米国

FTC、Omnicomによる Interpublicの買収計画を条件付きで承認

2025年6月23日 米国連邦取引委員会 公表

原文

【概要】

1 米国連邦取引委員会(以下「FTC」という。)は、2025年6月23日、Omnicom Group Inc.(以下「Omnicom」という。)がInterpublic Group of Companies, Inc.(以下「Interpublic」という。)を135億ドル(約2兆1600億円)で買収する計画に関する反トラスト法上の懸念を解消するための措置を講じた。

2 FTCは、Omnicomによる反競争的な協調の可能性を排除するための同意命令案を受け入れた。Omnicomは、世界的な広告代理店であり、広告主に代わって、価格、広告掲載場所、スポンサー契約等の条件についてメディア出版社と交渉するほか、広告主による広告キャンペーンの実施やメディア購入(訳注:出版社から広告枠を購入すること)を支援している。

3 Omnicom及びInterpublicは、米国で3番目と4番目に大きなメディア購入を取り扱う広告代理店であり、両社による合併が実現すれば、世界最大のメディア購入を取り扱う広告代理店となる。同意命令案は、Omnicomがメディア出版社の政治的又は思想的な立場に基づいて広告を回避するために共謀や協調行為を禁止する制限を課している。

4 同意命令案は、OmnicomによるInterpublicの買収が米国のメディア購入サービス市場の集中をさらに高めるおそれがあるとするFTCの申立てを解決するものである。同市場のさらなる集中は、過去に協調行為に関与してきた(当事会社以外の)広告代理店間で、メディア購入における協調のリスクを高め、競争を阻害するおそれがある。

5 FTCの申立書によると、広告代理店は、業界団体を通じて、特定のウェブサイトやアプリへの広告掲載を行わない旨の決定について協調してきたことが示されている。広告代理店間の調整により、特定のメディア出版社の広告収入が減少する可能性があり、その結果、メディア出版社は、消費者に提供できるコンテンツの量や自社サイトへの投資額を削減せざるを得なくなるおそれがある。

6 FTC が受け入れた同意命令案の条件には、Omnicomの広告主である顧客からの明確かつ個別の指示がある場合を除き、Omnicomがメディア出版社の政治的又はイデオロギー的な立場を理由に広告出稿を拒否することを不可能にする一連の規定が含まれている。

7 委員会は2対0対1の議決で、本件申立書の発出及び同意命令案について意見募集を行うことを議決した。マーク・R・ミーダー委員は投票を棄権した。アンドリュー・N・ファーガソン委員長は声明を発表した(注1)。 
(注1) https://www.ftc.gov/legal-library/browse/cases-proceedings/public-statements/statement-chairman-andrew-n-ferguson-matter-omnicom-group-interpublic-group-cos

8 一般市民は、同意命令案について、30日間コメントを提出することができる。

9 FTCのダニエル・グアネラ競争局長は、次のように述べた。
 「広告収入に支えられるウェブサイトやその他の出版物は、我が国の商業とコミュニケーションの流れにとって不可欠である。広告代理店間の協調行為により、政治的又は思想的に好まれない出版物への広告支出を抑制することは、広告代理店間の競争を歪めるのみならず、公の議論や討論を歪めるリスクがある。FTCの本件措置は、特定の政治的又は思想的な立場を標的とした違法な協調行為を防止しつつ、個々の広告主が広告の掲載先を選択する可能性を維持するものである。本件合併に関する徹底的な審査を行ったFTCの職員に感謝する。」

10 本件に関するFTCファーガソン委員長による声明の概要
(1) 懸念点 
 広告業界には、政治的・イデオロギー的理由による広告ボイコットや共謀行為の歴史がある。本件合併により、業界大手6社が5社に減少し、市場集中が進むこととなり、その結果として、価格の上昇、生産量の増加や品質の低下、競争者数の減少による共謀リスクの増大等が懸念される(いわゆる「協調効果」)。主要な反トラスト学者もこうした協調効果のある合併はクレイトン法第7条の観点から疑わしいと指摘している。
 
(2) GARM(世界広告主連盟)による活動とFTCによる検閲に対する取組
 Omnicom及びInterpublicは、広告主業界の強力な団体であるGARMの創設メンバーである。GARMは、かつて広告出稿の対象メディアを政治的立場に基づき選別し、特定のメディアを経済的に締め出しており、訴訟や連邦議会による調査を受けて、2024年8月9日に解散した(注2)。 
 なお、FTCの申立書では、GARMは、かつて「有害でセンシティブなコンテンツとは何かについての共通理解」を築こうとし、議論の余地のあるトピックに関する言論を検閲し、ユーザーへのアクセスやサービスを拒否するオンラインプラットフォームの対応に影響を与えた可能性があることを指摘している(注3)。 
 FTCは、GARMの違法性判断はしていないものの、こうした事実は今後の共謀リスクを高める要素になると認識している。
 反トラスト法に違反する検閲慣行の調査及び取締りは、トランプ・バンスFTCの最優先事項であり、FTCは、2025年2月20日にテック・プラットフォームによる検閲(Tech Censorship)についての調査を開始している(注4)。 
(注2) https://wfanet.org/leadership/garm/about-garm
(注3) https://www.ftc.gov/system/files/ftc_gov/pdf/2510049omnicomcomplaint.pdf
(注4) https://www.ftc.gov/news-events/news/press-releases/2025/06/ftc-prevents-nticompetitive-coordination-global-advertising-merger
 
(3) 合併の影響と問題解消措置
 FTCの審査により、本件合併によって共謀がより容易になる可能性が高いと判断された。
 当事会社は、行動的問題解消措置を提案し、FTCはこれを受け入れた。これにより、Omnicom及びInterpublicは、政治的・イデオロギー的理由による広告排除の合意・実施を行わないことを約束するとともに、FTCへの定期的なコンプライアンス報告や調査協力義務等を負うことになる。

(4) FTCによる本件介入の意義
 本件合併によって、広告業界における広告代理店間の共謀リスクが高まることに強い懸念がみられた。
 政治的に不利な立場にあるメディア出版社に対して、広告代理店が協調して行動することは、品質で競争しないという合意に等しいが、訴訟でそのような判決を得るには、何年もかかる可能性がある。
 FTCによる今般の措置(当事会社との和解)は、費用のかかる訴訟の可能性を排除し、当事会社に反トラスト法を順守させることを確実なものとし、他の全ての広告代理店に対しても同様に順守を促すものである。

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