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リサイクル等に係る共同の取組に関する独占禁止法上の指針

リサイクル等に係る共同の取組に関する独占禁止法上の指針

平成13年6月26日
公正取引委員会事務局
改正:平成22年1月1日

はじめに

1 我が国経済が持続的に発展していく上で、大量生産・大量消費・大量廃棄型の経済システムから脱却し、リデュース、リユース及びリサイクルを基本とする循環型社会を形成・推進していくことが急務とされている。このような中、平成一二年六月には、循環型社会形成推進基本法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)が制定され、国、地方公共団体、事業者及び国民が全体で取り組んでいくため、これらの主体の責務が明確化されるなど循環型社会形成のための基本的枠組みが定められている。
 循環型社会形成推進基本法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)において、生産者が、自らの生産する製品等について使用され、廃棄物となった後まで一定の責任を負ういわゆる「拡大生産者責任」の一般原則が確立されており、今後、広範な分野の多数の事業者が、廃棄物の発生抑制、廃棄物の回収・運搬、廃棄物の再資源化等(以下「リサイクル等」という。)に対する取組を推進していくことが予想される。
 事業者が行うリサイクル等に対する取組については、競争原理を活用することにより、リサイクル等がより推進されていくようにすることが望ましいと考えられる。
 しかしながら、リサイクル等に対する取組は、多くの場合、事業者にとって相応の追加的なコストが継続的に必要とされ、また、個々の事業者の直接的な利益につながるものではなく、事業者が取り組むインセンティブは低いという特徴があることから、法令で義務付けられたり、社会的な強い要請に対応して事業者が取り組むことがある。この場合、事業者が共同してリサイクル等に対する取組を行わないと、リサイクル・システムを構築したり、あるいはリサイクル等を効率的に推進していくことが困難となり、法令の義務等を果たすのに支障が生じる場合がある。また、これら共同の取組がいわば「弾み」となって、リサイクル・システムが円滑に定着し、進展すれば、リサイクル市場が活性化し、同市場において新たな需要が創出されていくことになるから、競争促進的な効果も期待できる。
 このように、リサイクル等に対する事業者の共同の取組に対して独占禁止法上の問題の有無を検討するに当たっては、前記の循環型社会形成推進基本法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)の趣旨も踏まえ、その社会公共的な目的からみた必要性について十分考慮する必要がある。ただし、その必要性を考慮するとしても、事業者間のリサイクル等に係る共同行為を通じて、製品市場やリサイクル市場における競争秩序に悪影響を及ぼす場合には、独占禁止法上の問題が生じることになる。
 この「リサイクル等に係る共同の取組に関する独占禁止法上の指針」は、以上のような認識の下に、リサイクル等に対する事業者の共同の取組について、独占禁止法上の考え方を明らかにすることによって、事業者が実施するリサイクル等が競争を阻害することなく円滑に推進され、もって、循環型社会の形成・推進に資することを期待して公表するものである。

2 本指針の適用範囲は、循環型社会の形成・推進の実現において、最も必要性が大きいと考えられる、主たる事業に付随してリサイクル等を行うメーカー、販売業者等の事業者(以下「事業者」という。)が共同して又はその団体が取り組むリサイクル・システムの構築及びリサイクル等に係る共同行為とする。
 なお、本指針では、リサイクル・システムとは、例えば、事業者が、販売した製品の廃棄物を回収し、原材料としての再利用を図る(再資源化する)ための一連の仕組みのような、リサイクル等を円滑に推進するための枠組みとし、これには、廃棄物の回収・運搬、廃棄物の再資源化等といった取組を包括的に対象とするシステムから、販売業者が廃棄物の回収のみを行うなどリサイクル等の活動の一部を対象とするシステムまで含むものとする。

3 本指針は、現時点において想定されるリサイクル等に対する事業者の共同の取組についての独占禁止法上の考え方を明らかにしたものであるが、事業者によるリサイクル等に対する本格的な取組は、全体としてみれば緒に就いたところであり、事業者が今後、様々な取組を行い、これにより市場の状況も変化していくことが考えられる。このため、本指針については、今後の事業者によるリサイクル等に対する取組の状況や市場の状況を注視しつつ、必要に応じてその見直しを行っていくこととする。

第1 リサイクル・システムの共同構築について

 事業者が共同事業としてリサイクル・システムを構築する具体例としては、

(1) 家電メーカーが、廃棄された家電製品を再資源化するための工場を共同で設置するなど、廃棄物の再資源化のための処理施設を共同で利用し、又は当該処理施設を共同で設置する場合(事例1~3参照)

(2) 機械メーカーが、ユーザーの使用済み製品の回収施設を共同で設置するなど、廃棄物を事業者別に仕分けして、各事業者に運搬するための回収施設(中継場所)を共同で利用し、又は当該回収施設を共同で設置する場合(事例4参照)

(3) 家電小売店が、廃棄された家電製品の運搬を共同で運搬業者に委託するなど、廃棄物の回収・運搬について、同一の回収・運搬業者を共同で利用し、又は共同で実施する場合(事例5参照)

 などがある。
 上記のような共同事業が独占禁止法上問題となるかどうかの判断に当たっては、当該共同事業が、製品市場及びリサイクル市場にどのような影響を与えるものであるかが検討される。

1 製品市場

(1) 基本的考え方

 事業者が製品の廃棄物について、共同事業としてリサイクル・システムを構築する場合、リサイクル等に要するコスト(再資源化施設の利用料金、回収施設の利用料金、運搬料金等)が共通化されるが、当該製品の販売価格に対するこれらリサイクル等に要するコストの割合が小さい場合には、当該共同事業が製品市場それ自体の競争に及ぼす影響は間接的であり、独占禁止法上問題となる可能性は低いと考えられる。特に、前記(2)及び(3)の共同事業については、通常は、製品市場それ自体の競争に及ぼす影響は小さく、独占禁止法上問題ないものと考えられる。

 (注) 事業者は、リサイクル等に要するコストを製品の本体価格とは別にリサイクル料金として需要者から徴収する場合があるが、需要者は本体価格とリサイクル料金の合計額から製品購入を判断すると考えられることから、このような場合における共同事業の製品市場に与える影響についての考え方も同じである。

(2) 独占禁止法上問題となる場合

ア 広範囲にわたるリサイクル・システム

 事業者が共同事業としてリサイクル・システムを構築する場合、当該リサイクル・システムの対象として、廃棄物の回収・運搬から再資源化のための処理まで含まれる(例えば前記(1)ないし(3)のすべてが含まれる。)などリサイクル・システムの対象範囲が広範囲に及ぶことにより、当該製品の販売価格に対するこれら共同事業として行われるリサイクル等に要するコストの割合が大きくなる場合がある。このような場合であって、参加する事業者の製品市場におけるシェアの合計が高くなるときには、製品市場における競争が活発に行われているかどうかなど製品市場における競争の状況によっては、当該共同事業を通じて参加事業者の製品の販売価格が同一水準となりやすいなど、製品市場における競争に影響を及ぼし、独占禁止法上問題となることがある(独占禁止法第三条(不当な取引制限))。

イ 排他的なリサイクル・システム

 製品市場における事業を行う上で、単独でリサイクル・システムを構築することが困難なことから、事業者が共同でリサイクル・システムを構築する場合において、当該事業者らが新規参入者や特定の既存事業者の当該リサイクル・システムの利用を合理的な理由なく拒絶し、又は制限する(注)ことなどにより、他の事業者の製品市場への新規参入を阻害し、又は既存事業者の事業活動を困難にさせることは、これらの行為により製品市場における競争が実質的に制限される場合には、私的独占又は不当な取引制限に該当する(独占禁止法第三条)。
 さらに、上記行為によって製品市場における競争が実質的に制限されるまでには至らない場合であっても、これによって当該リサイクル・システムへの参加を拒絶又は制限される事業者の通常の事業活動を困難にさせるおそれがある場合には、不公正な取引方法に該当する(独占禁止法第二条第九項第一号又は一般指定第一項(共同の取引拒絶))。
 したがって、事業者が共同でリサイクル・システムを構築する場合、一般的には、事業者が合理的な条件の下で参加可能であるようなオープンな性格のものであることが望ましい。

 (注) 例えば、事業者が共同出資会社を設立して廃棄物の再資源化のための処理施設を作り、リサイクル・システムを構築した場合において、他の事業者が当該リサイクル・システムの利用を求めてきたときに、当該事業者に対する処理施設の利用料金について、出資に見合った合理的な料金の差を設けること自体は、問題とはならない。

ウ なお、共同事業として行われるリサイクル等に要するコストが事業者間で同一になるとしても、これを各事業者が販売する製品の現行価格に上乗せする場合に、いくら上乗せするかは各事業者の自主的な判断にゆだねられるべきものである。したがって、リサイクル・システムの共同構築自体が独占禁止法上問題とはならない場合であっても、事業者が共同して上乗せする額を決定することは、重要な競争手段である価格の一部を事業者間で決定することにほかならず、製品市場における競争に影響を及ぼし、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第三条(不当な取引制限))。

(注) 事業者が、リサイクル等に要するコストを製品の本体価格とは別にリサイクル料金として需要者から徴収する場合に、事業者が共同して具体的なリサイクル料金の額を決定することも上記と同様に独占禁止法上問題となる。

2 リサイクル市場

(1) リサイクル・システムの構築は、リサイクル市場(注)を創出し、リサイクル市場において新たに取引機会を拡大するものであることから、通常は、リサイクル市場における競争を制限するおそれは小さく、独占禁止法上問題となる可能性は低い。ただし、多数の事業者が共同でリサイクル・システムを構築することにより、既存のリサイクル事業者(廃棄物の回収・運搬業者、再資源化業者等)の事業活動が困難となり、又は他の事業者がリサイクル市場へ参入することが困難となることによって、リサイクル市場における競争が実質的に制限される場合には、私的独占又は不当な取引制限に該当する(独占禁止法第三条)。

 (注) リサイクル市場とは、廃棄物の回収・運搬サービスや廃棄物の再資源化サービスなどの取引に関連する市場をいう。

(2) また、リサイクル・システムの対象範囲が広範囲に及ぶようなシステムを事業者が共同で構築する場合において、当該リサイクル市場に他のリサイクル・システムが存在しない場合がある。この場合には、まず、事業者が共同でリサイクル・システムを構築する必要性があるかどうか、及び代替的手段があるかどうかを検討した上で、(1)リサイクル・システムへの参加が自由であるか、及び(2)参加事業者が独自にリサイクル・システムを構築することを不当に制限するものではないかという点を検討して、独占禁止法上の問題の有無が判断されることとなる。

3 なお、リサイクル・システムの構築が事業者団体により行われる場合に、一定の製品市場又はリサイクル市場における競争が実質的に制限される等のときは独占禁止法第八条の問題となり、また、複数の事業者がリサイクル・システムの構築のために共同出資会社を設立する場合に、一定の製品市場又はリサイクル市場における競争が実質的に制限されることとなるときは独占禁止法第一〇条第一項の問題となることがある。

第2 リサイクル等に係る共同行為について

 事業者が共同して又は事業者団体がリサイクル・システムを構築する際に、その効率的な運営等を目的として、同システムの構築に付随して様々な取決めを行うことがある。また、リサイクル・システムを共同で構築しない場合であっても、事業者が共同して又は事業者団体がリサイクル等の実効性を高めるため、同様の取決めを行うことがある。
 これらリサイクル等に係る共同行為についての独占禁止法上の考え方を整理すると、以下のとおりである。

1 リサイクル率達成目標の決定等

 事業者団体の会員である各事業者が回収した廃棄物をリサイクル等する際、会員各社が達成すべきリサイクル率を事業者団体において決定し、さらには、会員各社のリサイクル達成率を公表することによって、各社のリサイクル率を高めさせようとすることがある。
 法令上、個々の事業者に義務付けられるリサイクル率を事業者団体が遵守すべきリサイクル率として設定することは、法令上の要件を満たして行われる限り、独占禁止法上問題とはならない。さらに、法令上の根拠がない場合であっても、事業者団体がリサイクル率の達成に関する自主的な基準・規約等を設定し、その周知・普及促進を行い、又はその利用・遵守を申し合わせ、若しくは指示・要請する等の活動(自主規制等)を行うことは、会員間で不当に差別的ではなく、その遵守を強制しないものである限り、原則として独占禁止法上問題ないものと考えられる(事業者団体ガイドライン7―6(社会公共的な目的に基づく基準の設定)参照)。
 また、リサイクル率の達成を促進する観点から、事業者団体が会員各社の達成率の公表を行うことも、これによりリサイクル率を達成しない会員の製品を不当に市場から排除する(注)ことがない限り、原則として独占禁止法上問題ないものと考えられる。

 (注) 例えば、安売りを行っている特定の会員を市場から排除するため、当該会員が達成できないようなリサイクル率を達成目標として設定することは、独占禁止法上問題となる。

2 リサイクルしやすい部品の規格の統一及び部品の共通化

 廃棄物の効率的な再利用・処理を行うために、メーカーが共同して又は事業者団体が製品の部品の規格の統一や部品の共通化を図ることがある。
 効率的なリサイクル等を推進するための部品の規格の統一等は、リサイクル等に要するコストを削減するとともに、一般的には需要者の利益を不当に害するものとは考えられないことから、メーカーが共同して又は事業者団体において、統一された規格の部品や共通化された部品を使用するよう申し合わせたとしても、特定のメーカー又は部品メーカーに不当に差別的なものではなく、また、その遵守を強制しないものである限り、製品市場における競争に与える影響は小さく(事業者団体ガイドライン7―5(規格の標準化に関する基準の設定)参照)、原則として独占禁止法上問題ないものと考えられる。

3 リサイクルしやすい製品の共同研究開発

 リサイクルしやすい製品を開発し、リサイクル率を向上させるため、複数のメーカーが共同研究開発を行うことがある。
 リサイクルしやすい製品の共同研究開発は、研究の性格としては、その成果がより直接的に製品市場に影響を及ぼすものではあるが、環境対策といういわゆる外部性への対応を目的とするものであって、共同化の必要性は高いと考えられる。したがって、このような共同研究開発については、参加者の数、市場シェア、成果に関するアクセス等にもよるが、研究に係るリスク、コスト等にかんがみて単独で行うことが困難な場合には、独占禁止法上問題となる可能性は低い(注)。

 (注) 「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」では、「環境対策、安全対策等いわゆる外部性への対応を目的として行われる共同研究開発については、その故をもって直ちに独占禁止法上問題がないとされるものではないが、研究にかかるリスク、コスト等にかんがみて単独で行うことが困難な場合が少なくなく、そのような場合には、独占禁止法上問題となる可能性は低い。」としている。

4 廃棄物管理票(マニフェスト)の様式の統一及び使用の強制

 事業者は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律等に基づいて、廃棄物の不法投棄を防止するためマニフェストと呼ばれる廃棄物の管理票を使用することがあるが、事業者団体において、このマニフェストの様式を統一し、当該マニフェストを使用するよう会員に強制する場合がある。マニフェストの使用が法令上の義務とされ、マニフェストに記載しなければならない事項についても法令上の定めがある場合は当然として、そのような定めがない場合においても、マニフェストは廃棄物のリサイクル等の適正な取組を管理するためのものであるという性格を踏まえると、マニフェストの様式を統一し、その使用を会員に強制したとしても、製品市場及びリサイクル市場の競争に及ぼす影響はなく、独占禁止法上問題ないものと考えられる。

5 リサイクル費用に係る共同の取組

 リサイクル等を行うことが法令で義務付けられ、又は社会的に強く要請される場合であって、リサイクル等に対する取組に相応の追加的なコストが継続的に必要とされるため、廃棄物の回収・運搬又は再資源化のための処理等に要する費用(以下「リサイクル費用」という。)の負担を消費者等の需要者(以下「需要者」という。)に求めなければ、リサイクル等の推進が困難となる場合において、事業者が共同して又は事業者団体がリサイクル費用に関して様々な取組を行うことがあるが、これについての独占禁止法上の考え方は次のとおりである。

(1) 徴収方法に関する自主基準の設定

ア 事業者がリサイクル等に対する取組の一環として、需要者に製品を販売する際に廃棄物を回収することがあるが、この場合、リサイクル費用の徴収方法として、リサイクル費用相当分を製品の本体価格に含めて需要者から徴収する方法と本体価格とは別にリサイクル料金として徴収する方法がある。
 このような場合に、事業者が共同して又は事業者団体が、需要者の理解を得るため、本体価格とは別にリサイクル料金として需要者から徴収する旨を自主的な基準として設定したとしても、その遵守を強制しないものである限り、独占禁止法上問題ないものと考えられる(事例5及び事例6参照)。

イ ただし、事業者が共同して又は事業者団体が具体的なリサイクル料金の額を決定することは、製品の販売と廃棄物の引取りが一体として行われることから、製品市場における競争に与える影響が大きく、また、事業者のリサイクル等に要する費用を削減していこうとする意欲を損ない、効率的なリサイクル等の推進そのものを阻害することになると考えられ、リサイクル市場における競争に与える影響も大きく、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第三条又は第八条第一号)。

(2) 徴収時点に関する自主基準の設定

 事業者が新たにリサイクル等に対する取組を行う場合、リサイクル費用を廃棄物の回収時に需要者から徴収する方法や製品の販売時にあらかじめ製品の販売価格に含めて徴収する方法などがあるところ、事業者が共同して又は事業者団体が、需要者にとって分かりやすい徴収の仕組みとし、リサイクル等の円滑な推進のため、リサイクル費用の徴収時点を廃棄物の回収時とするか、製品の販売時とするかについて自主的な基準を設定したとしても、その遵守を強制しないものである限り、独占禁止法上問題ないものと考えられる。

(3) 表示方法に関する自主基準の設定

 リサイクル等に対する取組に相応の追加的コストが継続的に必要とされることから、需要者の理解を得るため、事業者が共同して又は事業者団体がリサイクル費用に関する表示についてひな型を示すなど自主的な基準を設定したとしても、その遵守を強制しないものである限り、独占禁止法上問題ないものと考えられる。ただし、事業者が共同して又は事業者団体が具体的なリサイクル費用の額を取り決めることは、製品の販売価格の引上げにつながることから、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第三条又は第八条第一号)(事例2参照)。

6 デポジット制度の構築について

(1) リサイクル・システムの一つとして、空瓶等の廃棄物の回収率を上げるため、例えば、販売業者の団体がデポジット制度(製品販売時に一定額の預り金を徴収して販売し、廃棄物の回収の際に同一の額を払い戻すものをいう。以下同じ。)を導入する場合がある(事例7及び事例8参照)。
 デポジット制度が円滑に定着し、消費者が廃棄物を販売業者等に持ち込むことが一般的になった場合には、預り金の額と払い戻す額は同じであることから、預り金の額の多寡は、消費者の製品購入の選択に影響を与えるおそれは小さく、事業者にとって直接的な競争手段とはならない。
 したがって、例えば、空瓶、空缶、電池等について、その回収率を上げるため、事業者が共同して又は事業者団体が、デポジット制度を構築するに当たり、製品販売時に徴収する預り金の額と廃棄物の回収時に払い戻す額とを同一とし、これらの額を事業者間で一律になるようにしても、通常は、独占禁止法上問題ないものと考えられる。

(2) ただし、事業者が共同して又は事業者団体が、預り金の額に廃棄物の回収に要する費用を含めるため、預り金の額を払い戻す額よりも高く設定した上で、それぞれの額を一律にすることを取り決める場合があるが、廃棄物の回収に要する費用をどれだけ消費者に負担してもらうかは、事業者の自主的な判断にゆだねられるべきものであり、このような取決めは、製品の販売価格の引上げにつながることから、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第三条又は第八条第一号)。

事例1 メーカーによるリサイクル・システムの構築

1 事例の概要

 A社等五社は、大手家電メーカーである。特定家庭用機器再商品化法(以下「家電リサイクル法(外部サイトへリンク 新規ウインドウで開きます)」という。)は、家電メーカーに対し、自ら製造した特定家電4品目(エアコン、テレビ、冷蔵庫及び洗濯機)について、それらが廃棄された際の引取義務、再商品化等実施義務、再商品化等料金の公表義務等を課している。家電メーカーは、特定家電四品目の廃家電の引取り・再商品化のためのシステムを構築する必要があるが、構築に要するコストの負担の面から、メーカーが単独で構築するのは困難な状況にある。
 このため、A社等五社は、以下のようなリサイクル・システムの構築を検討している。

(1) 全国に再商品化のための処理施設を設置する。

(2) 家電小売店が排出者から引き取った廃家電を持ち込む場所(以下「指定引取場所」という。)を全国に整備し、指定引取場所から再商品化施設までの廃家電の運搬を運搬業者に委託する。

(3) リサイクル・システムの管理・運営のための共同出資会社を設立する。

 なお、A社等五社以外にも、大手家電メーカー二社が共同で、同様のリサイクル・システムの構築を検討している。また、中小家電メーカーはこれら大手家電メーカーのシステムの利用を検討している。

2 独占禁止法上の考え方

(1) 本件は、共同事業として行われるリサイクル等に要するコストが再商品化等料金として当該製品の販売価格とは別に請求される場合である。本件リサイクル・システムの参加者は大手家電メーカーであり、また、共同化の対象も、指定引取場所の整備、指定引取場所から再商品化施設までの運搬及び再商品化業務まで及ぶが、これら共同事業として行われるリサイクル等に要するコストは、当該製品の販売価格に比して一般的には小さいものと考えられることから、通常は、特定家電四品目の製品市場の競争に与える影響は小さいものと考えられる。
 ただし、A社等五社が、中小家電メーカーによる本件リサイクル・システムの利用を合理的な理由なく拒絶することにより、当該中小家電メーカーの事業活動を困難にさせるおそれがある場合には、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第二条第九項第一号(共同の取引拒絶))。

(2) また、本件ではリサイクル・システムが複数存在していることから、直ちにリサイクル市場における競争を制限するものとはいえない。
 ただし、本件リサイクル・システムの利用者に対し、別途リサイクル・システムを構築することを不当に制限したり、他のリサイクル・システムの利用を不当に制限するような場合には、独占禁止法上問題となるおそれがある(一般指定第一一項(排他条件付取引)又は第一二項(拘束条件付取引))。

事例2 団体によるリサイクル・システムの構築とリサイクル費用の表示方法

1 事例の概要

 Aは、消耗品である甲製品を製造するメーカーのほとんどすべてが加入する団体である。甲製品は販売店を通じて消費者に販売される。これまで甲製品は、使用後は不燃物として消費者が廃棄していたところ、環境問題に対する意識の高まりから、甲製品の再資源化の推進が指摘されるようになってきた。そこで、団体Aでは甲製品の再資源化施設を設置するとともに、使用済み製品を回収するため個々の販売店に回収ボックスを設置し、回収業者に委託して一定期間ごとに使用済み製品を収集させることを検討している。
 また、これら使用済み製品の回収、再資源化に要する費用(以下「リサイクル費用」という。)は、各会員に回収個数に応じて割り振られるが、再資源化の実効性を高めるにはユーザーにも費用負担を求める必要があることから、リサイクル費用の表示について、表示方法(例えば、甲製品のパッケージに「リサイクル費用○○円」と表示することなど)を示したひな型を作成することを検討している。

2 独占禁止法上の考え方

(1) 本件リサイクル・システムは、甲製品メーカーの団体が行うものであり、共同化の対象は、使用済み製品の回収から再資源化業務まで及ぶが、甲製品の価格に対するこれら共同事業として行われるリサイクル等に要するコストの割合が高くならない限り、通常は、製品市場の競争に与える影響は小さいものと考えられる。
 また、本件リサイクル・システムが現時点において当該業種で唯一のものであるとしても、共同化の必要性があり、他に代替的手段がない場合に、団体Aが会員以外の者による本件リサイクル・システムの利用を不当に制限したり、会員が独自にリサイクル・システムを構築することを不当に制限するものでない限り、リサイクル市場の競争に与える影響は小さいものと考えられる。

(2) また、団体Aが実効性のあるリサイクルのために、団体でリサイクル費用の表示方法についてひな型を作成することとしても、その遵守を強制しないものである限り、通常は、独占禁止法上問題とはならない。ただし、具体的なリサイクル費用の額を決定することは、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第八条第一号)。

事例3 団体によるリサイクル・システムの構築等

1 事例の概要

 Aは、化学製品である甲製品を製造するメーカーの大半が加入する団体である。団体Aでは、環境問題に対処するため、リサイクル・センターを設立し、甲製品の廃棄物を再資源化することを検討中である。
 具体的には、リサイクル・センターは、産業廃棄物処理業者に委託して、事業者が排出した廃棄物の回収・選別・粉砕等を行い、別のリサイクル事業者に再資源化を委託するものである。
 他方、リサイクル・センターの運営費用等については、甲製品を利用する各事業者にも負担を求めざるを得ないところ、甲製品の性質上、廃棄物の回収時に各事業者から直接当該費用を徴収することは困難であるため、甲製品メーカーが出荷する甲製品の販売価格に一定金額を上乗せし、上乗せ分を団体Aが甲製品メーカーから徴収することにより、リサイクル・センターの運営費用等を調達することを検討している。

2 独占禁止法上の考え方

(1) 本件リサイクル・システムは、国内の甲製品メーカーの大半が参加するものであり、共同化の対象は、廃棄物の回収から再資源化業務まで及ぶが、甲製品の価格に対するこれら共同事業として行われるリサイクル等に要するコストの割合が高くならない限り、通常は、甲製品市場の競争に与える影響は小さいものと考えられる。
 また、本件リサイクル・システムが現時点において当該業種で唯一のものであるとしても、共同化の必要性があり、他に代替的手段がない場合に、団体Aが会員以外の者による本件リサイクル・システムの利用を不当に制限したり、会員が独自にリサイクル・システムを構築することを不当に制限するものでない限り、リサイクル市場の競争に与える影響は小さいものと考えられる。

(2) また、運営費用の調達方法として甲製品の販売価格に一定金額を上乗せするよう決定することについては、甲製品の販売価格の引上げになることから、団体による価格制限行為として、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第八条第一号)。

事例4 メーカーによるリサイクル・システムの構築

1 事例の概要

 A社を含むメーカー数社(以下「A社等」という。)は事業者向け機械製品甲を生産しており、甲製品市場におけるシェアは約八〇%である。
 甲製品については、ユーザーが新製品に入れ替える際、甲製品のメーカーが旧製品を回収し、リサイクル事業者に委託して、部品等の再利用を行っている。しかし、ユーザーは複数のメーカーの甲製品を利用していることが多く、メーカーが回収する旧製品は、必ずしも自社製品に限らないことから、リサイクルを進めるためには、各メーカーは回収した旧製品の中から他社分を選別し、他のメーカーが回収した自社分と交換する必要がある。このため、選別作業の煩雑さからリサイクルが進まない状況にある。
 そこで、A社等は、旧製品のリサイクルを促進するため、以下のようなリサイクル・システムの構築を検討している。

(1) 各メーカーが共同出資して、旧製品をメーカー別に仕分けする業務を行う分別センターを設立する。

(2) 各メーカーは、回収した旧製品を分別センターに持ち込み、メーカー別の仕分けを委託するとともに、分別された自社製品を受け取り、部品等の再利用を行う。

(3) 分別センターの費用は、自社製品の受取台数に応じ、各メーカーが一律に支払う。

2 独占禁止法上の考え方

 本件リサイクル・システムは、甲製品のメーカーの約八〇%が参加するものである。しかしながら、共同化の対象は回収した旧製品のメーカー別の分別作業に限られることから、通常は、製品市場の競争に与える影響は小さいものと考えられる。ただし、A社等が共同して、A社等以外の甲製品メーカーに対して、本件リサイクル・システムの利用を合理的な理由なく拒絶し、又は制限することは、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第二条第九項第一号(共同の取引拒絶))。

事例5 団体によるリサイクル・システムの構築とリサイクル費用の徴収方法

1 事例の概要

 Aは、X市内の家電小売店の団体であり、X市内の家電小売店の大半が加入している。家電リサイクル法は、家電小売店に対し、特定家電四品目の廃家電について、排出者からの引取義務及び家電メーカーへの引渡義務等を課している。
 団体Aは、廃家電の効率的な収集・運搬のため、以下のような方法を検討している。

(1) X市内に廃家電の一時保管施設を設置し、各家電小売店が排出者から引き取った廃家電を搬入する。

(2) 一時保管施設から各家電メーカーの指定引取場所までの運搬については、団体Aが共同事業として運搬業者に委託する。

(3) 運搬に要する費用は、団体Aが各家電小売店から一律に徴収し、各家電小売店はこれら収集・運搬に要する費用を、引取料金として排出者に請求する。

 また、X市内の家電小売店にとって、このような引取料金は追加的な費用であるところ、仮にある会員が当該費用を消費者に請求しないと、他の会員も請求が困難となり、収集・運搬の確実な実施ができなくなることが懸念される。
 そこで、団体Aは、引取料金の回収を確実なものとするため、排出者に請求する引取料金を有料とする(無料とはしない)ことを検討している。

2 独占禁止法上の考え方

(1) 本件リサイクル・システムは、X市内の家電小売店の大半が参加するものであるが、共同化の対象は、一次保管施設の設置及び廃家電の指定引取場所までの運搬に限られることから、通常は、製品市場の競争に与える影響は小さいものと考えられる。ただし、特定の会員による利用を不当に拒否する場合には、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第八条第四号)。

(2) 家電リサイクル法では、家電小売店は引取料金を排出者に請求することができるとされているところ、団体Aがリサイクルを確実なものとするため、引取料金を有料とすることとしても、その遵守を強制しないものである限り、独占禁止法上問題とはならない。ただし、具体的な引取料金の額を決定することは独占禁止法上問題となる(独占禁止法第八条第一号)。

事例6 団体によるリサイクル費用の徴収方法

1 事例の概要

 Aは原材料甲を使用した製品(以下「乙製品」という。)のメーカーの団体であり、乙製品メーカーの九〇%以上が加入している。
 従来、乙製品のメーカーは、ユーザー(事業者)に新製品を販売する際に、乙製品の廃棄物を無料で引き取り、これを再資源化して甲を販売している。
 しかし、近年、甲については、景気の低迷から市場価格が下落しているのに加え、乙製品の廃棄物から甲を回収する際に生じる「その他廃棄物」について、従来は埋め立てていたところ、環境問題に対する意識の高まりから、埋立てに代わる適切な処理が求められるようになり、廃棄物の回収、再資源化等に要する費用(以下「リサイクル費用」という。)は、従来に比べ三~四倍に高騰している。
 これまでリサイクル費用は、乙製品の廃棄物から回収された甲の売却益により賄うことができたため、乙製品の廃棄物は無料で回収していたところ、上記のような状況の下で、それが困難となっている。
 そこで、団体Aでは乙製品の廃棄物の回収の際に、乙製品の本体価格とは別にリサイクル料金を徴収することを検討している。
 なお、乙製品については、法令によるリサイクル義務は課せられていない。

2 独占禁止法上の考え方

 本件は、製品の販売と廃棄物の引取りが一体として行われるものであるところ、再資源化等された甲の売却益でリサイクル費用を賄うことで、ユーザーに当該費用を請求していなかったものである。
 しかし、乙製品を取り巻く環境の変化に伴い、リサイクルのための新たな費用が生じたことが確実であれば、実効性のあるリサイクルの推進のために、同費用の負担をユーザーに請求せざるを得ないと考えられ、リサイクルを行うことが社会的に強く要請されている場合には、団体Aが乙製品の本体価格とは別にリサイクル料金を徴収することとしても、その遵守を強制しないものである限り、独占禁止法上問題とはならない。ただし、具体的なリサイクル料金の額を決定することは独占禁止法上問題となる(独占禁止法第八条第一号)。

事例7 団体によるデポジット制度の構築

1 事例の概要

 Aは消費財である甲製品のメーカー、流通業者及び小売店の団体であり、これら事業者の大半が加入している。団体Aではリサイクル推進の観点から使用済み製品の回収率を上げるため、以下のようなデポジット制度の構築を検討している。

(1) デポジット制度の管理・運営会社Bを設立する。

(2) メーカー、流通業者及び小売店は、甲製品のデポジットの額を一〇円とする。消費者は、甲製品を購入した小売店以外の小売店でも払戻しを受けることができる。

(3) 小売店は、消費者から引き取った使用済み製品をBに引き渡すとともに、Bから、当該小売店が負担した払戻額と手数料を受け取る。なお、手数料の額はBが決める。

(4) Bは、費用を支払った上で当該使用済み製品を再資源化業者に引き渡す。Bは、小売店に支払った額、再資源化費用及び管理費用を使用済み製品のメーカー別の個数に応じ、各メーカーに一律に請求する。

2 独占禁止法上の考え方

 団体Aがリサイクル推進の観点から、デポジット制度の管理・運営会社Bを設立し、デポジット制度の構築を行うこと自体は、通常は、甲製品市場の競争に与える影響はないものと考えられる。また、デポジットの額を一〇円とすることについては、預り金の額と払い戻す額が同じである限り、一般的には各事業者の競争手段を制限するものとはいえず、通常は、独占禁止法上問題とはならない。

事例8 団体によるデポジット制度の構築

1 事例の概要

 Aは、X市内における消費財である甲製品の小売店の団体であり、X市内の甲製品の小売店の大半が加入している。団体Aでは、甲製品の容器のリサイクルに積極的に取り組むこととし、その容器の回収率を上げるため、以下のようなデポジット制度の導入を検討している。

(1) 小売店は、団体Aの定めたシールを容器に貼るとともに、甲製品の販売価格にデポジット料一〇円と手数料五円を加えた額で販売する。

(2) 消費者から支払われたデポジット料一〇円は、団体Aが一括管理する。

(3) 消費者は、X市内であれば、甲製品を購入した小売店以外の小売店でも、シールの貼ってある容器を持ち込み、デポジット料の払戻しを受けることができる。

(4) 消費者にデポジット料を支払った小売店は、団体Aから同額の支払を受ける。

2 独占禁止法上の考え方

 小売店の団体がデポジット制度を導入し、一定の預り金を徴収することを決定しても、預り金の額と払い戻す額が同じである限り、通常は、独占禁止法上問題とはならない。
 しかしながら、デポジット制度の導入に伴う小売店の手数料(いわゆるリサイクル費用)については、どれだけ消費者に負担を求めるかは、小売店の自主的な判断にゆだねられるべきところ、これを団体Aが五円とすることは、甲製品の販売価格の引上げにつながることから、独占禁止法上問題となる(独占禁止法第八条第一号)。

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