家電メーカーが、家電製品の一般消費者への販売に至るまでに生じるリスクと費用を自ら負担することを前提として、取引先事業者に対し、一般消費者への販売価格を指示することについて、独占禁止法上問題となるものではないと回答した事例
1 相談者
X社(家電メーカー)
2 相談の要旨
⑴ X社は、流通事業者を通じて自社が製造した家電製品を一般消費者に販売している。X社の家電製品の流通経路には次の二つがある。
ア X社から小売業者を通じて一般消費者に販売する場合(以下「直接取引」という。)
イ X社から卸売業者及び小売業者を通じて一般消費者に販売する場合(以下「卸売取引」という。)
前記ア及びイいずれの取引についても、以下では卸売業者及び小売業者を併せて「取引先事業者」という。
⑵ 直接取引の場合、X社は、小売業者との間で、家電製品の売買等に関する基本契約(以下「基本契約」という。)を締結している。また、自社が製造する幅広い分野の家電製品(以下「対象家電製品」という。)について、小売業者との間で、基本契約に加え、次のような覚書(以下「本件覚書」という。)を締結することを検討している。
ア X社と小売業者は、対象家電製品について、基本契約に基づく個別契約により売買を行う。
イ X社は、小売業者に対し、X社の指定する価格で対象家電製品を販売することを義務付ける。指定する価格は、競合品の市況等に合わせて変更することがある。
ウ X社は、商品受領時の検査義務及び商品に契約不適合を発見した場合の売主(X社)への通知義務が小売業者によって履行されたか否かにかかわらず、小売業者に納入した対象家電製品について契約不適合責任を負い、当該対象家電製品に契約不適合が発見された場合には、X社の費用負担により当該対象家電製品の返品を受けるとともに、速やかに代替商品を納入する。
エ 小売業者に納入後の対象家電製品について滅失、毀損等の損害が生じた場合(例えば、自然災害等に伴う損害が生じた場合)には、小売業者が善管注意義務を怠ったことに起因するものを除いて、X社が当該損害を負担する。
オ 小売業者は、対象家電製品の納品日以降、いつでも、自らの判断により対象家電製品を返品することができる。X社は、返品費用を負担するとともに、代金相当額を返金する(納品月の末日までの返品の場合には、小売業者は代金の支払自体が不要)。
さらに、X社は、本件覚書の締結に際し、小売業者に対し、本件覚書の内容を実施するに当たり生じる在庫保管費用や輸送費用等対象家電製品の一般消費者への販売に至るまでに生じる費用をX社が負担すること、当該費用の項目及びその負担方法並びに当該費用の項目に不足があるなどとして協議を希望する場合にはその旨を申し出ることができることを明示した上で、小売業者から申出があった場合、当該申出の内容について小売業者と協議し、これら一連の過程で確認された費用を自ら負担することも併せて検討している。
⑶ X社は、卸売取引においても、取引先事業者を通じ、X社の指定する価格で対象家電製品を一般消費者に販売することとしており、直接取引とスキームは異なるものの、X社は、直接取引と同様に対象家電製品の一般消費者への販売に至るまでに生じるリスクと費用を自ら負担すること等を検討している。
このようなX社の取組(以下「本件取組」という。)は、独占禁止法上問題となるか。
○本件取組の概要図

3 独占禁止法上の考え方
⑴ 正当な理由がないのに、事業者が自己の供給する商品を購入する相手方の当該商品の販売価格(再販売価格)の自由な決定を拘束することは、不公正な取引方法(独占禁止法第2条第9項第4号(再販売価格の拘束))に該当し、違法となる(独占禁止法第19条)。
しかし、事業者の取引先事業者が単なる取次ぎとして機能しており、実質的にみて当該事業者が販売していると認められる場合には、当該事業者が当該取引先事業者に対して価格を指示しても、通常、違法とはならない。
そのような例としては次のものがある。
【参考】流通・取引慣行ガイドライン第1部第1-2⑺①
委託販売の場合であって、受託者は、受託商品の保管、代金回収等についての善良な管理者としての注意義務の範囲を超えて商品が滅失・毀損した場合や商品が売れ残った場合の危険負担を負うことはないなど、当該取引が委託者の危険負担と計算において行われている場合
⑵ 基本契約において、X社と取引先事業者との取引は、売買とされており、一般消費者に対する委託販売ではない。しかし、本件取組におけるX社と取引先事業者との間の取引については
ア 取引先事業者は、納品日から一般消費者等への販売までの間、いつでも対象家電製品を返品することが可能であり(X社は、返品費用を負担するとともに、代金相当額を返金する。)、対象家電製品に係る売れ残りのリスクについては、実質的にX社が負っていること
イ 一般消費者への販売前の対象家電製品に契約不適合があった場合の責任については原則としてX社が負うこと、また、商品の滅失、毀損等の対象家電製品に係る在庫管理上のリスクについても、原則としてX社が負っており、取引先事業者は、善管注意義務を怠ったことに起因するものを除いて、当該リスクを負担しないこと
ウ 一般消費者に対する販売における代金回収方法は、現金やクレジットカードによる決済が用いられるなど、実質的に代金回収不能のリスクを取引先事業者が負担することはないこと
エ 取引先事業者に対し、本件覚書の内容を実施するに当たり生じる在庫保管費用や輸送費用等対象家電製品の一般消費者への販売に至るまでに生じる費用をX社が負担すること、当該費用の項目及びその負担方法並びに当該費用の項目に不足があるなどとして協議を希望する場合にはその旨を申し出ることができることを明示した上で、取引先事業者から申出があった場合、当該申出の内容について取引先事業者と協議し、これら一連の過程で確認された費用を自ら負担することから、X社が、対象家電製品の一般消費者への販売に至るまでに生じるリスクと費用を自ら負担することを前提として行われているものということができる。すなわち、本件取組において、取引先事業者は単なる取次ぎとして機能しているにすぎず、実質的にみてX社が一般消費者に対して対象家電製品を販売しているといえる。
したがって、本件取組は、再販売価格の拘束として独占禁止法上問題となるものではない。
4 回答
本件取組は、独占禁止法上問題となるものではない。