令和7年5月12日
公正取引委員会
第1 下請法の運用状況
1 下請法違反行為に対する勧告等
(1) 勧告件数
令和6年度の勧告件数は21件。
勧告の対象となった違反行為類型の内訳については、不当な経済上の利益の提供要請が11件、下請代金の減額が8件、やり直し等が2件、受領拒否が1件、返品が1件、買いたたきが1件、購入等強制が1件となっている(注)。
(注)1件の勧告事件において複数の違反行為類型について勧告を行っている場合があるため、違反行為類型の内訳の合計数と勧告件数とは一致しない。
【勧告件数及び自発的申出件数(勧告相当案件)の推移】
(注)自発的申出の詳細については後記3参照。
(2)指導件数
令和6年度の指導件数は8,230件。
【指導件数の推移】
2 下請事業者が被った不利益の原状回復の状況
令和6年度においては、下請事業者が被った不利益について、親事業者149名から、下請事業者3,026名に対し、下請代金の減額分の返還等、総額13億5279万円相当の原状回復が行われた。
【原状回復額の推移】
【原状回復を行った親事業者数・原状回復を受けた下請事業者数の推移】
3 下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者に係る事案
公正取引委員会は、親事業者の自発的な改善措置が下請事業者が受けた不利益の早期回復に資することに鑑み、公正取引委員会が調査に着手する前に、違反行為を自発的に申し出、かつ、下請事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置等、自発的な改善措置を採っているなどの事由が認められる事案については、親事業者の法令遵守を促す観点から、下請事業者の利益を保護するために必要な措置を採ることを勧告するまでの必要はないものとして取り扱うこととし、この旨を公表している(平成20年12月17日公表)。
令和6年度においては、親事業者からの違反行為の自発的な申出は32件であった。また、同年度に処理した自発的な申出は36件であった。
令和6年度においては、親事業者からの違反行為の自発的な申出により、下請事業者525名に対し、下請代金の減額分の返還等、総額3億5328万円相当の原状回復が行われた(前記2記載の金額に含まれている。)。
【自発的な申出の件数等】
第2 中小事業者等の取引適正化に向けた取組
公正取引委員会は、令和3年12月27日、「パートナーシップによる価値創造のための転嫁円滑化施策パッケージ」が取りまとめられたことを踏まえ、適正な価格転嫁の実現に向けて、従来にない取組を進めてきた。令和6年度における具体的な取組内容及び今後の取組は以下のとおり。
1 企業取引研究会・下請法改正の検討
公正取引委員会は、適切な価格転嫁を我が国の新たな商慣習としてサプライチェーン全体で定着させていくための取引環境を整備する観点から、優越的地位の濫用規制の在り方について、下請法を中心に検討することを目的として、令和6年7月以降、関係有識者からなる「企業取引研究会」を中小企業庁との共催で6回開催した。また、同研究会における議論を経て、「企業取引研究会報告書」を取りまとめ、同年12月25日に公表した。
企業取引研究会報告書の提言等を踏まえ、近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を受け、発注者・受注者の対等な関係に基づき、取引の適正化を通じてサプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていくため、下請法について、協議を適切に行わない代金額の決定の禁止、手形による代金の支払等の禁止、規制の対象となる取引への運送委託の追加等の措置を講ずること等を内容とする「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律案」が、令和7年3月11日、第217回通常国会に提出された。
2 独占禁止法の執行強化
(1) 令和6年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査の実施
公正取引委員会は、令和5年度に実施した「独占禁止法上の「優越的地位の濫用」に係るコスト上昇分の価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(以下「令和5年度特別調査」という。)の結果等を踏まえ、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(令和5年11月29日内閣官房・公正取引委員会。以下「労務費転嫁指針」という。)の取組状況のフォローアップ等を目的として、11万名を超える事業者に対して「令和6年度価格転嫁円滑化の取組に関する特別調査」(以下「令和6年度特別調査」という。)を行い、令和6年12月16日に結果を取りまとめ、公表した。
具体的には、令和6年6月に受注者・発注者の双方の立場での回答を求める書面調査(11万名)を実施した。また、令和5年度特別調査において注意喚起文書の送付対象となった8,175名に対して、フォローアップ書面調査を実施した。これらの書面調査を踏まえて立入調査を369件実施し、労務費転嫁指針を知っていたものの、発注者としての行動指針及び発注者・受注者共通の行動指針のうち、一つでも指針に沿った行動を採らなかった発注者9,388名及び独占禁止法Q&A(公正取引委員会ウェブサイトに掲載している「よくある質問コーナー(独占禁止法)」のQ20)に該当する行為が認められた事業者6,510名に対し、注意喚起文書を送付した。さらに、令和6年5月から、令和5年度特別調査において事業者名公表の対象となった10名に対して、フォローアップ調査を実施した。当該10名は、価格転嫁円滑化に関する取組により、全体としては価格転嫁円滑化を相当程度進めていたが、一部の事業者については受注者から価格転嫁が円滑に進んでいないとの指摘も寄せられており、指摘された事業者にあっては、経営トップから価格協議の担当部門までの事業者全体としての当該取組の徹底等が求められる結果となった。
また、令和5年11月8日に公表した「価格転嫁円滑化に関する調査の結果を踏まえた事業者名の公表に係る方針について」に基づき、事業者名公表に係る個別調査の対象となり得ると認められる発注者に対し、事業者名の公表があり得る旨を予告した上で個別調査を実施し、当該個別調査の結果、令和7年3月14日、相当数の取引先に対して協議を経ない取引価格の据置き等が確認された事業者3名について、独占禁止法第43条の規定に基づきその事業者名を公表した。
(2) 荷主と物流事業者との取引に関する調査の実施
公正取引委員会では、荷主による物流事業者に対する優越的地位の濫用を効果的に規制する観点から、独占禁止法に基づき「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」を指定し、荷主と物流事業者との取引の適正化に向けた調査を継続的に行っている。
当委員会は、令和5年9月に荷主3万名に対し、令和6年1月に物流事業者4万名に対し、それぞれ書面調査を開始し、現下の労務費、原材料価格、エネルギー等のコスト上昇分の協議を経ない取引価格の据置き等が疑われる事案について、荷主121名に対する立入調査を実施した。そして、同年6月6日、調査結果を取りまとめ、公表した。同調査においては、独占禁止法上の問題につながるおそれのあった荷主573名に対し、具体的な懸念事項を明示した注意喚起文書を送付した。
また、令和6年においても荷主と物流事業者との取引に関する調査を実施しており、同年10月18日に荷主を対象とした調査票を3万通送付し、令和7年1月31日に物流事業者を対象とした調査票を4万通送付した。今後、書面調査等の結果を踏まえ、同年6月目途に調査結果を取りまとめ、公表する。
(3) 労務費転嫁指針の周知徹底
公正取引委員会は、労務費転嫁指針について、事業者向けの説明会を実施したほか、中小企業向けのプッシュ型広報・広聴企画の実施や、啓発動画の作成、テレビ・ラジオCMでの広告など、同指針の周知を進めてきた。令和6年11月からは、政府広報と連携した動画広告として、電車やタクシーなどの交通広告のほか、Web広告などでの周知も実施した。
また、当委員会は、全国で開催された「地方版政労使会議」のうち、44都道府県の会議に参画し、労務費転嫁指針の周知を実施した。
3 独占禁止法及び下請法の考え方の周知徹底
(1)「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」の改正
公正取引委員会は、労務費転嫁指針等を踏まえ、下請法上の買いたたきの解釈・考え方が更に明確になるよう、令和6年5月27日、「下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準」(平成15年公正取引委員会事務総長通達第18号。以下「下請法運用基準」という。)の改正を行った。改正後の下請法運用基準の内容については、解説動画を公開するとともに、下請法の講習会等の機会を通じて周知徹底を図っている。
(2) 「手形が下請代金の支払手段として用いられる場合の指導基準の変更について」の発出
公正取引委員会は、令和6年4月30日、手形等が下請代金の支払手段として用いられた場合の指導基準及び指導方針を変更し、手形等を下請代金の支払手段として用いる場合においてほぼ妥当と認められるサイトの基準について、業種を問わず60日にするとともに、親事業者がこれを超える長期の手形等を支払手段として用いる場合、割引困難な手形(一括決済方式又は電子記録債権の場合は支払遅延)に該当するおそれがあるとして、その親事業者に対し指導することとし、令和6年11月1日から運用を開始した。また、指導基準等の変更に伴い、公正取引委員会及び中小企業庁の連名で、サプライチェーン全体での支払手段の適正化及び支払手段の改善に取り組む事業者の資金繰りへの配慮について、それぞれ関係する事業者団体や省庁等に要請した。
さらに、新たな指導基準等の運用開始に当たり、公正取引委員会及び中小企業庁の連名で、令和6年度に実施した下請法に基づく定期調査において、サイトが60日を超える手形等により下請代金を支払っており、かつ、現金払への変更や手形等のサイトを60日以内に短縮する予定はないとした親事業者約700名に対し、令和6年11月1日以降に手形等により下請代金を支払う場合には、手形等のサイトを60日以内に短縮することを求める注意喚起を行った。
(3) 相談対応の強化
公正取引委員会は、相談窓口において、下請法及び優越的地位の濫用に係る相談を受け付けている。令和6年度においては、下請法に関する相談が17,883件、優越的地位の濫用に関する相談が5,073件の合計22,956件の相談に対応した。また、令和3年9月8日、「不当なしわ寄せに関する下請相談窓口」を設置し、フリーダイヤル経由で電話相談に対応している。
当委員会及び中小企業庁は、中小事業者等が匿名で情報提供できる「違反行為情報提供フォーム」を設置し、買いたたきなどの違反行為が疑われる親事業者に関する情報を受け付けており、令和6年度は、当委員会に対して876件の情報が寄せられた。
また、当委員会は、事業者が匿名で情報提供できる「労務費の転嫁に関する情報提供フォーム」を設置し、労務費という理由で価格転嫁の協議のテーブルにつかない事業者等に関する情報を広く受け付けており、令和6年度は、当委員会に対して160件の情報が寄せられた。
「違反行為情報提供フォーム」 (買いたたきなどの違反行為が疑われる親事業者に関する情報提供フォーム) https://www.jftc.go.jp/soudan/jyohoteikyo/kaitataki.html https://www.jftc.go.jp/soudan/jyohoteikyo/romuhitenka.html |
「不当なしわ寄せに関する下請相談窓口」 (不当な下請取引) ゼ ロ ゼロ 1 1 0 番 電話番号 0120-060-110 ※固定電話のほか、携帯電話からも御利用いただけます。 ※公正取引委員会の本局又は地方事務所等の相談窓口につながります。 【受付時間】10:00~17:00 (土日祝日・年末年始を除く。) |
(4) 不当なしわ寄せ防止に向けた普及啓発活動の拡充・強化
ア エンフォースメントとアドボカシーの一体的運用
下請法違反行為に係る個別事件においては、必要に応じて、勧告事案があった業界団体を所管する関係省庁と連携しながら、業界団体による自主点検や、業界に向けた研修・講演会などを実施し、業界全体を挙げた下請法等に関するコンプライアンスの取組を促している。令和6年度においては、4件の勧告事件に関連して、関係省庁と連携した取組を実施した。
イ 下請取引適正化推進月間に関する取組
公正取引委員会は、中小企業庁と共同して、毎年11月を「下請取引適正化推進月間」と定め、下請取引適正化の推進に関する講習を実施するなどの普及啓発活動を実施している。令和6年度においては、各種媒体を通じた広報やポスターの掲示に加え、下請取引適正化推進講習会テキストの内容を繰り返し習得できる動画を配信した。
また、「下請取引適正化推進月間」を効果的にPRすることを目的として、キャンペーン標語についての一般公募を実施し、令和6年度の特選作品として「賃上げと 労務費転嫁を 両輪に」を選定した。
ウ コンプライアンス確立への積極的支援
公正取引委員会は、令和6年度において、①下請法等に関する基礎知識を習得することを希望する者を対象とした基礎講習(講習会37回、講習動画の配信)、②下請法等に関する基礎知識を有する者を対象とした事例研究を中心とした応用的な内容に関する応用講習(講習動画の配信)、③業種ごとの実態に即した分かりやすい具体例を用いて説明を行う業種別講習(講習動画の配信)、④事業者団体が開催する研修会等への出講(講師派遣237回)を実施した。
エ 親事業者に対する下請法遵守のための年末要請
年末にかけての金融繁忙期においては、下請事業者の資金繰り等について厳しさが増すことが懸念されることから、公正取引委員会及び経済産業省は、下請法の遵守の徹底等について、公正取引委員会委員長及び経済産業大臣の連名の文書で要請している。令和6年度においては、関係事業者団体約1,700団体に対し、令和6年11月15日に要請を行った。
オ 下請取引等改善協力委員への意見聴取
公正取引委員会は、下請法等の効果的な運用に資するため、各地域の下請取引等の実情に明るい中小事業者等に下請取引等改善協力委員を委嘱している。令和6年度における下請取引等改善協力委員(定員)は153名である。令和6年度においては、下請取引等改善協力委員から、労務費、原材料価格、エネルギーコストの上昇に伴う下請代金の見直しなどについて意見聴取を行った。
関連ファイル
(印刷用)(概要)(令和7年5月12日)令和6年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組(762 KB)
(印刷用)(本文)(令和7年5月12日)令和6年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引適正化に向けた取組(437 KB)
問い合わせ先
公正取引委員会事務総局経済取引局取引部
下請取引調査室 電話03-3581-3374(直通)(第1関係)
企業取引課 電話03-3581-3373(直通)(第2関係)
ホームページ https://www.jftc.go.jp/
(下請法に係る相談・申告等) https://www.jftc.go.jp/shitauke/madoguti.html)