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韓国
KFTC、グーグルに対する同意議決手続を開始
2025年5月22日 韓国公正取引委員会 公表
1 韓国公正取引委員会(以下「KFTC」という。)は、2025年5月14日に開催された全員会議において、グーグル(注1)が「独占規制及び公正取引に関する法律」(以下「公正取引法」)違反の疑いに関連して申請した同意議決について、当該手続を開始することを決定した。
(注1) グーグルLLC(米国)、グーグルアジアパシフィクPTE RTD(シンガポール)、グーグルコリア有限会社(韓国)の3社
同意議決とは、公正取引法違反の疑いを持たれている事業者が、自ら被害救済、取引秩序の改善等の自主的な是正案を提示し、KFTCが利害関係人等の意見を聴取した上で当該是正案が妥当であると認める場合、公正取引法違反を認定せずに事件を処理する仕組みである。同意議決の手続は、手続開始の可否決定、暫定同意議決案の作成、利害関係者の意見集約、最終同意議決案の審議議決過程を経て確定する。
2 これまで、グーグルは、Youtube動画サービスとYoutube Musicサービスが結合した「Youtube Premium」商品と、Youtube Music単独サービスである「Youtube Music Premium」商品のみを販売し、Youtube動画単独商品は販売していなかった。KFTCは、このようなグーグルの販売方法が消費者の選択権を制限し、国内オンライン音楽サービス市場における公正な競争を制限することにより公正取引法に違反したかどうかについて調査していた。
3 これに対して、グーグルは、KFTCに同意議決手続の開始を申請した。グーグルが申請した同意議決案の内容は次のとおりである。
(1) グーグルは、消費者の選択権を拡大するために「Youtube動画単独商品」を発売することにした。当該新規サブスクリプション商品は、現在、海外で発売(注2)されている「Youtube Premium Light」(注3)と同一の商品であり、Youtube Musicを含まない動画サービスのみを購入したい国内消費者らは、これを契約して利用できるようになる。一方、新たなサブスクリプション商品が発売されても、消費者は、従来のYoutube PremiumとYoutube Music Premiumを利用できる。
(注2) 当該商品は、2025年5月現在、ドイツ、メキシコ、米国、ブラジル、アルゼンチン、英国、オーストラリア、カナダ及びタイで販売されている。
(出典:グーグル Youtubeホームページ
https://support.google.com/youtube/answer/15968883?hl=ko&sjid=14926117038636419282-NC)
(注3) 音楽以外の映像コンテンツを広告なしで視聴可能
(2) グーグルは、上記の是正案とともに、新規サブスクリプション商品と連携した消費者厚生の増進や国内の音楽産業、アーティスト及びクリエイターへの支援活動等の共生支援策も提示した。このような共生支援策を実行するため、グーグルは300億ウォン(約32億円)相当を支援する予定である。
4 上記グーグルの同意議決案に対して、KFTCは、事件の性格、申請者が提示した是正案の取引秩序の改善及び消費者の選択権拡大等の公益への適合性、予想される制裁水準とのバランス等を総合的に考慮して、同意議決の手続を開始することを決定した。
特に、オンライン音楽サービス市場において消費者の選択権を保証し、公正な競争が行われるよう、迅速に取引秩序を正す必要性がある点、韓国国民の大半がYoutube動画を視聴(注4)するなど日常生活と密接に関連しており、新規サブスクリプション商品(Youtube Premium Light)の発売によって、国内消費者に直接的な利益になる可能性がある点等を考慮した。
(注4) 2025年4月現在、国内Youtubeアプリの月間アクティブユーザー数は、4600万人(出典:Waizアプリ、iOS及びアンドロイドの合算資料)
5 今後、KFTCは、早期に是正案及び共生支援策を具体化して暫定の同意議決案を作成し、利害関係者らの意見集約及び関係機関との協議を経て、最終同意議決案をKFTCの全員会議に上程する計画である。
【参考1】公正取引法関連条文
第89条(同意議決) KFTCの調査や審議を受けている事業者又は事業者団体(以下本条から第91条までの規定において「申請者」という。)は、当該調査や審議の対象となる行為(以下本条から第91条までの規定において「当該行為」という。)による競争制限状態等の自発的解消、消費者被害の救済、取引の秩序の改善等のために、第3項に基づく同意議決を行うことをKFTCに申請することができる。ただし、当該行為が次の各号の一に該当する場合、KFTCは、同意議決を行わずに、この法律に基づく審議手続を進めなければならない。
1 当該行為が第40条第1項による違反行為である場合
2 第129条第2項による告発要件に該当する場合
3 同意議決前に申請者が申請を取り下げた場合
② 申請者が第1項による申請を行う場合、次の各号の事項を記載した書面で行わなければならな
い。
1 当該行為を特定できる事実関係
2 当該行為の中止、原状回復等競争秩序の回復や取引秩序の積極的改善のために必要な是正措置
3 消費者、他の事業者等の被害の救済又は予防のために必要な是正策
③ KFTCは、当該行為の事実関係に対する調査を終えた後、第2項第2号及び第3号による是正策(以下「是正策」という。)が次の各号の要件を全て備えていると判断される場合には、当該行為に関連する審議手続を中断し、是正策と同じ趣旨の議決(以下「同意議決」という。)を行うことができる。この場合、是正策は申請者との協議を経て修正することができる。
1 当該行為がこの法律に違反していると判断された場合に予想される是正措置及びその他の制裁とのバランスを取ること。
2 公正かつ自由な競争秩序若しくは取引秩序を回復し、又は消費者、他の事業者等を保護するために適切であると認められること。
④ KFTCの同意議決は、当該行為がこの法律に違反すると認めたことを意味するものではなく、何人も、申請者が同意議決を受けた事実を挙げて、当該行為がこの法律に違反すると主張することはできない。
【参考2】 ビックテックに対する同意議決案件の共生支援策の事例
(1) アップルコリアが携帯端末の広告及び無償の修理サービスの提供に係る費用を支払うことを携帯電話会社に強制したなどの疑いでKFTCが審査していたところ、2020年6月、同社の申請に基づき、KFTCは同意議決の手続開始を決定(注1)。2021年1月、KFTCは、アップルが1000億ウォン相当を支援し、①製造業の研究開発(R&D)支援センター及びディベロッパーアカデミーの設立、②公教育分野のデジタル機器の支援、③アップル機器の有償修理費用及びAppleCare+の割引等の共生支援策を含む同意議決を最終確定。
(注1)https://www.jftc.go.jp/kokusai/kaigaiugoki/sonota/2020others/202009others.html
(2) ブロードコムが国内のセットトップボックスメーカーらに、ブロードコムの半導体が搭載されたセットトップボックスだけを提案させることなどを要求していた行為に対し、KFTCが審査していたところ、2025年1月、同社の申請に基づき、KFTCは同意議決の手続開始を決定。ブロードコムが提案した共生支援策には、①半導体の専門家及び人材を養成するための教育センターの設立及び運営支援、②ファブレス等の半導体分野のスタートアップらのための事業コンサルティングの提供、インフラ構築、海外進出、ネットワーク活動などの支援、③半導体産業関連セミナー・カンファレンスの開催及び半導体産業の広報活動の支援(体験館・広報館の設置等)が含まれ、このような共生支援策を実行するために、共生基金として130億ウォン相当を拠出予定(注2)。
(注2)https://www.jftc.go.jp/kokusai/kaigaiugoki/sonota/2025others/20244others.html
(3) ブロードコムがサムスン電子に対し不利益な長期部品供給契約を強制した疑いをKFTCが審査していたところ、2022年8月、同社の申請により同意議決手続開始を決定。2023年1月パブリックコメントに付された暫定同意議決案には、200億ウォン規模の共存基金の造成が含まれていた。しかし、KFTCは、2023年6月、ブロードコムの最終同意議決案に盛り込まれているサムスン電子に対する品質保証・技術支援の拡大等は、その内容、程度等において被害補償としては適切ではないと認定し、これに対し、ブロードコムはKFTCの提案に対応する意思がないことを明確にしたので、最終同意議決案を棄却することを決定した。そして2023年9月に、KFTCはブロードコムの行為は、取引の相手方に対して優越的地位を濫用した行為に該当すると判断し191億ウォンの課徴金を賦課した。
