできないであろう。Illuminaが提示した具体的な内容は以下のとおりである。
・IlluminaのNGS特許の一部について、NGSサプライヤーにライセンスを開放すること並びにNGSサプライヤーであるBGI Genomics(中国)に対し、米国及び欧州での特許訴訟を3年間行わないことを確約する。
 本件問題解消措置案は、知的財産権関連の参入障壁を減少させることにより、NGSサプライヤー、特にBGI Genomicsが市場に製品を投入しやすくすることを目的としている。しかし、欧州委の分析及び広範な市場テストによれば、これらの問題解消措置案は、短中期的には、GRAILの競合他社にとってIlluminaに代わる信頼できる供給業者の出現を確実なものにするものではなかった。対象となる特許は短期間で失効する見込みであり、Illuminaは、競合他社が代替NGSシステムを開発するために必要となる他の多くの特許を持っているため、特許ライセンスは限られた影響しか与えないだろう。また、他の重大な障壁が、GRAILの競合他社にとってIlluminaに代わる信頼できる供給者の出現を妨げ ている。さらに、たとえ代替NGSサプライヤーが出現したとしても、サプライヤーの切替えは成功の保証がなく、GRAILの競合他社にとって長期間にわたるコストのかかる過程であるとの懸念に、当該問題解消措置案は対処していない。
 
・GRAILの競合他社と標準契約に定められた条件の下で契約を締結にすることを確約する。
 この標準契約に含まれる条項は、2033年まで適用するとされており、GRAILの競合他社がIlluminaのNGSシステムへの継続的なアクセスを享受できるようにすることを目的としていた。しかし、広範なテスト及び欧州委の審査結果によると、これらの問題解消措置案は、Illuminaが行いうる全ての投入物閉鎖に効果的に対処していないため、実際には 効果的とは言えない。例えば、この問題解消措置案では、IlluminaがNGSシステムの技術サポートを低下させることによってGRAILの競合他社を排除するリスクに効果的に対処するものではなかった。また、審査の結果、Illuminaがこの問題解消措置案で定める義務を回避し、GRAILに優遇措置を与えることは容易であり、それによってGRAILの競合他 社が効果的に競争することが難しくなる可能性が明らかになった。さらに、この問題解消措置案は、その複雑さ及びGRAILの競合他社が違反行為を発見することがほとんどできないことから、監視することが困難であった。
 
 欧州委は、関連する市場参加者を対象にその有効性を検証するなど、提案されている問題解消措置案事項について広範な分析を行った。
 その結果、欧州委は、Illuminaが提示した問題解消措置案は、血液による早期がん検知検査における新たな競争が妨げられる又は排除されるとの競争上の懸念に対処するには十分ではないと判断した。結論として、問題解消措置案は、本件買収の結果生じるNGSベースのがん検知検査の分野におけるイノベーションへの悪影響を防ぐのに十分ではないと評価された。したがって、欧州委は本件買収を禁止した。
 域内市場に不適合な企業結合が既に実施されている場合、欧州委は、EU企業結合規則第8条第4項に基づき、企業結合を解消する又はその他の適切な措置を講じることができる。欧州委は、追加措置が必要であるか、また、どのような追加措置が必要であるかについて、追って評価する。
 

欧州一般裁判所、グーグルに対する2018年の欧州委員会の決定をおおむね支持する判決

2022年9月14日 欧州一般裁判所 公表
原文
【概要】

 欧州一般裁判所は、2022年9月14日、グーグルが総合検索エンジンでの支配的地位を強化するためにアンドロイド携帯端末製造業者及びモバイルネットワーク事業者に対して違法な制限を課したとする欧州委員会(以下、「欧州委」という。)の決定をおおむね支持した。
 欧州一般裁判所は、本件の侵害の重大性及び期間をより適切に反映させるため、41億2500万ユーロの制裁金を賦課することが適切であると考えるが、その論拠には、欧州委の決定とは異なる点がある。
 インターネット関連の製品及びサービスを専門とするICT事業者であるグーグルは、その収益のほとんどを主力サービスの検索エンジンであるGoogle Searchから得ている。グーグルのビジネスモデルは、ユーザーに大部分が無料で提供される多数の製品及びサービスと、ユーザーから収集したデータを利用したオンライン広告サービスとの相互作用に基づいている。また、グーグルは、アンドロイドオペレーティングシステム(OS)を提供しており、欧州委によると、2018年7月に欧州で使用されているスマートモバイル端末の約80%にインストールされている。
 欧州委は、モバイルインターネットにおけるグーグルの行為に関する様々な申告を受けて、2015年4月15日に、アンドロイドに関するグーグルに対する審査を開始するに至った。
 欧州委は、2018年7月18日の決定により、2011年1月1日以降、アンドロイド携帯端末製造業者及びモバイルネットワーク事業者に対して、以下に記載する3つの反競争的な契約上の制限を課すことによって支配的地位を濫用したとして、グーグルに対して制裁金を賦課した。
①「流通合意」に関する制限:グーグルは、携帯端末製造業者に対して、自社のアプリストア(Play Store)の利用許諾を得るためには、検索エンジンであるGoogle Search及びブラウザアプリであるChromeを携帯端末にプリインストールするよう要求。
②「反フラグメンテーション合意」に関する制限:アンドロイド携帯端末製造業者は、グーグルが承認していないバージョンのアンドロイドを搭載した端末を販売しないことを約束する場合に限り、Google Search 及び Play Storeを携帯端末にプリインストールするために必要なライセンスを取得することができる(訳注:オープンソースであるアンドロイドを用いて様々な携帯端末が開発される現象を、フラグメンテーションという。)。
③「収益分配合意」に関する制限:グーグルは、競合する総合検索サービスを携帯端末にプリインストールしないことを条件に、自社の広告収入の一部を携帯端末製造業者及びモバイルネットワーク事業者に分配する。
 欧州委は、上記の制限の目的は、グーグルが総合検索サービスにおける支配的地位を利用して、すなわち検索広告を通じて、同社の収入を維持、強化することであったと認定し、TFEU第102条及び欧州経済領域(EEA)協定第54条の単一かつ継続的な侵害に該当するとして、グーグルに対し、過去最大の約43億4300万ユーロの制裁金を賦課した。
 欧州一般裁判所は、上記の欧州委の決定について、「収益分配合意」による制限の一部に関する同委員会の決定を無効とし、グーグルに賦課された制裁金を41億2500万ユーロとした。

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