最近の動き(2021年8月更新)

米国

コロンビア特別区司法長官,オンライン小売市場における違法な価格支配を差し止めるため,Amazonに対して反トラスト法訴訟を提起

2021年5月25日 コロンビア特別区司法長官 公表
原文


【概要】
 コロンビア特別区(以下「DC」という。)司法長官(訳注:カール・ラシーヌ(Karl Racine)氏)は本日,Amazon.com, Inc.(以下「Amazon」という。)に対して,オンライン小売市場において消費者向けの販売価格を引き上げ,技術革新及び消費者の選択の機会を阻害していたとして,反トラスト法に基づき,反競争的行為の差止めを求める訴訟を提起した。
DC司法長官室は,Amazonが過去から現在に至るまで,同社のプラットフォーム上のサードパーティセラー(以下「TPS」という。)に対して適用している契約条項及びポリシーによって,オンライン市場の小売価格を固定化していると主張している。最恵国待遇(MFN)契約として知られるこれらの契約条項及びポリシーによって,Amazon.comで商品を販売しているTPSは,自社のウェブサイトを含む他のオンラインプラットフォームにおいて,より低い価格やより良い条件で商品を販売することが妨げられている。これらの契約は,Amazonが請求する高額な手数料(商品価格の合計の40%にも及ぶ)を,Amazonのプラットフォーム上だけでなく,他のオンラインプラットフォームにおいても,顧客に請求する価格に含めるように,TPSに対して事実上要求している。その結果,これらの契約は,オンライン小売市場において人為的に高い価格を課し,Amazonが,DCの反トラスト法に違反して,独占的な力を構築・維持することを可能にしている。これらの契約による効果は,消費者やTPSに損害を与え,競争,選択の機会,技術  革新を制限するといった部分にまで影響を及ぼしている。DC司法長官室は,Amazonによるオンライン市場の小売価格の支配を差し止めるとともに,損害賠償,制裁金及び訴訟費用の支払いを求めている。
 Amazonは,世界最大のオンライン小売業者であり,オンライン市場の売上げの50~70%を占める。Amazonは,自社製品や大手メーカーから供給された製品を,自社のオンラインプラットフォーム上で販売している。また,TPSは,自社製品を「Amazon Marketplace」において販売することもできる。Amazonの優位性と膨大な顧客基盤により,200万以上のTPSがAmazon Marketplaceに依存している。
 2019年,Amazonは,TPSが自ら運営するウェブサイトを含む,競合するオンラインプラットフォームにおいて,TPSがAmazonで販売する場合よりも低価格又は有利な条件で商品を提供することを明示的に禁止する価格同等性条項(price parity policy)を撤廃したと主張した。しかし,実際には,Amazonは,その後すぐに水面下で,価格同等性条項と実質的に同一である「公正価格条項」(fair pricing policy)を導入した。公正価格条項の下では,TPSが,競合するオンラインプラットフォームでより低い価格又はより良い条件で商品を提供した場合に,制裁を受けたり,Amazonとの取引から完全に排除されたりするおそれがある。
 訴状では,AmazonがTPSに課している価格契約は,一見して反競争的であり,DCの反トラスト法に違反しており,Amazonがオンライン小売市場で独占的な力を違法に構築・維持するものであると主張している。訴状によると,Amazonは,具体的に以下の行為を行っている。
 
  •  消費者向けの価格の引上げ:AmazonのMFN条項は,消費者がオンライン小売市場で購入する商品に支払う価格を人為的に上昇させることにより,消費者に損害を与えている。TPSがAmazonで販売する場合,Amazonの要求する高額な手数料を消費者に転嫁しなければならない。TPSは,手数料が低い若しくは存在しない他のプラットフォーム又は自社のウェブサイトで,より低いコストで商品を販売することができるが,AmazonのMFN条項は,TPSがこうした削減分を消費者に還元することを妨げている。これらの契約により,オンライン市場全体に人為的に高い「下限」が作られ,他のプラットフォームが低価格販売で消費者をAmazonから誘引することや市場シェアを獲得したりすることを妨げている。このような制限がなければ,商品はより低価格で消費者に提供されるはずである。
  •  オンライン小売市場の競争の阻害:Amazonは,他のプラットフォームが市場シェアを獲得するために価格競争を行うことを妨げることにより,オンライン小売市場での優位性を維持している。オンラインショッピングの利用者が購入を決定する際に最も重要な要素は価格である。Amazonは,TPSが他のオンラインショップでより低い価格を設定できないようにすることにより,意味のある競争から自ら距離を置いている。
  •  消費者の選択の機会を奪う:Amazonの反競争的行為は,オンライン小売市場における消費者の選択の機会を減らし,技術革新を抑制し,潜在的に競合関係にあるプラットフォームへの投資を減少させている。

 DC司法長官室は,本訴訟により,Amazonがオンライン小売販売において競争を阻害したり,独占的な地位を維持するために用いている違法な価格契約を差し止めようとしている。また,Amazonや他の事業者による同様の行為を抑止するために,損害の回復と制裁金の賦課を求めている。

 

DOJ,全農子会社によるBungeのカントリーエレベーター事業の買収について,農家保護のために実質的な事業分割を要求

2021年6月1日 米国司法省 公表
原文


【概要】
 米国司法省は,全国農業協同組合連合会(以下「全農」という。)の子会社のZen-Noh Grain Corp.(以下「ZGC」という。)がBunge North America Inc.から営業中の35基及び休止中の13基のカントリーエレベーターを3億ドルで買収する計画を進めるためには,ZGCがミシシッピ川及びその支流沿いの5州9地域のカントリーエレベーター9基を売却する必要があると発表した。
 司法省反トラスト局は,本件買収計画を阻止するために,コロンビア特別区の連邦地方裁判所に反トラスト民事訴訟を提起した。同時に,反トラスト局は,裁判所の承認により,同局が抱く競争上の懸念を解消するであろう和解案も提出した。
 訴状によると,被告は9地域で競合する少数の穀物購入者のうちの2社である。米国司法省から要求のあった事業分割がなければ,当事会社は,穀物の購入価格や農家に提供するサービスの品質を低下させることが可能となる。本事業分割により,カントリーエレベーターの購入者は,対象市場におけるトウモロコシ及び大豆の購入について,当事会社と精力的に競争できるようになり,アーカンソー州,アイオワ州,イリノイ州,ルイジアナ州及びミズーリ州の農家の利益のための競争が維持されることとなる。
和解案で示された事業分割案は,裁判所の承認により,ZGCがカントリーエレベーターをViserion Grain LLC(以下「Viserion」という。)又は米国が承認した他の買収者に売却することを求めている。Viserionの経営陣は,穀物産業における経験が豊富である。
 ZGCは,ルイジアナ州コヴィントンに本社を置く,全農の米国法人である。ZGCは,ルイジアナ州コンベントにある輸出用のカントリーエレベーターから,トウモロコシ,大豆,ソルガム,小麦及びこれらの副産物を,日本をはじめとする世界の市場に輸出している。
 Bunge North America Inc.は,Bunge Limitedの北米部門である。同社は,ミズーリ州チェスターフィールドに本社を置き,穀物調達,穀物加工及び穀物取引を行っている。
 Viserionは,Pinnacle Management L.P.(以下「Pinnacle」という。)の資金援助によって設立された,コロラド州を拠点とする世界的な農業事業者Viserion International Holdco LLC傘下の企業である。Pinnacleは,ニューヨークを拠点とする32億ドル規模のオルタナティブ資産運用会社であり,世界規模で商品取引を行っている会社である。
 

オハイオ州司法長官,Googleを公共事業者と認定するように求める画期的な訴訟を提起

2021年6月8日 米国オハイオ州司法長官 公表
原文

【概要】
 オハイオ州のDave Yost司法長官は本日,Googleの強力な検索エンジンがオハイオ州民に対して提供する検索結果を制限しており、Googleを公共事業者として認定するように裁判所に求めるという画期的な訴訟を提起した。
本件のような訴訟を起こしたのは,オハイオ州が米国で初めてである。
デラウェア郡裁判所に提起された本件訴訟では,Googleに対して以下の二つの訴因が主張されている。

  • 本件訴訟では,Googleが政府の適切な規制を受けるべき電気通信事業者(又は公共事業者)であるとする法的宣言を求めている。
  • 本件訴訟では,Googleが,競争資源又は同社が有するのと同等の権利を競争事業者に提供する義務,すなわち検索結果のページにおいて同社の商品やサービス,ウェブサイトを優遇してはならないという義務を負っていると主張している。これらと同等の権利は,広告,拡張機能,ナレッジボックス,統合専門検索,ダイレクトアンサー,その他の機能にも適用されるべきである。
 なお,本件訴訟において,金銭的な損害賠償は求めていない。
 Yost長官は,全ての情報が得られなければ最適な選択はできないことから,オハイオ州民はGoogleによって損害を受けていると分かりやすく主張している。例えば,あるユーザーが航空便を検索する際に,Googleが検索結果を表示して「Google Flights」に誘導した場合,当該ユーザーはOrbitzやTravelocityなどの競合他社が提供するサービスを見ることができない。
 本件訴訟は,Yost長官がGoogleを相手に起こした2件目の反トラスト訴訟である。昨年12月には,他州の司法長官37人とともに,シャーマン法第2条に違反する行為があったとして,Googleを連邦裁判所に提訴した。
シャーマン法は,事業者が独占状態を形成することにより競争を制限することを取り締まる連邦法である。
 本件訴訟では,検索エンジン市場において競争が活発化することにより,プライバシー保護が向上し,消費者に対する的確な検索結果と機会が提供され,消費者に利益をもたらすと主張している。
 また,複数の州にまたがる訴訟においても,競争力のある検索エンジンは,広告主に対して,より高品質な広告をより低価格で提供することができると主張している。
 

FTC,セブン子会社による反競争的な210億ドルのSpeedway Retail Fuel Chain買収について小売店舗数百か所の売却を命令

2021年6月25日 米国連邦取引委員会 公表
原文

【概要】
 7-Eleven, Inc.(以下「7-Eleven」という。)及び米国Marathon Petroleum Corporation(以下「マラソン社」という。)は,7-Elevenによるマラソン社の子会社Speedwayの買収が反トラスト法に違反しているという米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)の懸念を解消するため,20州の293地域においてガソリン及びディーゼル燃料を販売している数百か所の店舗を売却することに合意した。7-Elevenは,本件買収がクレイトン法第7条及び連邦取引委員会法第5条に違反することを知りながら,2021年5月14日に買収を完了していた。
 7-Elevenは,東京に本社を置く株式会社セブン&アイ・ホールディングスの子会社であり,米国内に約9,000店舗のコンビニエンスストアを所有,運営,フランチャイズ展開している米国最大のコンビニエンスストアチェーンである。7-Elevenの約半数の店舗は,燃料も販売している。マラソン社は,石油および石油製品について,精製から販売,小売,輸送までを一貫して行う事業を運営している。買収前,マラソン社は,Speedway社を通じて,全米で約4,000のガソリンスタンド併設型コンビニエンスストアを運営していた。
 FTCによれば,ガソリン及びディーゼル燃料の小売市場は地域ごとに厳密に分割されており,消費者はガソリンやディーゼル燃料の小売販売に代わる経済的・実用的な代替手段を持っていない。FTCは,本件買収により,アリゾナ州,カリフォルニア州,フロリダ州,イリノイ州,インディアナ州,ケンタッキー州,マサチューセッツ州,ミシガン州,ノースカロライナ州,ニューハンプシャー州,ネバダ州,ニューヨーク州,オハイオ州,ペンシルバニア州,ロードアイランド州,サウスカロライナ州,テネシー州,ユタ州,バージニア州及びウェストバージニア州にまたがる293地域における燃料の小売販売競争が損なわれると主張している。これらのうち140地域ではガソリンの小売販売競争が,29地域ではディーゼル燃料の小売販売競争が,124地域では両製品の小売販売競争が,それぞれ損なわれることになる。また,問題解消措置の実施がなければ,293地域において,本件買収により,独立した競合他社の数が3社以下に減少するとしている。
同意命令案において,7-Elevenとマラソン社は,Speedway社の123店舗と7-Eleven社の1店舗の合計124店舗のガソリンスタンド併設型コンビニエンスストアをAnabi Oil社に売却することが求められている。また,Cross America Partners社に対し,Speedway社の105店舗と7-Elevenの1店舗の合計106店舗のガソリンスタンド併設型コンビニエンスストアを売却することが求められている。さらに,Speedway社のガソリンスタンド併設型コンビニエンスストア63店舗をJacksons Food Stores社に売却する必要がある。
 加えて,買い手がこれらの市場で積極的に競争することを妨げる要因を排除するため,同意命令案では,7-Elevenが売却したフランチャイズ加盟店又はその従業員に対して,競業避止義務を課すことを禁止している。
 また,同意命令案では,7-Elevenとマラソン社に対して,今後5年間,売却した店舗を購入する際には,事前にFTCの承認を得ることを要求している。両社は今後10年間,問題となっている293地域とこれとは別の3地域において,売却した資産及びFTCが定めるその他の資産を将来買収する際には,事前にFTCに届け出なければならない。これらの市場での買収は,同様の競争上の懸念を引き起こす可能性が高いが,ハート・スコット・ロディノ法の企業結合の事前届出基準を下回る可能性がある。
 本同意命令案のパブリックコメントでは,両社に「資産維持管理者」(asset maintenance manager)を指定するよう要求するとともに,同意命令の履行を確保し,資産維持管理者を監督するために,独立した第三者監視機関としてClaroグループを任命するといった同意命令案の詳細が記載されている。
 FTCは,本件の調査において緊密に協力したフロリダ州司法長官及びカリフォルニア州司法府に対して感謝の意を表している。
 パブリックコメントのために同意命令案を受け入れることに係るFTCの投票は賛成4,反対0で,リナ・カーン委員長は同投票に参加しなかった。

 

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