その他
オーストラリア
ACCC、カード決済における市場支配力を濫用していたとして、マスターカードを提訴
2022年5月30日 オーストラリア競争・消費者委員会 公表
原文
【概要】
オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)は、デビットカード決済サービスを提供する市場における競争を実質的に制限する行為を行っていたとして、Mastercard Asia/Pacific Pte Ltd及びMastercard Asia/Pacific (Australia) Pty Ltd(2社を以下「マスターカード」という。)を連邦裁判所に提訴した。
マスターカードの反競争的被疑行為は、2017年後半に、オーストラリア準備銀行(Reserve Bank of Australia:RBA)の最小コストルーティング構想(least cost routing initiative)に関連して開始された。
RBAの最小コストルーティング構想は、デビットカード決済サービスにおける競争を促進し、事業者が決済時に最低コストのネットワークを選択して取引を処理できるようにすることで、事業者の決済におけるコストを削減することを目的としている。これにより、事業者は、デビットカードによる決済をビザ(Visa)、マスターカード、eftpos(訳注:Electronic Funds Transfer at Point of Sales。オーストラリア国内のデビットカードブランド。)のいずれで処理するかを選択できるようになり、eftposが最も安価な選択となることが多かった。
マスターカードは、最小コストルーティング構想に対応することで、スーパーマーケット、ファストフードチェーン、衣類小売事業者など20以上の大手小売事業者と契約を締結したとされている。
マスターカードは、この契約により、これらの事業者がマスターカード-eftposのデビットカード決済の全て又は大部分について、eftposのネットワークではなく、マスターカードのネットワークを通じて処理することを約束することを条件に、マスターカードのクレジットカード決済において、値引きした手数料率を適用した。これは、eftposのネットワークが最も安価なプロバイダーになることが多かったにもかかわらず、マスターカードと契約した事業者が、大量のデビットカード決済において、eftposのネットワークを通じた処理をしなかったということである。
ACCCは、宣言、罰金、訴訟費用、その他の命令を求めている。
オーストリア
AFCA、持続可能性協定の適用に関するガイドライン案を公表し、意見募集開始
2022年6月1日 オーストリア連邦競争庁 公表
原文
背景
「欧州グリーン・ディール」(European Green Deal)は、欧州経済・社会を持続可能性及び気候中立性に向けて変革するための欧州委の野心的なプログラムである。施策案は、これらの分野におけるEUの目標を確実に達成することを目的としている。
欧州グリーン・ディールは、産業、エネルギー、運輸又は農業などの主要関連分野に直接対処するものではないとしても、全ての法的・政治的分野から支援を得られる場合にのみ実現可能である。
このことは、競争法の分野にも当てはまる。具体例として、カルテルの禁止が、持続可能な経済に貢献し得る企業間の協力の妨げとなるかどうかについて議論される。
欧州委では、EU機能条約第101条の法的枠組みは変わらないため、水平的協力に関する協定へのEU機能条約第101条の適用に関するガイドラインの改定が進められているが、オーストリア国会は、国内のカルテル法及び競争法(KaWeRÄG 2021)の最新の改正の過程で、更に一歩踏み込んでいる。
反競争的協定の適用除外を規定しているカルテル法第2条第1項では、EU機能条約第101条第3項に対応する一般的概念から逸脱して、いわゆる「持続可能性協定」のための特別な規定が導入された。その結果、当該協定が反競争的協定である一方で、商品の生産・流通の改善や、技術・経済発展の促進に貢献する場合、当該改善が持続可能な環境保護又は気候中立的な経済に大きくつながるのであれば、消費者は、公正に配分された利益を享受することが見込まれる。
これは、そのような持続可能性の効果が、時には、競争制限の影響を受ける消費者グループに特に利益をもたらすものではなくても、むしろ、一般消費者が利益を受けるものであったり、利益がもたらされるのにタイムラグが生じたりするため、EU機能条約に規定する一般的な適用除外要件に従った場合には、考慮されないか、限定的な範囲にとどまるという事実が考慮されているものと思われる。
ガイドラインの目的及び主な内容
本ガイドライン案は、オーストリア連邦競争庁(以下「AFCA」という。)が新条項をどのように解釈し、適用しようとしているのかについての指針を示すためのものである。本案は、競争法の規則全般を遵守することは、持続可能で気候中立的な経済の実現の妨げとなるのではなく、むしろ、自由競争によって変革が強力に推進されるという基本的な前提に基づく。これは、欧州委が水平ガイドラインの改定に際して採った手法と一致するものである。AFCAは、国内法及びEU競争法が提供する手段について、一貫した適用及び円滑な統一を確保しようとしている。
こうした背景から、ガイドライン案は、新たな条項の適用範囲について説明することから始まる。原則として、国内競争法に基づく新たな適用免除(規定)は、当該協定が加盟国間の取引に影響を与えない場合にのみ適用可能となる。例外として、国内法は、この適用によって結果の相違につながらないという場合に限って、EU機能条約第101条と同時に適用することができる。
また、この新たな適用除外は、特定の種類の持続可能性目標、すなわち、持続可能な環境保護(特に、循環型経済への移行、環境破壊の防止・削減、生物多様性及び生態系の保護・回復並びに水資源の持続可能な利用・保護を含む。)又は気候中立的な経済への貢献に限定される。社会的又は道徳的規範(例:動物福祉又は労働基準)の向上 に関連するその他の取組は、一般的には対象外となるものの、従来の基準を適用して検討することができる。
さらに、この規制では、既存の規制によって既に義務付けられている持続可能性目標を達成するための容易な方法又はコスト効率のより高い方法だけではなく、協力によって元来生じる貢献が求められていることにも注目すべきである。このような金銭的利益もまた、既存の適用免除の下で必要とされ得る。
加えて、本ガイドライン案では、協定によって競争が全く制限されない場合にのみ適用除外が必要であるという自明の事実を強調している。これに基づき、競争に中立的な協力の可能性が模索され、カルテルの禁止に関する他の法的例外についても説明されている。これは、特に重要度の低い協定(デミニマス(deminimis))や農業分野における一定の形態の協力に適用され、ハードコア制限は含まれないことを常に条件としている。
新たな「持続可能性の適用免除」の範囲に純粋に該当する協定については、以下の5つの累積的要件を含む評価のための修正案が策定された。
1 評価対象となる協力は、効率性向上につながるものであること。これは、社会厚生全体の向上を要する。これに対して、生産者と消費者との間の単なる厚生の再分配は、向上をもたらすものではないため、効率性の向上につながらない。
2 効率性の向上は、持続可能な環境保護又は気候中立的な経済に貢献すること(上記参照)。
3 持続可能な環境保護又は気候中立的な経済に対するこのような貢献は、実質的なものであること。ポジティブな影響及びネガティブな影響の比較衡量は、通常、消費者への公正な分配の水準において行われるが、本件では、持続可能性の例外の下での実質性の基準に基づくことになり、生態学的持続可能性又は気候中立性に貢献する効率性は、競争へのネガティブな効果を完全に補填するものでなければならない。これは、グリーン目標への貢献がごくわずかであるにもかかわらず、競争を制限しようとする「グリーンウォッシング」(greenwashing)協定の試みを排除するために必要である。
4 協定によって課される制約は、効率性の向上を実現する上で必要不可欠であること。比例の原則により、目的達成のために必要な範囲を超えた制約の排除が求められる。
5 協定は、対象となる商品の相当な部分に係る競争を排除するおそれを生じるものでないこと。既存の適用免除と同様に、競争が残る可能性を損なってはならない。
本ガイドラインのその他の部分では、持続可能性協定の評価に関する実務的な内容に特化している。これには、自己評価の一般的な必要性や、競争法第2条第5項に従い、個別事案において、AFCAから指導を受ける可能性などのような手続面も含まれる。
しかし、持続可能性を理由に適用免除を受けるためには、競争に対して期待される効果や、求められる効率性に関する深い実証及び証拠書類の提出が常に要求される。AFCAは、持続可能性に関する効果を測定する最も一般的な方法と、それらの方法を適用する際に必要な基準について、簡潔に説明している。個々の協定に対する的確な適用には様々な可能性があるものの、協定のポジティブな影響に関する一般的な主張だけでは十分ではない。
英国
CMA、プラットフォームとパブリッシャー向けの行動規約に関する提言を公表
2022年5月6日 英国競争・市場庁 公表
原文
【概要】
CMAは、政府からの要請を受け、2022年5月6日、英国情報通信庁(以下「Ofcom」という。)との共同提言(以下単に「共同提言」という。)を公表した。共同提言は、最大手IT企業の力を適切に管理した場合、消費者や新聞等のコンテンツ・プロバイダーは、どのように利益を得られるかについて示したものである。共同提言は、2021年11月に政府に提出されたもので、今回、デジタル市場に関する諮問に対する政府の回答とともに公表されている。これは、政府が提案する、巨大ITプラットフォームの力を抑制するための新たな規制が、実際にどのように適用され得るかについての一例を示すものである。
共同提言では、行動規約が法律として導入された場合、大きな交渉力を持つ大手IT企業が、自社のプラットフォームで使用するコンテンツについて、公正かつ合理的な条件で合意しなければならないとしている。そのための方法として、以下の例が挙げられている。
・ アルゴリズムがどのように機能し、どのような要素を用いて様々なパブリッシャーのコンテンツの検索結果の表示を決定するのか、その透明性に関する懸念に対処すること
・ コンテンツの表示及びブランディングに関して、パブリッシャーが適切に管理できるようにすること
・ パブリッシャーとそのコンテンツを提供するプラットフォームとの間で、ユーザー・データを共有する方法についての改善を促進すること
・ 強力な市場支配力を持つ最大規模のプラットフォームが、パブリッシャーのコンテンツを提供する場合、パブリッシャーのコンテンツに対して公正な金銭的条件のための枠組みを提供し、パブリッシャーと同プラットフォームとの間の交渉力の不均衡を是正すること
政府提案の下、行動規約は最大手IT企業に対する一連の法的拘束力のある義務で構成され、最大手IT企業が、消費者やパブリッシャー等の企業と取引する際に、どのように行動すべきかを明確にしている。プラットフォームとパブリッシャーとの間で行動規約の適用に関する紛争が発生した場合、(CMA内の)DMUが、契約又は企業による所定の行動が行動規範を遵守しているかどうかを判断する役割を担うこととなる。共同提言にあるとおり、DMUには、コンプライアンスを確保するための従来の執行権限に加えて、行動規約に違反する状態が長期間継続しないようにし、迅速な解決を促すために、法的拘束力のある仲裁を行う補完的な法執行権限が与えられるべきである。
CMAは、行動規約によって、例えば、異なるサービスが連携できるような仕組みを義務付ける、あるいは、消費者が同じ企業がサポートする製品にデフォルトで誘導されるのではなく、(製品についての)選択肢を与えられることを義務付けるなど、他の競争促進的介入と並行して実施されることを期待している。このような介入によって、プラットフォームの市場支配力の源泉に直接対処し、挑戦者たるIT企業が競争やイノベーションを引き起こすことを妨げる参入障壁等の市場の特性に対処することができるようになるだろう。
共同提言は、CMAの一部であるDMUとOfcomが共同作成したものであり、プラットフォームと報道機関等のコンテンツ・プロバイダーとの関係において、行動規約がどのように機能するかについて、両規制当局の見解を示している。
最近では、オーストラリアなど他の国々も、プラットフォームとパブリッシャーとの間の条件を公平にするための取組に着手している。共同提言と、オーストラリアのニュースメディアに関する取組の主な違いの一つは、英国のSMS(Strategic Market Status)規制(訳注:戦略的市場地位にあるとみなされる巨大プラットフォーム企業に対する事前規制)の方が、適用対象が広いことである。その目的は、最大手のIT企業を対象とした行動規約によって、彼らの行動を規制し、様々なデジタル市場における交渉力の不均衡を是正することにある。共同提言は、コンテンツに対する公正かつ合理的な報酬の評価に関するガイダンスが、SMS規制の下でどうあるべきかについて、CMAの現在の考え方を示している。また、オーストラリアで採られているような取組が、今後、DMUによって最大手のIT企業に課される可能性がある行動規約を遵守するインセンティブとなり得るかについても論じている。
CMA、ヴェオリア及びスエズの合併計画について、2次審査の結果、競争上の懸念を表明
2022年5月19日 英国競争・市場庁 公表
原文
CMAは、ヴェオリア(Veolia)とスエズ(Suez)の合併計画について、2次審査の結果、英国の廃棄物処理及び水処理サービスの供給市場における競争が失われるおそれがあるとして、暫定的な懸念を表明した。
このような競争の喪失により、地方自治体及び一部の事業者の廃棄物処理及び水処理サービスの主要な調達先の選択肢が減少するため、当該サービスについて、コストの増加、品質の低下、更には地方税の負担の増加につながる可能性がある。
ヴェオリア及びスエズは英国の地方自治体及び事業者に廃棄物処理サービスを提供している最大手2社であり、廃棄物収集、堆肥製造施設及び焼却施設の運営から埋立地に至る廃棄物処理のサプライチェーン全体にわたって活動しており、法人顧客向けに上下水道サービスも提供している。
CMAは、2021年10月に本件合併計画について審査を開始し、同年12月には独立した審査チームによる2次審査に進んだ。
CMAの審査は、2社が現在競合している廃棄物・水処理部門の8市場に焦点を当てている。CMAは、評価を行うに当たり、廃棄物処理チェーン全体にわたり活動している英国唯一のサプライヤーであるヴェオリア及びスエズが地方自治体との最大かつ最も複雑な廃棄物処理契約に対応できる数少ない事業者のうちの2社であることを考慮した。
CMAの2次審査は、顧客や他の市場参加者から提出された懸念を含む幅広い証拠を考慮して行われた。
CMAは、2社が競合している廃棄物・水処理部門の8市場のうち、2次審査が行われた7市場について、本件合併計画が競争上の懸念をもたらすと暫定的に認定した。これらの市場において、現在、当事会社は密接な競争関係にあり、合併後、競争が制限されるおそれがある。CMAは、その結果、地方自治体におけるコスト増加やサービスの質の低下を招き、納税者及び英国全体の事業者にその影響が波及することを懸念している。
CMAは、暫定的な審査結果に対する関係者からの意見を2022年6月9日まで、暫定的な懸念に対処するために採り得る選択肢を提示する問題解消措置案の申出を2022年6月2日まで、それぞれ受け付ける。これらについては、2022年7月17日までに予定されるCMAの最終報告書の発表に先立って検討される。
CMA、広告技術におけるグーグルによる支配的地位の濫用の疑いについて審査を開始
2022年5月26日 英国競争・市場庁 公表
原文
「広告技術スタック」として知られる広告技術仲介サービスは、オンライン広告枠の売手(オンライン新聞や他のコンテンツ・プロバイダー等といったパブリッシャー)と買手(広告主)との間の取引を促進する、複雑なサービスの集合体である。2019年、英国の広告主は、このようなオンライン広告に約18億ポンド(約2430億円)を費やした。英国内の数百万人もの人々が高品質で無料のコンテンツを提供するために広告収入に依存しているウェブサイトを活用していることから、オンライン広告市場は重要である。
グーグルは、広告技術スタックの様々なレベルで優位な地位にあり、パブリッシャーと広告主の双方から利用手数料を徴収している。
英国市場・競争庁(以下「CMA」という。)は、一連の広告技術仲介サービスのうち、以下の三つの重要な部分について調査しており、グーグルは、それぞれにおいて最大のサービス・プロバイダーを運営している。
・デマンドサイド・プラットフォーム(以下「DSP」という。)
広告主や広告代理店がパブリッシャーの広告在庫(いわゆる広告枠)を多くのソースから購入できるようにするもの(訳注:広告配信仲介システムの一種)。
・アド・エクスチェンジ
パブリッシャーの広告在庫を自動販売する技術を提供し、複数のDSPに接続して入札を集約することで、リアルタイム・オークションを可能にするもの。
・パブリッシャーのアド・サーバー
パブリッシャーの広告在庫を管理し、異なるアド・エクスチェンジからの入札やパブリッシャーと広告主との直接取引に基づいて、表示する広告を決定するもの。
CMAは、広告技術スタックのうち、これらの部分におけるグーグルの行為が競争をゆがめる可能性があるかどうかを評価している。これには、グーグルが自社のアド・エクスチェンジとサードパーティのパブリッシャーのアド・サーバーとの相互運用性を制限したり、これらのサービスを契約上抱き合わせたりして、競合他社のアド・サーバーが競争することを困難にしていないかどうかが含まれる。
また、CMAは、グーグルが自社のアド・サーバーとDSPを利用して、自社のアド・エクスチェンジを違法に優遇し、競合他社が提供するサービスを排除する措置を講じている可能性について懸念している。
今回の調査は、CMAが2019年7月から2020年7月にかけて実施した「オンライン・プラットフォームとデジタル広告に関する市場研究(market study)」において、広告技術分野における重要な問題を特定し、同分野における市場支配力に対処するための可能な解決策について評価したことに続くものである。CMAは、今回の調査を通じて、これらの論点についてより深く検討する予定である。また、CMAは、2022年3月、広告技術スタックの一部であるヘッダー入札サービスに関連して、グーグルとメタの「ジェダイブルー(Jedi Blue)」と呼ばれる契約についても調査を開始した。さらに、CMAは、グーグルのChromeブラウザからサードパーティのクッキーやその他の機能を削除するという、グーグルのプライバシー・サンドボックス提案に関連して、グーグルによる確約の遵守状況を監視している。
先日(2022年5月10日)の女王演説(施政方針演説)において、CMAがデジタル市場ユニット(Digital Markets Unit))を通じて大手IT企業の行動を管理するための権限を付与する法律の草案について言及された。
CMAは、同法案が成立するまで、アップルのApp Store、メタによるデータ利用、アップルとグーグルのモバイル・エコシステムなどといったハイテク分野における競争上の懸念について既存の権限を行使して調査を進めていく。
CMAは、英国中の人々と企業にとって最良の結果が得られるよう、関連する全ての案件について一貫した取組を続ける。
広告技術分野におけるグーグルの行為については、欧州委が2021年6月に独自の調査を開始した。また、グーグルの行為は、米国でもテキサス州を始めとした複数の州によって訴訟が提起され、米国の裁判所で現在係属中である。このほか、2021年7月には、フランス競争委員会が同様の事案でグーグルに対して制裁金を賦課し、確約を認定して(事件を)終結させた。
ドイツ
メタ(旧フェイスブック)に新規則を適用─ドイツ連邦カルテル庁が「市場全体の競争に卓越した重要性を持つ事業者」と認定
2022年5月4日 ドイツ連邦カルテル庁 公表
原文
ドイツ連邦カルテル庁(以下「カルテル庁」という。)は、米国メンロパークに所在するMeta Platforms,Inc.(以下「メタ」という。)が「市場全体の競争に卓越した重要性を持つ事業者」(paramount significance for competition across markets)に該当すると正式に認定した。したがって、メタに対して、2021年初頭にドイツ立法府によって導入された、適用範囲が拡大された濫用規制のための手段を適用することが可能となる。
カルテル庁は、新規定(ドイツ競争法(以下「GWB」という。)第19a条)により、大規模なデジタル企業の行為に対して、より迅速かつ効果的に介入できるようになった。カルテル庁は、ある事業者が市場全体の競争に卓越した重要性を持つ事業者に該当すると正式に認定した場合、当該事業者が反競争的行為に関与することを禁止することができる。
メタは国際的に活動するデジタル企業であり、その代表的なサービスとしてフェイスブック(メッセンジャーを含む)、インスタグラム及びワッツアップが挙げられる。「ストーリーズ」や「リール」などの機能や、「ウォッチ」や「ショップス」などのサービスの提供により、メタは、サービスの範囲を拡大し続けている。メタは、将来に向けた主要プロジェクトとして、「メタバース」、すなわち広範なVR(訳注:Virtual Reality(仮想現実)の略。)世界の実現のために、ハードウェア及びソフトウェアに特に投資している。この分野におけるメタの取組として、VRヘッドセット及びテクノロジーのメーカーであるOculus(現メタ・クエスト)の買収などが挙げられる。
メタのサービスのユーザーは全世界で35億人以上にのぼり、ドイツ国内のユーザーも非常に多い。メタは、その膨大なユーザー数と利用可能なユーザー・データのおかげで、ソーシャル・メディア広告業界の最大手でもあり、それらは、メタのほとんどの収益源となっている。2021年のメタの純利益は、前年比でも3分の1以上増の400億ドル近くに達し、再び増加に転じた。
このように、メタは広告を資金源とし、拡大の一途をたどっている強力なソーシャル・メディア・エコシステムを運営している。
カルテル庁は既に、2019年初頭には、競争上の懸念から、メタに対して出所の異なるユーザー・データの結合を禁止している。しかし、この決定に関するメタとの間の法的紛争は、現在も訴訟係属中である。さらに、カルテル庁は、Meta Quest(旧Oculus)のVRヘッドセット及び関連製品の提供とFacebookを連携させたとして、メタに対して別の訴訟手続が2020年から係属中である。
カルテル庁は、GWB第19a条第1項に基づき、メタを市場全体の競争に卓越した重要性を持つ事業者に正式に認定することにより、これらの訴訟手続をより迅速に終結させるための基盤を確立した。
カルテル庁の決定の有効期限は、法律の規定に従って、発効後5年間に制限されている。メタは、この期間中、GWB第19a条第2項に基づき、カルテル庁によるドイツ国内における特別な濫用規制の対象となる。
メタは、本決定に対する異議申立てを行わないこと及びGWB第19a条第1項に規定する事業者としての地位を否定しないことを発表した。しかし、その際メタは、カルテル庁の決定において立証された全ての事実及びこれらの事実から導き出された結論について、必ずしも同意するとは明言していない。
カルテル庁は、本決定の概要について、近日中に公表する予定である。